死ぬ筈だった盗賊の俺はそれでも盗賊をやめない!

ウメとモモ

第1話 盗賊になったあの日のこと


これから長いようで短い………俺の今までの人生について話しを聴いてくれないか?


なあに!一時間も掛からないから聴いてくれよ?


な!?



え?お前の話からしたい?



王道の話なんか間に合ってるからまずは俺の話からだ!良いから良いから!




【勇者の話】よりも俺の【小悪党】の武勇伝からだ!






じゃあ話すぞ?寝ちゃだめだからな!




ーーーー

ーーー

ーー










俺はしがない小さな村に捨てられていたバン。その村にいた子供のいない夫婦に育てられた男だ。

名前も本当は【バンディット】らしいがあまり良い名前じゃないらしく拾ってくれたパパとママはバンとして育てられた。


幼少期の頃は病弱だったがスクスクと成長して同年代と比べても体は小さかったがケンカは誰よりも強くて足も早かった。所謂ガキ大将だったな。平和な村で子供らしく生活していた。


村の近くにある森では浅い所にもたまにモンスターが現れるんだけど子供ながらにやっつけることもできた。


その時は落とし穴を作ってその付近にモンスターをおびき寄せて落とすことに成功し石を投げてやっつけた。


村の大人にバレて怒られもしたがそれよりもモンスターに連れてかれたり食べられたりしたらどうするのか本気で心配された。皆良い人達だった。


その村は50人にも満たない村だったので皆が家族のような存在だ。だから皆が親であり兄弟であり家族のような存在だったんだ。


この生まれた村で一生を生きて誰かと結婚して子供を作っておじいちゃんになって孫が出来て争いもそんなに無い生活をして


そして死んでくものだとずっと思ってた。



それなのに10歳になった俺の誕生日。



スタンピートは起きてしまったんだ。


本当なら俺の誕生日がパパやママ。そして友達が祝ってくれる誕生日。村の皆が幸せそうにして俺を祝福してくれる。そんな俺の幸せな1日になる筈だったのにスタンピードが起きてしまった。



村の皆は必死に戦った。



村の大人には強い人もいた。熊にだって勝っちゃうような強い人だ。



【魔法】を使える人もいて元々お城で働いてた人もいた。この魔法を使える人は引っ越してきたばかりだったな。



最初はモンスター達を強い大人達が倒してた。



村の皆も強い大人達がいたから安心した顔をしてた。スタンピード事態は初めてだったけど明日からはまたいつもと同じように平和な日が来ると思っていたんだ。






でも黒い奴が現れて一瞬で強い大人達がヤられたんだ。


今なら分かるがあの時のモンスターがスタンピードを起こしてたのは【魔族】が関わってたんだと思う。





小さな子供はモンスターから隠れる為に地下室に村の大人達が連れていったんだけど、俺と隣に引っ越してきた女の子だけは木登りをしていてそのまま木の上に隠れてたんだ。




「バンちゃん………アタシ怖いよぅ………。」



「シシリアちゃん………大丈夫だよ?見つかっても僕が!僕が守ってあげるから!」



あの時は俺もまだまだ子供で目の前で頼りになる大人達が次々に動かなくなって行くのが怖かったが、それよりも目の前の小さな女の子。初恋の女の子を守りたいという気持ちで強くいられた。




「おい!この村に【聖女】がいる筈だ!何処に隠した!?」



黒い奴………魔族は村に引っ越してきた魔法を使える人を生かして何かを叫んでいる。


「聖女?なんの事だ?こんな小さな村に聖女様がいるわけないだろ?」



「嘘をつくな!!この村に聖女がいるのは分かっているんだ!早く吐けば苦しまず殺してやるぞ!?」




どうやらあの魔族はこの村に聖女を探しに来たようだった。


シシリアと一緒に来た強い魔法を使える大人は何も言わないと分かると魔族に殺されてしまい村の皆も次々に動かなくなっていく。



「聖女なんて凄い人こんな小さな村にいるわけ無いのに……あいつら…許せない!」



今までは平和に生活してきた村が。家族の様に育ってきた皆が魔族とモンスターによって蹂躙される様を見続けていた。


本当なら今頃は僕の誕生日を祝ってタマにしか食べれないご馳走を村の皆で食べれる筈が

悲惨な目にあってることで現実味がなかったんだ。だからその光景に目を反らさず見続けていることが出来たが、俺とシシリアちゃんがいつかアイツラにばれてしまうんじゃないか。

