第17話 お母さんに尋問タイム

 会社の飲み会で酔いつぶれていたお母さんを送るために夜遅くわざわざうちにやってきた政也くんが去った後、私は上手く歩けない状態のお母さんを支えながら家に入って、お母さんの寝室に足を踏み込んでからベッドの端に座らせた。


 最後お母さんがお酒で酔ってるのを見るのはいつなんだろう。覚えてないけど、今は振り返る必要なんてないから思い出そうとするのやめよう。今するべきなのは――


「お母さん、具合はどう?水要る?」

「ううん、大丈夫よ文香ふみかちゃん。タクシーで政也まさやくんの飲みかけ水を飲んじゃったからね」

「そう……ならよかった……」


 今更だけど、さっき政也くんの帰りを見送った時からお母さんってあんまり酔ってなかった気がしたなぁ。まぁ、娘としての心配もあるから、ここはせめて気遣いを示した方がいいかと……


 ん?政也くんの……飲みかけ?


「お母さん政也くんと間接キスしてたの!?」


 と私は大声でお母さんにそう聞いてから突然バン!とドアが開いて、


「それは本当ですかお母さん!?」


 当然ほかでもない、妹の文乃ふみのがこの部屋のドアを開けた本人。さっき盗み聞きしてただろうねこの子は。ていうかこんな時間にまだ起きてるの?


「で、本当に間接キスしてたのお母さん?」


 まるで文乃の登場を無視するかのように、私はまたお母さんの方に向けてそう問いかけた。


「ふふっ、そうねぇ……確かに間接キスしちゃったわねぇ~」


 そんな呑気に答えたお母さんを見て、その話が本当だったようだ。


 お母さんずるい。私だってまだしたことないのに……いや、したことあるかも。


 あれは確か中学2年の時、部活を終えた政也くんと遭遇して、その時たまたま未開封のペットボトルを握っている私に政也くんが「その手に持ってる水、少し飲んでいいか?」と突然聞いてきたから私は即OKしちゃった。


 そして政也くんが飲んだ後に……うん、言うまでもないかな。まぁ、どんな味だったかはとっくに忘れてたけど。


「お母さん、政兄さんとの間接キスはどんな味でした?」

「なんてこと聞いてるの文乃!?」

「いえ、参考になりますかと」

「何の参考??」

「ふふ……まぁまぁ、もうこんな時間だから、声大きくしちゃダメよ?」


 微笑みを浮かべながら、お母さんが私たちにそう注意した。なんかお母さんの表情、普段よりもっと柔らかく見えるのは気のせいかな?


「それで、どうでしたかお母さん?」

「うーん……分からなかったわ。だってさっき飲んでる時は味わう余裕なんてなかったもの。ごめんね答えられなくて~」

「いや、お母さんが謝ることじゃないけどねこの件は」


 むしろ文乃のほうが謝るべきだったよもーう。ていうかもし余裕があったら政也くんの飲みかけを味わう気だったのお母さん??とツッコみたかったけど、実際してなかったからこの件は水に流そうかな。


 そいえばまだ気になることが……


「さっきタクシーでそれ以外のこと、何かしてたのお母さん?」

「っ!」


 露骨に肩を震わせたお母さんに、私はなんとなく察している。さっきタクシーで絶対何かあったに違いない……


 あれ、お母さんなんか急に顔を少し赤らめているけど一体……


「あっ、お母さんやっぱり……」

「な、何もなかったのよ?政也くんに膝枕してもらって頭を優しく撫でられていた以外は本当に何もなかったのよ?」

「「えっ」」


 天然かそれともわざと早口で全部のことを白状したかは分からないけど、それだけで十分私と文乃を呆けさせた。だってお母さんがひ、膝枕してもらった挙句頭も撫でられていたよ?自分の娘と同い年の男子にそいうことされたの普通あり得る??


「お母さん、その話も詳しく」

「あんたさっきからなんでそんなにぐいぐいいくのー?」

「参考になりますかと」

「だから何の参考よ!?」


 ほぼ無表情なのに、なぜか目だけがピカっと光っている文乃に私はそう突っ込んだ。この子なぜそんなに食いついてるのか結局分からないけど、お母さんがその後全部のことを話してくれた。


 そしてその間、文乃はなぜか自分の携帯で何かメモってて、一方お母さんの話を聞けば聞くほど私はあまりにも羨ましすぎてぐぬぬとしか声が出なかった。


 次会う時に政也くんがお母さんにしてきたことを、私にもそうして欲しいとねだろうかな。うん、そうしようと私はこの夜からそんな決意を固めた。

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