第14話 騒がしい朝
金曜の登校は何故かいつもよりやる気を出して学校を目指す。たぶん理由は明日土曜だからかな。その日は大体部活に励むやつだけが学校に来るから、帰宅部の俺は学校に来る必要はない。休みだーなんて思ってたけど、土曜はいつもシフトに入るわ。まぁ、学校に行くよりはマシだけどね。や、別に学校が嫌いとかじゃないよ?
それで現在、午前8時という早めの時間に登校してる俺はいつも通りのペースで歩いてる。普段この時間はまだ電車に揺られているけど、今はもう学校の近くだ。数分で俺は学校に辿り着き下駄箱で靴を変えてから2階にある自分のクラスに向かってるのだが、なんか校内に入ってから物凄く見られてるのは気のせいだろうか?
そう思いながら俺はいつの間にか教室の後ろの引き戸の前に着いた。2年B組の教室は階段から左側にあるから大体の生徒が後ろから教室に入る。まぁ、先生と前に座ってる生徒だけがよく前の引き戸から入るけど。
ガラガラと引き戸を滑らせて俺はそこで異常を感じた。さっきから外まで聞こえたぐらい教室の騒がしさが俺が姿を現した途端、何故か一気に静かになった。静かだけならまだ大丈夫だけど、視線がめっちゃこっちに集まっていると気づいたからなんか嫌な気分になってるわ。うん、理由は分からんが、まずは平然として自分の席を目指そう。
鞄を机の横にかけて俺は右隣りにいる
「なぁ、誰か説明してくれ。マジでどうしてこんなに注目されたか分からん」
「……どうしてだろうね」
「それ絶対状況を理解しているやつのセリフだぞ、沢村」
「ハハハ、確かにね。ていうか本当に分からないのか?」
「あぁ、だからこうしてお前らに聞いてるんだ」
俺がそう言ってから何故か三人同時にはぁ―と大きなため息を吐いて呆れてる。こっちもなんでまた!?
「よし、僕がヒントを与えてやる。昨日の午後は何をしていたか思い出してみて」
「なんでクイズっぽいことを始めてるんだよ。えっと……昨日はバイトをしていたけど、それがどうしたんだ二宮?」
「違う、もっと具体的に。バイトをしている間に何かあったか、もしやなにをしていたかよく覚えてみて」
「……」
昨日バイトをしている間に何があったか、自動的に頭に浮かんでるのは
「あ、答えが分かった顔してる」
「いや、これが正解かどうか全然分からんけど」
「まぁまぁ、昨日何があったか言ってみ」
「お前らなんか楽しんでるんだな。昨日バイト先で、ある知り合いに」
「はいストップ」
「なんでだよ……いや待って、もしかして正解か?」
そう訊ねて、彼ら三人がうんと揃って頷いた。いや本当、何故梨花さんが関わるんだ?もしかして昨日二人で自撮りをしてる間に誰かに盗撮されて「よくもまぁ喫茶でイチャイチャしてるなこのバカップルwww」と書かれている動画付きの投稿がSNSでバズったのか?
そう考えている間に二宮が「ほら」と何故か自分のスマホを俺に差し出した。そして二宮のスマホを受け取って俺はすぐ画面を見る。えっと……これってインスタグラムだな。そしてこれは昨日俺と梨花さんの自撮り写真、投稿者はrikariinnnつまり梨花さんだ。てかなんだよrikariinnnって。そもそも何故二宮が梨花さんのアカ知ってるんだ……
「えっ」
梨花さんのアカウントを覗こうと思ってフォロワー数を見たら驚きを隠せず間抜けな声を漏らしてしまった。まぁ、そのフォロワー数を見て驚かない方がむりな話だ。だって、24万以上だぞ?インスタやってないけどそのフォロワー数は芸能人レベルってことだけは分かってるぞ?
もしかして本当に芸能人か?梨花さんは
でも梨花さんがアップした画像はどっちも芸能人っぽい画像とかないな。大体の画像は自撮りや観光写真などばっか。てかよく旅行に行ったなこの人。大学大丈夫なのか……
って今そんなこと考えてる場合じゃない!
