足音

雨夢

第1話 それは突然のことだった

 伊藤里奈子。鞄のネームプレートにはそう記されている。代わり映えのない名前だとつくづく思う。

 なんの変哲もない日常。朝寝坊をして、ギリギリに学校に着いて、昼には友達と駄弁り、授業が終われば帰路につく。そんな他愛も無い日常


 ツカ……ツカ……ツカツカ……ツカツカ……。


「?」

 てっきりローファーの靴底が剥がれているものだと思い、目を遣る。しかし、そこには何の傷もなかった。

 気の所為か。そう思い直して歩み出す。

 

 ツカ……ツカ……ツカツカ……ツカツカ……。


「誰!?」

 後ろを振り返るも、人の気配はない。ただ、。しばしの間静寂が流れる。

「まさか、ね」

 再び前を向いて商店街を抜ける。さっきよりも気持ち急ぎ足で。そうして抜けた先に横断歩道が――なかった。

「……え?」

 


 ツカツカ……ツカツカ……ツカツカ。


 薄気味悪い足音だけが続く。

「何!?」

 後ろを振り返る。振り返った先にあったのは――この世のものとは思えない異形の者だった。

「う……あ……」

 異形の者はゆっくりと私に近づいてくる。

「いや……いや……」

 ずと後ずさりをする。私の意識は途絶えた。


 次に目覚めた時、私は暗闇の中にいた。

「え……ここどこ……?」

 暗闇の中に一筋の光が差し込んだ。導かれるようにそちらへ歩みを進める。

「なに……これ……」

 その先に一台のテレビがあった。そこに映し出されていたもの。それはだった。いや、正確にはだった。


「おはよー里奈ちゃん」

「うん、おはよう……」

「今日は珍しく早いね? いつも遅刻ギリギリなのに」

「今日は目覚めが良かったのよ……」

 最後に不気味な笑いを浮かべたナニカは、異形の者としての正体を現し――。


「イヤーーーーーーーー!!!」



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

足音 雨夢 @amamu3469

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る