第15話 頑張るしかない

「えへへ……」


 政也まさやくんとたくさん自撮りを撮った日の夜、私は自分のベッドの上で携帯の画面に写った政也くんと自分の写真を眺めながら頬を緩ませている。中学1年生から知り合ったというのに、初めてのツーショットがまさか高校2年生になった時だなんて……まぁ、高校生になる前の自分があんなだったから仕方ないかな。


 ていうかあのりかりんという女の人と政也くんの自撮り写真を見なかったらたぶん今でも一緒に自撮りをしようとか考えていないと思う。


「でも驚いたなぁ……」


 まさかりかりんという綺麗で有名な女性の正体は前に会った嶋野しまの梨花りかさんというエマ先輩のおうちで働いてる使用人とは……政也くんが教えてくれなかったら知らないままだったかもしれない。前に会った時とインスタで投稿されている写真とのギャップがありすぎるからね。


 彼女の写真を一目見ただけでも本当に綺麗だなと思ってしまうレベルで、何より彼女は教室を騒がせるほど超有名人な女性なのだ。政也くんはその嶋野さんに騙されてツーショットを撮ったと言っていたけど、あんな恋人みたいなポーズしたりまで撮ったら、やっぱり彼女も政也くんを狙っているのかな?インスタの投稿を覗く限り、現在彼氏がいるとは思えないし、前あった時だって政也くんととても親しげに話してた。


「やっぱり政也くんは今でもモテモテだね……」


 彼は高校の時から学校の周りにいる人たちと接触しないようにしていたと前に言っておきながら美人生徒会長だけじゃなく、SNSの超有名な女性とまで知り合いになったとか、彼の言っていたことが信用できないよもー。


 これは別にナルシストとかじゃなくて、私中学の時より見た目や性格とか全然変わって高校に上がってから何度も告白されてモテるになったとは思うけど、あの二人のカーストが私の上だけは理解した。


「だからさっきは焦りによるものだったな……」


 ほかの女の子に負けたくないから、政也くんに一緒に自撮り撮ろうという欲求をした。でもあれは本当に仕方ないことだよ。あんな美人さん二人に近づけられたら、政也くんだっていずれはその二人の誰かに好きになるかもしれないし。そもそも前よりもっとカッコよくなった彼が彼女を持っていないこと自体はおかしいと思う。


 それじゃ、諦める?なんて内心でそいう質問が少し浮かび上がった。でも、諦めてたまるものですか。私はずっと前から政也くんのことが好き。高校生活を始めてから一年間避け続けられた時は確かにもうダメかと思っていたけど、現在また同じクラスになって少し距離を縮めたいと思って彼にグイグイアプローチをかける最中だから諦めるわけにもいかないよ……


 でも……


「はぁぁ……」


 私が政也くんの親友のであることというハードルだけは今でもかなり高いと思う。もし私が政也くんと恋人になって、それを新太あらたくんが知ってしまったらどうなるんだろうか?私が通ってた中学校に転校してから、新太くんは政也くんと喧嘩することなく、卒業まで本当に仲良しの親友関係でいた。あの二人がまだ連絡取り合いしているかは分かんないけど、もし私が政也くんと付き合うことになって、それを知った新太くんが政也くんを恨んでる可能性がないと言い切れない。そしてそのせいで彼らの友情が壊れてしまったら、自分が許せないかもしれない。でもそのハードルを越えてなかったら、政也くんと付き合ってるなんて夢のまた夢だ。


 確かに新太くんはもう近くにはいないけど、全く会えることができないわけじゃない。あれから連絡として使わない新太くんの連絡先も一応まだ自分の携帯に残っているし。削除するべきかどうか少し迷っているから、念のためそのまま残しておいた。


 そしてもうひとつの大きな悩み、私と新太くんの関係のことについて、だ。その関係の真実を知っている者は私と新太くんだけ、もし政也くんが知ってしまったら私のこと嫌いになる可能性が高いと思えるぐらいに。まぁ、確かに政也くんが人を嫌うとか想像つかないけど、もし本当に嫌われたらと思うと、私はもう……


 私は中学1年から政也くんのことが好き。彼と初めて会話を交わす時だってまだはっきりと覚えてる。初めて男の子と一緒に登下校する。初めて男の子を家に招く。そして人生で初めて恋に落ちる。全部その体験をしてくれた人は他の誰でもない、政也くんだった。でも、私はその感情を抱きながら、政也くんの親友である新太くんと付き合ってた。もしあの時ちゃんと新太くんを断ったら、たぶん今はもう……


「はぁぁ……あ、またため息ついちゃった……」


 振り返りはそろそろやめようと付け足して、またエマ先輩と嶋野さんについての話に戻る。振り返ることでネガティブな思考にしかならないしね。とりあえず今はどうすれば彼女たちに負けないようにとか考えた方が良さそうかな。


 男なんていっぱいだから他を狙った方がいいじゃないかとか思われてるけど、残念ながら恋心はそう簡単に変えられるものじゃないよ。ライバルが私より優れているだろうと諦めてたまるものですか……あっ。


「やっと思いついた……」


 そいえば政也くんと同じバイト先で働くことができたら、彼と一緒にいられる時間が長くなるのでは?彼と過ごす時間が長ければ少しでも私のこと意識してくれるかな……まぁ、結果のことはさておき、今大事なのは……


「うん、頑張る!」と自分の右拳を握りながら声をあげ、来週にアルバイトの面接を受けようと決めて、すぐにでも面接の練習を頑張ろうとする。


「あ、その前に、政也くんに連絡しようかな」と軽く呟き、彼とLINE通話で面接日のことを報告してから、結局この夜、私たちは約40分で雑談をしてしまった。

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