鏖殺と死
定期的に聞こえていたリボンが鼠を叩き落す音が連続して聞こえるように変わってきた。
「素晴らしい名前だね!できれば手伝ってほしいけども!」
ハッと周囲を見渡せば1匹だった鼠が数十匹に増えていた。
一匹だと少し可愛かったネズミも数をそろえれば恐怖心が勝つ。
生物的恐怖には耐性の無いホワイトはそんな鼠の決死の姿を見て後退りした。
魔獣は恐怖に敏感である。
リボンの知識に堂々と立っている者と身をかがめている者、どちらが魔物に襲われるか実験をしたところ、装備の有無にかかわらず身をかがめている者が襲われたという実験結果がある。
まずい。
そう思ったリボンだったが、すでに遅かった。
勢いの増した鼠の攻撃に対応しきれずに鼠がリボンをすり抜ける。
ホワイトの腹に突っ込んだ鼠は刃を幼女の柔肌に突き立てると、中身を引きずり出すように体を動かした。
薄い脂肪壁が破れ、柔らかい筋肉が引き裂け、すべすべの皮膚がちぎれて薄朱色の臓物が露出する。
「ぎ!?」
初めて受けた痛みの大きさに最初以外の悲鳴すら出せない。
痛みは精神を乱し、精神は魔力に直結する。
一時的に魔力供給が消えたリボンは鼠を叩き落せず、さらに数匹のネズミがホワイトに嚙みついた。
軽い肋骨が噛み折られ、眼球が抉り出され、胎が破かれる。
死。
一瞬でゾンビよりも多くの肉を失った体は決して治らず、処置のしようもない。
…わけではない。
リボンへの魔力供給が戻り、体を貪るネズミをリボンが払いのけ、幼女の体をリボンが覆い隠した。
「くそ、クソクソクソ!」
死にはしないし処置もできるが、失った臓器や血が多すぎる。
数秒もすればホワイトは死んでしまう。
はずだった。
「グレイ」
ホワイトが千切れた声帯でその名前を呼んだ。
以下の内容はとある神話から引用した内容だ。
「主は二つが入り混じった者すら愛し、名前を付けた。それに不満を持ったものが主を害そうとした。しかし、混じり者は主に名を呼ばれるとどこにでも現れ、主の敵を屠った。0と1どちらにも属さぬ“無”だったためにできた神すら超える所業だ。」
敵の鏖殺は一瞬だった。
糸剣がたった一度すべての鼠を通り過ぎただけだった。
通り過ぎた部分から鼠は分かれ血肉をまき散らしながらその命を散らせた。
溢れ出る鼠の
魔力は回復力に変換され全身の傷を一瞬で癒した後、魔力が底をつき、変身が解除される。
「ヒウ!」
途端にホワイトは呼吸困難に陥り、死んだ。
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