第8話【おやすみ】

「ねぇ、悠太。私眠たい」


 そう言いながら彩花は俺の服の袖を優しく引っ張ってきた。

 時間は夜の十一時半を過ぎたくらいだ。


「眠たいならベッドで寝て良いぞ」

「私明るい場所で眠れない」

「じゃあ電気消すか」

「悠太はまだ寝ないの?」

「まだ眠くないし」


 俺は次の日が休みだろうとなかろうと、寝るのは大体一時過ぎだ。

 最近は一時過ぎじゃなければ寝れなくなってきている。


「じゃあ悠太は何するの?」

「スマホ見るかテレビ見る」

「暗い場所でスマホとかテレビはダメだよ。目悪くなっちゃう」

「いつも電気消してベッドの上で一時間以上スマホ触ってるけど視力悪くないぞ?」

「そんな事言ってもダメだよ~。という事で悠太も寝ようね~」

「お、おい。引っ張んな」


 彩花は俺の腕を掴み、ベッドへと引っ張ってきた。

 彩花ってこんなに力強かったっけ……。


「悠太も寝るよ~。夜更かしはダメです」

 

 そう言って彩花は俺をベッドに押し倒してきた。


「いや、だから俺は敷布団で――」

「一緒に寝るの!」

「…………はぁ、分かったよ。ただし俺が壁側な」

「え! やだ!」

「何でだよ!」

「だって落ちちゃうかもしれないじゃん」

「それが嫌だから俺は敷布団敷いたんだよ!」

「でも私悠太と一緒に寝たいもん」

「じゃあ俺が壁で寝る」


 実は一度ベッドから落ちたことがあるのだが、その時体験した痛みをもう一度味わいたくはない。


「む、じゃあ敷布団で一緒に寝ようよ」

「え、もっと狭いんだけど……」

「私は良いよ? だってそっちの方が悠太と触れていられるでしょ?」

「いや――」

「はい決まり!」


 今度は敷布団へと引っ張られた。


「なぁ、マジで狭いって」

「良いの良いの」


 そう言って彩花は俺の被っている毛布の中に入ってきた。


「えへへ、近いね」

「……狭い」

「む、文句言わない!」

 

 そう言って彩花は更に近づいてきた。

 彩花の甘く良い匂いが鼻孔を擽ってくる。

 同じシャンプーやコンディショナー、ボディーソープを使っているはずなのになんでこんなに良い匂いがするのだろうか……。

 

「悠太の匂いだ」


 すると彩花は俺の胸に顔をうずめた。


「マジでこれで寝るの?」

「うん!」


 これで寝れる自信ないんだけど……。


「私眠いから寝ちゃうよ?」

「それは好きにして良いけど」

「私寝ている間は何されても気づかないなぁ~。キスとかされても気づかないなぁ~」


 そう言いながら彩花はチラっと何度か俺の方を見てきた。


「おやすみ」

「ちょ、ちょっとー!」

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