俺達も大人達のようになってしまうんじゃないかと怖かったがそれよりも平穏だった生活を軽々と【奪っていく】あいつらが憎かった。



そして見たこともない【聖女】に酷いことを思ってしまった。


聖女さえアイツらに見つかれば、捕まればこんなことにならなかったのにと。





「僕が………僕が強かったらあいつらなんかに皆を【奪われなかったのに】!!」



そう言うとシシリアチャンは泣きそうな声で俺に訴えて来たんだ。



「ごめんなさい………ワタシのせいなの。」


「え………それってどうゆうこと?」



あの時の僕は無知で何も知らない



力もない



「実は私ね………逃げてきたの。お城に沢山のモンスターが攻めてきて。ごめんなさい。

ごめんなさいごめんなさい。ごめんなさい、ごめ………」





本当は分かってたんだ。でもそれ以上は初恋の女の子を憎みたくなくて聞けなかった。


ずっとごめんなさいと呟くシシリアちゃんを何とか守りたくて震える手で抱き締めていた。


隠れてきた子供達もモンスターと魔族に見つかり聖女じゃないと分かるとあいつらに皆の命を【奪われてしまった】。


早くいなくなってくれ。そう思いながら震えて隠れていた。


いつの間にか魔族とモンスターがいなくなり僕とシシリアちゃんは木から降りた。


木から降りたすぐ………それはモンスターや魔族がいなくなって間もないぐらいに目の前に【勇者】が現れた。



何でもっと早く来てくれなかった?そうすれば僕の………俺の大事な人達は【奪われなかったのに】!!





「【聖女】だな?


俺は【勇者】のリバースだ。


俺と一緒に来て貰おうか?


………なぜだ?なぜ自我が崩壊していない?まぁ良い。それでも大筋は変わらないだろう。


1番最初が違っても本題がなくなる訳じゃない。」



勇者はそう言ってシシリアちゃんの腕を強引に掴み連れてこうとする。




「いや!!ばんちゃん!助けてええ!!」



「シシリアちゃん!?やめろ!!シシリアちゃんから手を離せ!!」



僕はそう言うとシシリアちゃんが捕まれている手を振りほどこうと掴みかかる。



コイツも魔族と同じなんだ。俺の元から全てを【奪っていく】つもりなんだと。あの時はそう確信していた。




「………お前はなぜ生きている?


どういうことだ?聖女以外に生きてる者がいるなんて………聖女が五月蝿いな、スリープ!!」




「いやあああ!!………ば、ばんち………くぅ。」


勇者がそう言うとシシリアちゃんは一瞬で寝てしまった。どうやら【スリープ】の魔法を使って眠らされたようだ。





「シシリアちゃんをはなせえええ!!」



あの時はシシリアちゃんを守る為に必死だった。


【聖女以外に生きてる僕】に対して不思議そうな顔をしてたことも疑問に思わなかったんだ。


なぜタイミング良く魔族がいなくなった瞬間に現れたのか?


勇者がなぜ、こんな小さな村に聖女がいるのか確信してるのか?


全く不思議に思わなかったんだ。





「………目障りだ。」



勇者がそう呟くと僕は軽々と吹っ飛ばされて登っていた木に激突する。



「グハっ………シシリアちゃんを………


………はなせええええ!」





激突した痛みで意識は朦朧とするが勇者に飛び掛かっていく。



「グハアアア!!


ぅう………


シシリア………


ちゃん………」



でも勇者に今度は腹を蹴られてまた吹っ飛ばされた。あばらが何本か折れてたんだろう。息をするだけで辛くて普通の子供なら立つことなんてしないだろう。



それでも俺は立ち上がる。シシリアちゃんを守るのは僕だ!!僕からもう何も奪わせない!!



そう思いながら勇者に立ち向かったんだ。




「おお、根性はあるようだな?


コイツはもしかして………【鑑定】!!」



勇者はそう言うと僕の頭を簡単に鷲掴みにした。勇者の動きが早くていつの間にか僕は宙ぶらりんの状態になってい。





「………ダメだなやっぱり【称号】どころか【スキル】もないか。属性も無属性しか無いのか………もしかしたら【当たり】かと思ったけど………


………確かアイツも【盗賊】だったけど無属性じゃなかったよな?

そうすると違う【分岐】が………生き残りの盗賊もいた気はしたがそれならココで始末するか?ソイツも確か無属性だったよな?


でもコイツじゃないよな?盗賊ならもう【称号】として………ふむ。



………もしかしてアイツの【イレギュラー】か!?


そうか!!そりゃあ口説いても無理な筈だ!お前らは【運命の赤い糸】で繋がれてるんだもんな!!



ははは!俺の言ったことはあってただろう親友!!お前らは結ばれて【当然】だったんだ!」




独り言が凄い勇者だったが俺を右手一本で軽々と鷲掴みしてるから相当な力なんだろう。頭を締め付ける手が強くて俺は何も出来なかった。




「………お前みたいな雑魚が運良く見つからなくて良かったなあ?

このまま生かしといてやる。精々泥水でも啜って無様に生きてるんだな?