「なぁ、このりかりんって人はなんなんだ?」
「一緒にツーショット撮ったお前が知らないとは。てかお前インスタとか」
「やってない」
「だろうね。まぁ、りかりんは簡単に言うとインスタの超有名人だ」
「やっ、そこはもう分かったけど、何故彼女がそこまで有名なんだ?もちろん彼女の容姿以外に」
「それなら彼女の容姿が一番の理由にするね。他の理由はたぶん彼女の撮影スキルかな?ほら、彼女が投稿した風景写真を見てみて。撮影のこととか僕はさっぱりだけど、彼女が撮った写真がどれも凄いってことだけは確かだよ」
「……うん、確かに凄い写真ばっか」
俺も正直写真とかあまり詳しくないけど、梨花さんが撮った写真がどれも素晴らしいと思ってる。こんな上手い撮り方だから梨花さんってもしかしてプロのフォトグラファーなのか?
そいえば俺は梨花さんが投稿した自撮りだけでここまで注目されているな。なんか怖いけど、あの自撮りは店の宣伝だけだったからそこまで注目しなくてもいいのにな。てかインスタやってるやつ多いな。
「で、俺はこの自撮りでここまで注目されている必要あるのか?彼女が有名人なのは今分かっているけど、別に芸能人とかじゃないだろ。なんかスキャンダルに関わっている気分だからこの注目は嫌になるわ」
「うん、写真を見た時は正直驚いたけど、その投稿に書かれたものの方が僕はもっと驚いたよ。ていうかそっちのほうがこの状況のメイン原因かもしれないね」
あっ、そいえば読んでなかったな。一体何書かれたんだ……
『彼氏のバイト先にお邪魔しました〜♡♡』
うおおおおいいいい!!梨花さんマジで何書いてんだ???アホか?ドアホなのか??普通そう書くのか??てか何が宣伝写真なんだよちくしょー。いや、信じた俺も悪いか。
はああ、誤解を解くのめんどくせぇと思ってから俺は反射的に
しっかしこの投稿のコメント数多いな。見る限り大体のコメントは「誰だアイツ」ばっかだ。まぁ、想定通りだけど。あっ、このコメント結構長いな。
『りかりんに彼氏!?正直驚いたけどお似合いのカップルと思ってるから応援します!!でも間違ってたらすみません、その彼氏さんってもしかして2年か3年前に全国中学校サッカー大会で大活躍してた人ですか?ファンだったから顔はよく覚えています!』
お、おう、まさか俺のファンだった人がまだ俺の顔を覚えているとは。そいえば前はファン結構いたな。そしてそのコメントの返信が何件あるから、ついでにその返信を表示する。
『写真見て彼はどっかで見たようなと思ってこのコメント見てたらやっと覚えた笑』
『あー確かに彼だったね!あの決勝戦は残念だったけど、あの時より成長してプロ選手を目指したら彼間違いなく未来の日本代表になれると思う。でも彼がりかりんの彼氏だなんて僕も正直驚いたよ』
『いやたぶん彼はもうサッカーやらないのでは?高校生になった彼がまだサッカーやったら全国大会で噂ぐらい聞こえるだろ。でも現に今その噂が流れていないから彼はもうサッカーやらないと思うよ』
『高校生って、りかりんが年下好きなんて意外だわ笑』
どうやら俺のことを覚えてる人たちは結構いたな。でもプロサッカー選手を目指して未来の日本代表か……あはは、正に俺の夢だったなぁ。
「お、おい
「え?あぁ、大丈夫だ日野」
「だがお前さっき暗い顔してたぞ」
「え、そうなの?」
「あぁ」
あーあ、無意識に暗い顔をしてたな俺。サッカーのことを思うとどうしてそうなっちゃうんだろ。別にトラウマとか嫌なことがあったとかじゃないのになぁ。
「で、何があった?いや、何を見てたんだ?」
どこか不思議そうな顔をしながら沢村が俺にそう訊ねた。うーん、ここで話すとなんか嫌だから、俺はいや、何でもないんだと返事をしてから二宮のスマホを返した。
