第3話【新婚みたいだね】

「ねぇ、悠太」

「うわぁ! びっくりした」

 

 俺が床に座りながらスマホを触っていると、いきなり彩花が俺の耳元でそう囁いてきた。

 

「今日夜ご飯食べて行っても良い?」

「夜ご飯? 別に良いけど……てか普通に話せよ」

「だってこっちの方がドキってするでしょ?」

「別の意味でドキってしたわ!」


 急に耳元で囁かれると心臓に悪い……。


「でしょ? 可愛い彼女に囁かれるとドキドキするでしょ?」

「人の話し聞いてた? 別の意味のドキって言っただろ」

「え? 可愛い彼女に囁かれるドキドキと、悠太の性癖に刺さってドキドキしたかのどちらかでしょ?」

「そんな性癖ねぇよ!」


 俺の性癖を勝手に決めるな。


「じゃあ悠太の性癖って何?」

「俺の性癖は……って言う訳ないだろ!」

「えー、言ってくれれば悠太の性癖に合った事してあげようと思ったのに」

「別にしなくても良いわ!」


 すると彩花はむすっとした表情を浮かべてそっぽを向いた。

 そして再びベッドに横になった。


「てか夜ご飯食べて行くって、材料あったよな……」

「任せて! 私料理得意だから!」

「そう言う事じゃなくて材料があるかどうかの話しなんだけど」

「大丈夫、私に任せて」

「え、話聞いてる?」

「うん!」


 そう言って彩花は自信満々にベッドから立ち上がり、キッチンへと向かって冷蔵庫を開けた。





「全く、一人暮らしだからってあんなんになる?」


 それが、俺の冷蔵庫を見た彩花の言葉だ。


「一人暮らしだからあれだけしか入れてないんだよ」


 俺達は二人で近くにあるスーパーへとやって来た。

 どうやら彩花が想像していたよりも材料が少なかったようだ。

 まぁ、俺はなんとなくそうだろうとは思っていたけど。

「一人暮らしでももう少しくらい入れときなさいよ」

「別に良いだろ、一人なんだから」


 今日みたいに彩花が夕食を食べて行くのは想定外なのだから仕方がない。

 そりゃ、一日前にでも言ってくれれば買い出しにも行ってちゃんと準備はしていた。


「それより、今日の夕食はどうするんだ?」

「悠太の好きなの作ってあげるよ?」

「好きなのか……うーん。沢山あるんだけどな」

「でも悠太、昔からハンバーグとカレーが好きだよね」

「まぁ、そうだな」

「じゃあ今日はカレー作ってあげるね! えーっとカレールーは無かったよね?」


 そう言って彩花はカレーのルーが置いてある棚へと向かって行った。

 それから、俺は彩花からじゃがいもを取って来るように言われ、一人でじゃがいもを取りに行った。


「他には無いかな~。なんかこうして二人で買い物してると新婚さんみたいだね」

「そうか?」

「そうなの!」

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