第4話【食べさせてあげる】

「はい! お待たせ!」


 彩花は俺の前にカレーを運んできてくれた。


「野菜たっぷりのカレーだよ。悠太は絶対に普段野菜食べないから」

「食べてるわ! でもめちゃくちゃ美味そう」

 

 野菜は別にそこまで好きではないが、目の前に出されたカレーに入っている野菜は、何故かめちゃくちゃ美味しそうに見える。


「でしょ? 私料理には自信あるんだから! さあさあ、食べて食べて」

「じゃあ、いただきます」


 俺は両手を合わせ、カレーを口に入れた。

 ちょっぴり辛さが効いていて、俺の大好きな味だ。

 

「どうどう?」


 彩香は俺の前に座り頬杖を付きながらそう聞いてきた。


「……めちゃくちゃ美味い」

「でしょ、でしょ! でもなんでそんな悔しそうなのよ」

「なんか思ってたより美味しかったのとそれを言ったら彩花が調子に乗りそうだから」

「べ、別に調子になんてのらないし!」

 

 そうは言っているが、俺には分かる。

 褒めすぎると彩花は絶対に調子に乗る。


「あ、そうだ悠太。あーんしてあげようか?」

「何言ってんの?」

「え!? も、もうちょっと別の反応ないの⁉ なんかちょっと戸惑いながらも少し嬉しそうにするとか」

「いや、だってマジで何言ってるのか分からなかったから」

「だ、だって私彼女だから、あーんしてあげたら喜んでくれると思ったんだけど……イヤだったよね」

「別に嫌ってわけじゃない」


 彩花がマジで悲しそうな表情をしたから直ぐに対応しないと。


「ただそんな事言われるなんて思ってなかったから」

「ほ、本当に……?」

「本当だって」

「じゃああーんしてあげる!」


 そう言ってさっきまで悲しそうな表情をしていた彩花は一瞬にしていつも通りの彩花の表情へと戻り、俺の持っているスプーンを奪おうとしてきた。


「あ、ちょっとなんで避けるの!?」

「お前さっきまで絶対演技してただろ」

「な、なんの事? 私本当に悲しかったけど?」

「…………別にあーんをしてほしいとは言ってない」

「あ、あーちょっとなんでちょっと離れるの!」


 俺はスプーンを取られないように少しだけ後ろに下がった。


「む、おりゃ!」


 すると彩花は身を乗り出して俺のスプーンを取ろうとしてきた。


「ちょ、危ないから! どんだけスプーン欲しいんだよ!」

「可愛い彼女があーんしてああげるって言ってるんだから素直にされなさい!」

「おい! カレー付くから! こぼれるから! あー、もう分かった!」


 俺は観念して彩花にスプーンを渡した。

 あのままだと彩花の服にカレーが付くか、カレーこぼれて両方の服に付くかのどっちかだったと思うし。


「もう、最初から素直に渡せばいいのに。はい、あーん」

「…………」

「もう、照れてないで早く口開けなよ」

「………………」

「はい、あーん」


 俺はもう何も考えず口を開けることにした。


「どう? 美味しい?」

「さっきも美味しいって言った」

「む、じゃあ可愛い彼女に食べさせてもらったカレーは美味しい?」

「美味しい」

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