第19話 兄妹のお出かけ(その2)
電車に揺られて約50分、俺たちはオープンしたばかりの大型ショッピングモールという目的地の玄関にたどり着いた。隣のほうに視線を向けたらやはり前に行った遊園地がはっきりと見えた。
「わぁ~…外からでも想像以上に大きいねえ。あ、前に行った遊園地も見えてる!」
「おう、テンション高いなお前」
「初めて来たっからもっちっしょっ!」
「………いや、高すぎんだろ」
さっき電車に立ちっぱなしで文句言ってたのに、よくそんな早く気を取り直せたな。まぁ、そっちのほうが気楽でいいと思うけど。
それから俺たちはモールに足を踏み入れたのだが、なんというか、やっぱ感想はデカいとしか言えん。ちなみに、入った途端一気に涼しくなって、外の空気と違いすぎるわ。もうすぐ夏だから仕方ないだろけど。
そして視線を上に向けて左右見渡したら、何階の建物か把握しにくいぐらいの高さだった。こんなバカ広い建物を歩き回るのちょっと遠慮したくなってきたわ。
「で、入ったはいいものの、まずどこに向かった方がいいんだろう……」
「え、兄ちゃんがここに誘っておいて結局ノープランなの!?」
「いや、その……うん」
「うん、じゃないよ!もー……あたし妹だからいいんだけどさぁ、ほかの女の子と出かけたらこういうことは絶対にしちゃダメだからね?」
「妹に説教される日が来るとは……まぁ、一緒に出かける女子いないから安心しろ」
「はぁ……」
呆れ顔で
「
「あー、そこに書店がー。ちょうど好きな作品の新刊が出たから入ろっかなー……ほら行くぞ、奈々子」
「え、もー何逃げるのー!」
奈々子は俺が思った通りのことを口にしてきたから、俺は奈々子を誤魔化すために11時方向にある書店に入ると決めた。俺が言うのもなんだけど、奈々子って結構鋭いやつだ。まぁ、ちゃんと誤魔化せたら別にいいけど……え、誤魔化せたよな?
数秒後俺たちは書店に入って、早速好きな漫画を探し始めたらすぐ見つけた。新刊コーナーに並べてあったから探すのが苦労しなかったな。店員さんに感謝だ。
「おー、ほぼ売り切れだ。まだ残っててよかったー」
「うわっ、異世界って……よくそんなの読めるよね」
「バッカ、男のロマンは異世界にあるんだよ」
「いや、何のロマンよ……あ、ハーレムかー。そうかそっか~。まぁ、今文香先輩たちを集めたら叶えるんじゃない?」
「違うし。異世界の魅力はそこじゃねぇんだよ。いいか、異世界はな―」
「あー、はいはい、分かったよ分かりましたー。じゃあたしちょっとほかのコーナーに行ってくるね」
「お、おい……ったく、人が説明してる時はちゃんと最後まで聞けよな……」
はぁとため息吐いて、妹の姿が視線から見えなくなってから、手に取った好きな漫画を持ち歩きながら俺もほかに面白そうな漫画を探すために別のコーナーに向かう。
俺ファンタジーもの以外はラブコメやミステリー、そしてスポーツ漫画を読んでるが、棚に並んでる漫画を見る限り絵が綺麗なやつが多いな。そのせいで本屋に行く度にいつも買うか否かと悩まされていた。
それから20分経過して、俺は漫画探しを終わらせ、結局6冊を買うことにした。好きな作品に含めて、3冊が異世界もの、ほかの3冊がラブコメだ。少ないって?や、ほら、ここで自分の分をふんぱつしたらダメだろ。モールに来てまだ一か所目だぞここは。しっかし……
「奈々子のやつどこに行ったんだ……」と小さく呟き、俺は書店内にいるはずの妹を探し始めようとしたら、数秒で苦労せずに見つけた。奈々子は今立ち読みコーナーで真剣に漫画を読んでる。
そこまで集中して、一体何読んでるんだあいつと思いながら俺は奈々子の方に近づいていく。
「少女漫画か……おい奈々子、俺の買い物が済んだけど、お前も何か買わないのか?」
「…………」
「えいっ」
「ひゃっ!もーなんでうなじ突いたの!?」
「や、俺の買い物が済んだから呼びに来たが、どうやらお前漫画読みに夢中しすぎたな」
「え?あぁ、うん。適当に漫画を読もうと思っただけなのに、何故かめっちゃハマっちゃってたよ」
「まぁ、分からなくはないが、そんなに気に入ったら買えばいいじゃないか?てかお前何か買わないのか?」
