第12話 新たな仲間
「授業は以上です。教科書の8ページから10ページまでの宿題は来週の水曜日までに提出するように。それでは、また来週」
「「「はーい。ありがとうございました」」」
はーと溜め息をこぼしながら俺は机に突っ伏して数学のことを一旦忘れることにした。5分経ったら屋上に行こうかなと小さく呟いてから、右側から「ほい」という喧嘩を売りに来たような声が聞こえた。そして上半身を机から起こして、右側に視線を向けたらそこは合計四人の男子生徒の姿が目に入った。
え、この四人俺に何か用か?てか他の三人の少し前に立つ容姿半端ない一人の男子生徒は見覚えがあるやつだ。彼は一昨日俺を強く睨んでた男子生徒。さっきのほいももしかしてこいつが口に出したのか?
まぁ、それはさておき、そろそろ返事をしよ。
「えっと……四人揃って
「ブっ!」
そう言ってから、何故か俺の隣の席から笑い声を堪えるような声が聞こえた。
「違げぇよ。つーか四天王ってなんだよ」
「え、知らないのか?英語だとFour Heavenly Kingsという、えっと……ちょっとググってくる」
「ググらなくていい。知るかんなもん。てか無駄に英語の発音がいいんだな。自慢か」
「いや普通だろ……で、俺に何か用があるのか?」
俺がそう聞いてから、彼は何故か後ろ振り向いて何かを確認するような仕草をしている。数秒後でまた俺の方に視線を戻した。
「単刀直入に聞くけど、お前は
彼が訊ねたその問いに、俺は一瞬で目を見開いた。そしてひとつ気づいて「あぁ、そういうことか」と小さく呟いた。
「なんだよ」
「いや、こっちの話だけだから気にすんな」
一昨日俺を睨んだ理由はやっと分かった。こいつは文香に好意を寄せているからだ。そして俺と文香が一緒にいたところを見てたこいつは嫉妬して俺を睨んできたな。
てかそれを聞くためにわざわざ俺の所にやってくるのか普通?文香に直接聞けよ!と思って、文香の席の方に視線を向けたら彼女の姿がなかった。あ、もしかしてこいつヘタレなシャイボーイだから訊けないのか?スペック高そうなのに?
「で、どういう関係だ?」
「俺が言ってもたぶん信じらないから、直接文香に訊いたらどうだ?」
そんな提案を言ってからクラス中が何故急にかざわつき始めた。クラス中を見渡すといつの間にかめっちゃくちゃ視線を浴びた。おい四天王、どうしてくれるんだこの状況。
「へー、名前呼び捨てるほど仲がいいとは」
「え、気にするところそこ?」
もしかしてクラス中にいるやつらもそこ気にしてざわざわし始めたのか。あぁ、確かに名前呼びは親しいという証拠のひとつだな。文香のことを朝倉って呼んでるこいつは文香とそんなに親しくない、と。でも文香の名前を呼び捨てることだけでそんなに騒ぐ必要あるのか?
そしてさっきざわざわする生徒が俺たちの会話をはっきりと聞きたいからか急に静かになった。何故か分からんけど、ここはひとつ試したいことがある。
「文香と俺の関係か……そうだな、強いて言えば体の関係」
「「「はあああああ???」」」
静かなこの教室が俺の爆弾発言により一瞬で爆発してしまった。思った以上反応がヤバかったなこりゃ。まぁ、ちょい落ち着かせるか。
「というのは冗談として、俺と文香は中学からの知り合いだ。同じ中学だったからな。この答えでは満足か?」
「満足かどうかの問題じゃねぇんだろが。さっき体の関係の冗談はなんなんだよ」
「やーい、引っかかったー」
俺がそう茶化して、彼は眉間にしわを寄せてなんか怒ってる。おいおい、冗談を本気にしたら人生苦労するぞ。
そして後ろから彼の肩にポンっとして、「落ち着け、
「春川もあまりこいつを煽るなよ」
「えっと……」
「
「あぁ、正直忘れた」
「ド直球か。お前って意外とペラペラ喋ったな。まぁ、折角だから三人共自己紹介したらどうだ?」
坂牧が他の三人を見てそう彼らに聞いた。玲央って呼ばれたやつ以外は背が高くて坊主頭の男子と目が見えないくらい前髪が長い男子。いや、前見えるのかあれ?てかよく見るとこいつらの見た目は目立ちすぎないか?
