第18話 兄妹のお出かけ(その 1)
日曜日の12時ごろ、家の最寄り駅前で俺はある人物を待っている。今日天気が良くて、出かけるには丁度いい。梅雨の時期も段々と近づいてくるしな。
そして左右を見渡したら、やはりというか、カップルばっかだ。でも残念なことに俺は恋人とか好きな人とかを待っているじゃなくて、
「まあく~ん!」
そう、俺が待っているのはこっちに向かって、何故か俺のことをまあくん呼ばわりしている我が妹、
「遅くなってごめんね~。待った~?」
「あぁ、めっちゃ待ってたわ」
「ちょ、そこ全然待ってないよ~って言ってよ!」
「んなアホな」
「もー、ノリ悪いな~」
なぜ俺たちがこんなベタな待ち合せ方をしたのか、時は1時間くらい前に遡る。
「おーい奈々子ー、起きろ。もうすぐ11時だぞ」
奈々子を起こすために俺は彼女の部屋に入ったのだが、どうやら3時ぐらいまでゲームをやっていたせいで今はまだ眠っている。もう十分寝ているだろうから俺は「起きろー」と奈々子の肩を揺らしながら起こそうとしたら奈々子が「うーん」と唸り声をあげる。
しばらくしてから、奈々子がやっと瞼を開けて、目の前にいる俺のことを認識しようとする。
「…………あれ……なんで兄ちゃんが、ここに?……夜這い?」
「してたまるか!寝起き早々何言ってやがるんだお前は。もう11時過ぎたから早く準備しろ」
「ん?……あれ、準備って、何を?」
「出かける準備だ……あれ、昨夜言わなかったっけ?」
「言ってないよもー!」
おぉ、眠そうだったのに一気に目が冴えたなこいつ。
そいや俺まだ言ってなかったわ。ミスったなぁ。こいつほかの用事があったら今日のお出かけは中止するしか……
まぁ、一度確認しよう。
「すまん、今日久々にお前とどっかに出かけるつもりだったけど、今日暇か?」
「まぁ暇だけど、どこ行くの?」
「先月から隣町にオープンした大型ショッピングモールなんだけど。ほら前に行った遊園地の隣に建てられるやつ」
「あぁ、そこねぇ」
前に、正確は去年の秋に母さんと奈々子と3人で隣町の遊園地に行った時はその隣にあるショッピングモールはまだ工事中だったが、昨日ネットで探ったらこれは凄いなと思ってお出かけの行先を決めた。
「で、行けるか?」
「ん、行く。そいえば車で行くの?」
「いや、母さんの休日を邪魔しちゃ悪いから、送ってもらうのはちょっとな。まぁ、場所が駅に近いから電車で行くのが最善な選択だろ」
「ん、そうだね」
家計のためにいつも働いてる母さんに迷惑かけるのは気が引けるもんな。気遣い屋さんの奈々子も理解してくれると思うから、今日のお出かけは電車で行くのを決めた。
正直俺は車なら自分で運転したいけど、免許ないじゃ流石に無理だ。まぁ、来年は絶対に車の免許を取るけど。
「じゃ、俺準備してくるから、12時前から出発な」
「うん……あ、兄ちゃん先に行ってて。駅前で待ち合せね」
「いや、なんで一人でお前を待たなきゃいけないんだよ」
「ええー、だってデートっぽくていいじゃん?」
「じゃん、じゃねぇよ」
「もーうつまんないなぁ。そもそも私誘われる側だからそれぐらい叶えてくれていいじゃんか兄ちゃんよ」
「……はぁ、しゃーない。じゃぁ俺準備が終わったらすぐ出るわ。お前もさっさと準備しろよ」
「はーい!」
まぁ、妹のお願いを叶えるのが兄の務めってやつか。
それから、俺は出かける準備を終えて数分間歩いてから最寄り駅に着き、10分ぐらい奈々子を待っていて今に至る。
「ふ~ん」
「なんだよ?」
目の前にいる奈々子がなぜかまじまじと俺を見ている。あぁ、服装チェックか。