「ん―……買いたいのはやまやまだけど、ここでお金使うとこの後の買い物とかに足りなさそうだからパスかな」
あぁ、出たな。自分の小遣いでなんでも買おうとする奈々子の癖が。俺がお出かけに誘ったから普通俺に頼れよ。
そして俺はぽんっと軽く妹の頭にチョップをした。
「もーなにいきなりチョップを?」
「お前馬鹿だな」
「ばっ!?」
「ほら、その作品の最新刊までの全巻をさっさと取っていけ」
「え、でも」
「今日のお出かけは俺がスポンサーだから、今日中何か欲しいものあったら遠慮せず言えよ。あ、もちろん限度があるな」
「…………」
「……いや何ぽかんとするんだお前は?」
「ふふっ……ふふふっ……」
「急に笑うな」
「兄ちゃん本当妹に優しいんだねー」
「褒めても今日の奢りしか出ないぞ」
「ふふ、褒めなくても出ちゃうのに~」
そうツッコんで、奈々子が欲している漫画を全部揃えてから俺たちはレジに少し並んで支払いを済ませた。
そして結局、奈々子が10冊の漫画を買い揃えて、結構な金額を消費してしまったが、書店を出る前から奈々子がいつもより上機嫌だから、こっちもなんだかお金を稼ぐ甲斐があったなと思っている。
「ん、貸して」
「ん?何を?」
「お前の荷物だ。10冊って結構重いだろ」
「あぁ、確かに少し重いけど、いいの?兄ちゃんだって自分の荷物持ってるじゃん?」
「や、こんぐらいは全然。ほら」
「……ん、それじゃお願いね」
すいっと奈々子からレジ袋を取った瞬間、何故か奈々子がふふっと小さな笑い声を漏らした。
「何笑ってんだお前は」
「いや~……こんなスペック高い兄を独り占めできるなんて、文香先輩たちが知っていたらどう思われるかね~」
「急に何の話をしとるんだ」
「まぁ、こいう分からないふりして誤魔化す癖が欠点だと思うよ?」
「お前な……そんなことより次どこ行こうか」
「今朝から何も食べてないし昼食摂ったほうがいいかと」
「そうだな。えっと、フードコートは……分からん。マジで案内図が欲しいわこんなバカでかい建物にいたら」
この辺りはいくつかのレストランがあるけど、高級感がありすぎて入るのはマジで躊躇ってしまったからフードコートのほうが無難なチョイスだろ。
「ふふっ、そんなことだと思って、じゃじゃーん、案内図のチラシ持ってきた―」
「じゃじゃんって……まぁ、助かったけど、どっから持ってきたんだ?」
「さっきの書店で見つけたよ。はい」
「ほぉいつの間に。でかしたぞ妹」
「おほほー、もっと褒めて~」
そんな兄妹の茶番を終わらせ、俺たちは4階にあるフードコートに向かおうとしてるのだが、俺の後ろから「きゃっ」と女の人の声が聞こえて、振り向いた時には既に何かの飲み物が俺のカーディガンにかかった。どうやら後ろにいる女子が転んで、手に持っていたカップも当然彼女の手から離れ落ちた。
自分のカーディガンにかかったものはなんかコーヒーの匂いがするなと思って床に落ちたカップ見たら、なんとスタバのカップだった。うわ、キツイわこれ。
「あたしちょっと清掃員さん呼んでくるね」
「あぁ、頼む。気をつけろよ」
「はーい……ちょっと失礼しますね、お姉さん」
転んだ女子にそう言いながら、奈々子がもう中身が空になったスタバのカップを拾ってからゴミ箱に捨てて清掃員さんを探し始める。床が汚れてるけど、幸い流れができてないから清掃員が来るまでの心配は要らないようだ。まぁ、ここの掃除は適任者に任せた方がいいだろう。
そして俺はカーディガンのシミを気にせず、すぐにでも「いたた」と呟きながら自分の足をさすってる転んだ女性のほうに手を差し伸べる。
「あの、大丈夫ですか?」
「う、うん……大丈夫です……ごめんなさい、ありがとうございま…え?」
「え?」
彼女の柔らかく綺麗な手を掴んで全身を起こしたとき、やっとお互いの顔が見れたと思ったら、俺と彼女がまさか同じ間抜けな声を漏らした。そうさせたのはほかでもない、お互いが知っている顔だから、というより、彼女は俺のクラスの担任、
まさか休日にこんなバカでかい建物で自分の担任と遭遇したとはな。偶然にもほどがあるんだろ。
