魔法使いと契約


 ノーマン・ラットは焦っていた。


 生涯で培ってきた思考力と判断能力を最大限にまで働かせながら。


 それでも焦っていた。


 なぜなら彼は異世界から異世界人間を呼び出して呼び出した反動で獲得した魔力を操り、自分の力をさらに高める研究をしていた。


 しかし、どこから漏れたのか、非人道的なその実験が騎士団に知られ、自分の討伐のために動き出したことを知ったからだ。


 弁明は不可能、減刑も不可能、捕らえられた後は魔狩りという名目で公開処刑にされる。


 …いっそのこと、異世界から呼び出してみるか?


 理論はできているが、魔法陣が完璧ではない。


 懸念と心配はあるが…


 ノーマンに残された時間はほとんどなく、ちょうど、自分の住んでいる塔の入り口が壊されたことをきっかけに我慢ができなくなった。


 ノーマンの口から洩れてる詠唱。


 先頭を行く騎士がノーマンのいる部屋に入った時にはあと数秒もすれば詠唱が終わるところだった。


 とっさに剣を投げつける穂先がノーマンの胸を切り裂いた瞬間、まばゆい光があふれ、ノーマンの姿が掻き消えた。


 同刻、ゲリラの拠点で体を洗い流していたホワイトラットの前にノーマンが転移する。


 貫いた剣はノーマンの心臓と魔臓を貫き、余命はあと数刻もない。


 驚いた顔のホワイトラットに、這いつくばるノーマンが手を伸ばす。



「私と契約して、異世界に行ってほしい」



 混乱する頭では言葉の意味を理解できなかった。


 ホワイトラットはノーマンの手を取った。


 魔力が、業火のように広がり、ホワイトラットについていた水滴を吹き飛ばし、その身長を縮め始める。


 3歳のころと同じ身長まで縮んだホワイトラットは黒いハイグレに黒いネグリジェを上から来たような衣装を身にまとい、白と黒、そして瞳の赤のコントラストが非現実味をにじませる。


 手に持つエモノは1m30cmほどの糸剣。


 変身により吐き出された魔力の影響で浮いていた体が浮力をなくし、すとんと降りる。


 と同時に、その姿とノーマンが搔き消えた。


 新たな魔法幼女が誕生し、世界の抑止力により異世界に追い出されていった。


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