今上は半袖白いTシャツにグレイのカーディガンを羽織って、下は馴染まない黒いスキニーを穿いてる。履物は汚れたら嫌なので使わないことにしていた白いスニーカーを初めて履いてるけど、なんというか、めちゃくちゃいい感じに見えてるわ。
まぁ、このセットは全部奈々子のチョイスだったけどな。
「お出かけにしては気合入りすぎない?」
「や、普通だろう。そもそもこの服装はお前が前に選んだやつだしな」
「うん、服装もだけど、それだけじゃない。その髪、珍しくセットしてるじゃん。ていうか伊達メガネかけてるし」
「そういえばそうだったな。すっかり忘れてたわ」
「もしかして変装してるつもり?」
「いや、なんとなくこうしたかっただけだ。てか変装必要あるのかよ。芸能人じゃあるまいし」
「あっはは、SNSの有名人の彼氏と噂されていた人が何を言う」
「またその話かよ。ほら、さっさと行くぞ」
「うん!」
奈々子の元気な返事で会話が終わって、俺たちは改札口を通ってから少し歩くと駅のホームに着いて電車が来るのを待っている、のだが。
慣れたとは言え、こいう視線を浴びられるのは本当に嫌だな。例えば俺の右側数メートルに立っている3、いや4人の女子グループがさっきからこっちに視線を向けてくる。居たたまれなくなってきたから、俺は彼女たちに一度視線を向けたら4人全員が分かりやすく動揺して4人で見つめ合いながらこっちにチラチラ見ている。
なんだろうなぁ。俺イケメン属性がついてないと思ってるから、なぜそいう反応されるかよく分からん。
「モテモテは違うんだね~」
奈々子が突然ニヤニヤしながら俺に話しかけた。あぁ、そうだったな。俺前から結構モテるなぁ。イケメンじゃないのは確かだけど。
「……お前も大概な」
実は視線を浴びられる者は俺だけじゃなくて、奈々子もだ。何人かの男子が明らかに奈々子のほうに見ているし。まぁ、奈々子がモテるのは学校で密かに観察してたから知ってるけどな。
女子にしては背が高いし、普段外ではサイドテールにしている亜麻色のセミロングの髪が今日はなぜかサイドテールにしてない。そして奈々子の今日のお出かけ服は白い半袖VネックTシャツに透けてる水色のシアーシャツを羽織って、奈々子の美脚が際立っているショートデニムパンツを穿いてる。
こうしてよく見ると、俺の妹がもうこんなに大人っぽくなったな。なんか嬉しいような、寂しいような。そいやこいつ確かにモテるけど、好きな人とかいないのか?……
「奈々子、兄ちゃん許さないからな」
「いきなり何のこと!?」
突然訳も分からないことを言い出したから、当然奈々子が困惑している。でも真面目な話、こいつ本当に好きな人いないのか?
うん、気になるから聞いてみた方がいいもんな。
「なぁ、奈々子よ」
「ん?どしたの兄ちゃん?」
「ちょっと確認したいことがあるんだけど、聞いてもいいか?」
「ん、いいけど?」
首を傾げながら奈々子が不思議そうに俺を見て質問を待っている。妹のそいう首を傾げる仕草、本当可愛いな。
「お前は好きな人とかいないのか?」
「え?いないよ?」
「そ、そうか」
「なんで聞くの?」
「うーん……なんかいきなり頭に浮かんだだけだ。気にすんな」
「ふーん……シスコンめ」
「なっ!?シスコンじゃねぇし……いや、そうかもな」
「安心して兄ちゃん。あたしもブラコンだからお揃い、ね?」
「いや、そんな親指立てなくても……」
俺がそうツッコんだら奈々子が可愛くにへへと歯を見せて笑った。
シスコンか……確かにそうかもな。てかこいつ自分でブラコンって認めるのかよ。まぁ、とっくに知ってたけどね。
それから電車がやっと来て、中に乗り込んでから俺たちは電車に揺られながら駅を去って目的地に向かう。
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