相葉先生は今夏を迎えるにはぴったりなホワイトノースリーブトップスを身にまとい、マッチした長い丈のクリーム色フレアースカートを穿いた。うん、下は露出しないが、上の方はノースリーブだから、マジで肌が白くて、彼女の二の腕を掴みたくなるなるほどすべすべで柔らかそうに見えた。
「えっと…なんか見慣れない恰好たけど、もしかして春川くん?」
はっと先生の呼びかけに俺は我に返った。そいやよく見ると彼女はいつも下ろした長い黒髪を巻き上げて本当に新鮮だ。
「あ、あぁ……うん、やっぱり相葉先生ですね……」
そして俺たちは同時にあははと気まずそうな笑い声を出した。うん、気まずい。さっさと「それじゃ、俺は次の所に行くので」と言って、ここから去ろう。いや待って、奈々子を置いていくわけにはいかないし、相葉先生を一人にするのも悪いだろうと思うからそれはできん。
「あの、さっき私のコーヒーが春川くんの服にかかったと思うけど……」
と思考を巡らせる間、俺は相羽先生に話かけられた。
そして俺は「えっと……」と言いながら後ろに振り向こうとしたが、見えにくいのでカーディガンを脱ぐことにした。
「わー」
「ん?」
カーディガンを脱いだら相葉先生はこっちを見ながらなぜか感心したような声をあげた。彼女がそうした理由が分からないから、俺は首を傾げ不思議そうに彼女を見ている。
「えっと……なんですかせん—」
「あー、いたいた!シズっち、ウチを置いてくなんて酷くない??……って、その男だれなん?」
相羽先生の後方からサイドテール金髪のギャルっぽいが親しげにこっちにやってきたから、その人は先生の付き添いだろ。まぁ、先生の目の前に男がいたら聞かざるを得なくなったもんな。てか今めっちゃ見られてるし!
「あっ、気づかなくてごめんね
「ん、まー、アンタのそいう抜けてるところにはもう慣れてっから別にいいけど、そろそろその男のことについて説明しなよ~」
「えっと……彼は私が担任しているクラスの生徒だよ……て紹介してる場合じゃなかった!春川くん、服はどうなったの?」
二人のやりとりを注目してたから俺は自分のカーディガンを見ず二人の方に視線を向けた。相羽先生がもう一度聞かなったらたぶんカーディガンのシミなんて忘れたんだろう。
そしてカーディガンの方に視線を移したら、どうやら思ってた以上にあまりコーヒーにかからなかった。まぁ、少し目立ったシミが残ったけど。
「うん、少しかかっただけなので大丈夫です。下はTシャツ着ていますし、この格好でも回れるんでしょう」
「ごめんなさいね……スマホに集中しすぎて君にぶつかった挙句服まで汚したなんて……」
「大丈夫ですよ。わざとじゃないだってこと理解しましたから。でもあぶないから次は気をつけてくださいよ?」
「ねーてば、無視しないでくれる?」
相羽先生を安心させようとしたら沙奈というギャルが突然俺たちの間に割ってきた。この人ってなんでこんなにかまってちゃんだろう。
「あの、先生、この卑猥な恰好をしているビッチギャルは先生のお知り合いですか?」
「ビッ!?ちょっとシズっち、初対面なのになんでアンタの生徒がこんな失礼なの?ウチビッチじゃないつーの!」
「「えっ?」」
「アンタら失礼よね!」
そうツッコまれて、俺と相葉先生は同時に吹き出して笑った。ビッチかないかはさておき、沙奈さんが今着ている服本当に目のやり場に困るぐらいめっちゃエロかった。トップスはへそ出し黒色の短いタンクトップみたいな服を着てるから、谷間がはっきりと見えた。下はグレイのめっちゃ短いスカートを穿いてるけど、もし俺が今屈んで彼女の方に面を上げたらきっと見れちゃうんだろうパンツが。
やべっ。今彼女をじっと見ながらそれを想像すると俺の何かが自動的に起きた。ちょうど手に持っているカーディガンと荷物で俺は自分の下半身を隠した。
ふぅ、この場で起きてしまったとはな。気づかれたらいろいろおしまいだろう。まぁ、気づかれないといいけど……あ、沙奈さん俺の下半身に視線を移した。もしかすると……
「もしかして腹痛いか?」
「えっ、痛くないけど?」
「じゃなんでお腹を抱えるような仕草してんのさ……あっ」
急に何かに気づいた沙奈さんがニヤリとして俺に近づき、自分の胸をギュッと見せびらかすような仕草をしてる。こいつ、やっぱでかいな。美春さんと同じぐらいかな?