「ふーん、そっか……」
沢村はもの言いたげな表情を浮かべたけど、見ないふりした方が良さそうだな。そいえばこのことさっさと梨花さんに訊こうと思って俺は梨花さんにメッセを送るためにLINEを起動した。
『朝っぱらからすまんが、インスタで梨花さんがアップした画像のこと、説明してくれないかな?』
送信、と。
「で、話戻るけど。お前は本当にりかりんと付き合ってるのか?」
折角クラスの連中が俺から視線を外したのに、二宮の質問でまた戻ってしまった。まぁ、これなら誤解を解くには丁度いいだろうけど。
「いや違う。彼女はただのバイト先の常連客でよく俺に絡んでくるだけだ」
「ふーん……」
「本当だぞ?ちなみに、あの自撮り写真も梨花さんが店の宣伝になるよとか言ってたから撮ったんだ」
「その割にはめちゃくちゃくっついて恋人みたいに色んなポーズで自撮りを撮ったのだが」
「うっ、あれは彼女にそうさせられただけなんだよ」
「その割には満更でもないご様子だったけどな」
「嫌がる必要なんてなかったからなあれ」
「「「ハハハハハ」」」
沢村たちが3人揃って笑い出した。いやナニ笑ってんだよ。
「この期に及んで僕は大体春川君の性格がどうだったかよく分かった」
「あはは、僕もだ」
「馬鹿正直というかなんというか」
「それ褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」
「マ?」
「マ」
「まぁ、どうでもいいけど、とにかくそういうことだ。俺は梨花さんと付き合ってない、あの投稿は彼女が気まぐれで投稿しただけだろ」
「はいはい、分かった分かった」
「絶対分かってないやつだろそれ」
はあーと俺は大きなため息をこぼした。結局この3人が本当に俺のこと信じるかどうかは分からんけど、クラスのやつらはどうやら興味を失い始めて俺から視線を外した。
そしてまた文香の方に視線を向けたらまた顔をそらされた。さっきからなんなんだ文香よ。やっぱ後できちんと話した方が良さそうだな。おっと、梨花さんの返事が来た。
『テヘペロ』
『テヘペロ、じゃねええわ!次会う時説教するからな!』
『きゃあ~~
『顔洗ってから返事しろよ』
はぁー……ってまたため息こぼしたし。てか調教って、梨花さんドMかよ。
「へ~」
俺の右に二宮がいると気づいた途端俺は反射的にざっとスマホの画面を隠した。あ、こいつニヤニヤしてるからもう遅かったか。
「なんだよニヤニヤして」
「うーん、なんていうか……なんかすまんな春川君。覗くつもりなかったから許してね。でもお前って本当ヤバいな」
「…………」
「ん?お前ら何の話をしてるんだ?」
「いやなんでもない。気にするな」
「そう言われると逆に気になるんだが、まぁいっか」
そして一限目の授業が始まる鐘がクラス中に鳴り響いて、俺は自分の席に戻ったのだが、何故か文香の隣の席に座ってるギャルっぽい女子がこっちに見ている……
うん、無視しよう。っと、文香からのLINEだ。
『後で私とも自撮りを撮って』
『なんでだよ』
『私たち自撮り写真とか撮ったことないから撮りたいの。決してあのりかりんなんとかさんに嫉妬してるとかじゃないからね!?』
いや、そこはツンデレしなくていい。てかお前のキャラどうなってるんだと返事したいのだが、怒られそうなのでやめた。てかあからさまに嫉妬してるんじゃないかあれ。俺のこと好き好きオーラを隠す気なかったのかあいつ?
まぁ、もうすぐ授業始まっちゃうから、俺は文香に「分かった」と返事を送った。そして、この日の昼休みはいつもの昼食するスポットで文香と自撮りを撮りまくった日になった。
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