ククク、今回は面白くなるぞ!!」




そう言うと勇者は俺をぶん投げた。








あの時の事は一生忘れないだろう。




僕は………俺はあの時勇者にこう言ったんだ。




僕から全てを奪っていく魔族やモンスター、そして勇者を憎みながら叫んだんだ。





「僕は!………俺は!お前らから【奪い返してやる】からな!!うおおお!!」


憎しみの込めた精一杯の力で勇者を殴ってやろうとしたが勇者はシシリアちゃんを持ってるのに簡単に避けてみせる。それでも諦めずに何度も勇者に立ち向かった。



「ははは!やっぱりお前は弱いな!!そんなんだからお前の大事な【ヒロイン】は俺なんかに奪われてしまうんだぞ!?」


「うるせえええ!!シシリアちゃんをかえせえええ!!」


「聖女もお前のことを【バンちゃん】って呼んでたよな?はは!ガキの頃は大分ちんちくりんなんだな。

………やはりおまえは将来盗賊になる。クズで最低な奴になるんだ。そしてどんな【未来】でも俺に殺される!!いやあ愉快だ!!久しぶりだぞ!?こんに楽しみな【未来】はなあ!?




………だが忘れるなよクソガキ?お前はどんな可能性も持ってるんだ。」





軽くあしらわれても何度も立ち向かった。





「………もしかしたら世界を脅かす大悪党になり【魔王】に加担してお前の大好きだった村を壊した奴らの仲間入りをしたり」



そんなことをするわけがない。………でもその可能性もあったんだよな




「………もしかしたら大好きな筈の聖女、シシリアちゃんを殺してしまったりな。」



馬鹿か?俺が初恋の人を殺すわけがない!言って良いことと悪いこともあっただろうが!

………でもそんな【未来】もあったんだよな?




「………仲間だと思っていた奴が、信頼していた友達が実は【親玉】でお前が殺さなかったばっかりに世界が崩壊したり」



「はたまた小さな盗賊団で派遣争いで簡単に殺されたり」


「【盗賊】というだけで濡れ衣を着せられ死刑にされたり」



「ああ。俺と一緒に魔王を倒すときもあったか?あれは面白かったな?盗賊の癖に俺よりも勇者だった!あれは傑作だった!!



その前に俺かお前が【堕ちて】しまったことも沢山あったよな?」





あの時は勇者が何を言ってるのか分からなかったがお前も【辛かった】んだな。分かってやるのに大分時間がかかった。





「だからな?【バンディット】は俺に殺される前に俺からシシリアちゃんを奪い返しにこい。



今度こそはお前の【ハッピーエンド】を見せてくれよ?」



この時は頭に血が昇っていて何故俺のフルネームを知ってるのかも気にならなかった。




「最後にバンディット。俺の言ってることが分からないだろうが、お前は【人を殺めてはダメだ】


そうすれば悲惨な【未来になることはない】


どんなに殺したくなっても


どんなに許せなくても殺してはダメだ。



初めて殺す相手は俺にしろよ?



でもお前は短気だからまたダメかもな?



………じぁあまたな。」






そう言って勇者は俺を一瞬の内に意識を失わせた。



その時に俺は10人に1人は持つとされる【スキル】と


1000人に1人が持つとされる【称号】を手にした。





スキル名は【奪う】



そして称号名は【盗賊】



誰かに奪われてしまうならその前に奪えば良いんだという気持ちがスキルと称号に昇華されたんだろう。



勇者が最後に言っていた言葉のおかげで悲惨な結末にはならなかったのに俺は本気で勇者を殺したいと思っていたんだ。





勇者がなぜ【未来を知ることが出来たのか】



何故おれに人を殺すなと言っていたのか



そんなことはどうでも良いことだった。



ただ目の前の障害をなくしたい。






もう誰かに奪わせない為の力を






俺はあの時求めたんだ。






そして俺が気を失う瞬間、勇者を掴むことに成功して【奪う】のスキルを使っていた。



勇者は面白そうに笑っていて俺が勇者から【奪った】ことに気づいてなかったんだと思った。

本当は気づいてたんだ。でもその時はしてやったと思ったんだ。






そして俺が意識を失くす瞬間に微かに聞こえていた言葉




その言葉を覚えていたら俺は間違えなかったのかもしれないな。






「【今回】はどうなるかな?俺を殺してくれるのを楽しみにしてるぞ親友?」








ここからが俺の間違いだらけの人生のはじまりだった。





あの時の俺は世界を憎んでいた。




いや、力の無い自分自身を1番憎んでいたんだ。





それでも必死にココまでヤってきたんだ。






俺が話し終わったらお前の武勇伝。全部きいてやるからな?




だから今回の俺の武勇伝を最初に聴いてくれないか?





俺の間違いだらけで笑えちゃうような





小悪党の武勇伝を





















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