じゃない!!
「ちょ何してんすか沙奈さん!?こんなとこで胸を俺に見せびらかすとかやっぱビッチじゃないか!」
「うんうん、ウチビッチだよ~。てかさっきからアンタウチの体をガン見してたじゃん。まったくとんだエロガキだな~」
「はあ?見てないし」
「こーら二人共、そこまでにしてね?気づいてないと思うけど、注目されてる
よ?」
「「あっ」」
沙奈さんとやりとりをしてる間にまさか足を止めてこちらに注目している者が何人かいるとは。まぁ、話の内容がちょっとあれだから、仕方ないだろ。
「兄ちゃん、清掃員さんを呼んできたよ!」
遠く、はないが、結構な距離から奈々子が俺を呼んで、清掃員のおばあさんと一緒にこっちの方にやってきた。
「おぉ、おかえり。結構遅いけど、やっぱ見つけるのが大変だったか?」
「まぁね。おばあさんすみません、こちらのは頼めませんか?」
「はい、もちろんよお嬢ちゃん。わざわざ呼んできてくれてありがとうねぇ」
「うん、こちらこそ!」
「ふふっ、偉い妹さんを持ってるね、春川くん」
「まぁな。俺の自慢な妹ですよ」
と奈々子を褒めながら俺は優しく彼女の頭を撫でる。
「……も、もう、人前で恥ずかしいこと言わないの!……ん?春川くん?あれ?兄ちゃんまさかどさくさに紛れてこの人を口説いたの?」
「んなわけあるか!この人は俺の担任、相羽先生なんだよ」
「あぁ、噂に聞いてた。凄く綺麗な女教師が学校にいるとかなんとか……うーん、記憶を蘇ると一度や二度ぐらい学校で見かけたけど、兄ちゃんの担任なんだね……でも凄く美人さんだ。めっちゃ兄ちゃん好みじゃん」
「え?」
「この馬鹿急に何言いやがるんだ」
「へぇ、その話詳しく聞きたいな~。ねぇ、アンタらこの後どっかに行くの?」
急に会話に割ってきた沙奈さんが俺の前に立って、こっちを見上げながらそんなことを訊いた。うん、下向けるとやばいな。どうしても彼女の胸に行っちゃったよ視線が。
てかそもそも何の話を詳しく聞きたいんだよ。
「えっと、俺たちはフードコートに向かうところだったけど……」
「お、いいねえ。ウチらもまだ昼飯食べてないし。ね、シズっち?」
「うん、映画の時間までまだ余裕あるから、丁度いいかもね」
「そうですか。それなら行きましょうか。あ、そいえば奈々子は大丈夫か?」
「うん、全然OKだよ」
「よし、じゃ行こうか」
と三人に声かけて、俺たちは4階にあるフードコートという目的地に向かった。うん、こっちに向けられた視線が奈々子と二人の時より多いが、そんな原因を知ってて、俺はフードコートに辿り着くまで耐えるしかなかった。
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