「了解。オレは
「おぉ、坊主のやつ」
「俺は
「おぉ、前髪の長いやつ」
「お前なんで朔と健斗の見た目のことしか言わないんだ」
「ハハハ、すまん」
「まぁいい。俺は
「うん、俺は
それじゃと付け足して、俺は弁当箱を机の中から取り出して、腰を上げようとしたところで――
「いやいやそれじゃ、じゃねぇんだろ。なんで普通に解散しようとするんだお前」
「え、いやいや昼食を摂るに決まってるんだろう。今昼休みだからな」
「いやいやさっきの話の続きの方が重要だろが。何途中で切ってんだ」
「いやいやもう答えたんだろ。文香は中学からの知り合いだけだ」
「……そうか?恋人じゃねのか?」
「じゃねぇよ」
「朝倉を狙うとかは?」
「
「へー。じゃ俺が朝倉を近づいても問題ないよな?」
「……あぁ、好きにすれば」
お前のその気持ちは文香に届かないと思うけどなと何故か俺は彼に聞こえられないようにそう小さく呟いた。
「……そうか。まぁ、俺の用はこれで終わり。じゃ」
「あぁ……」
宮田は背を向けて他の三人に「食堂行こうか」と言ってから四人で教室を後にした。そして同時にさっきから静かになってた教室がまた賑やかになった。これはきっと後で噂になるやつだな……
宮田ってやつ俺と文香の関係を聞くためにわざわざ俺の席までやってきたとか本当に変なやつだな。あいつは悪い奴には見えないと思ってるから好きにすればって言ったけど、本当にいいのかなあれで……
まぁ、結局決めたのは文香の方だけどな。文香は俺に好意を寄せている。だが、もし宮田のようなモテそうな男子に告白されたらどうなるか正直分からないな。実際、モテた
「何しけた面してんだ、春川」
「え?」
急に声をかけられて、右側に視線を向けたら俺の隣の席に集まった男子三人が目に入った。今度は三人か。さっきは四人だから四天王だけど、三人だったら……知らん。てか何考えたんだ。
隣の席に座ってるやつの名前は流石に覚えてる。何かある時困らないように覚えた方がいいだろ。実際高一の時も隣の席の人のことを覚えたし。今忘れたけど。そしてこれから一年間隣の席の人は
「あぁ、なんでもないんだ」
「そうか?しっかしお前は宮田に絡まれたのによくそんな平然としてあいつの対応できたね」
「平然?」
「おう、宮田が元ヤンって噂知らないのか?」
「知らないな。てかあいつ元ヤンなのか?全然見えないけど。ただの噂に過ぎないか?」
「俺も最初ただの噂と思ってた。あんなことを見てしまったまではね」
「……何があった?」
俺がそう訊ねて、沢村は何かを確認するためにクラス中を見渡している。さっきの宮田との絡みが終わってから、こっちに注目している生徒がもういなかった。沢村に視線を移すと、彼は何か覚悟をしている。
「……聞かれるとマズいと思うから、ちょっとこっち来て」
俺は軽く頷いて沢村の席に近づいた。そして彼は「これは去年の秋のことだ」とひっそり小声で話し始めた。
「始めは俺とこの二人、
「…………」
「何の理由であの人をボコボコにしたか分からないが、アレは本当にヤバかった。俺らも言葉にひとつもできずただアレを見ていただけだ。止めたいのも山々だけど、チキンの俺たちには巻き込まれたくないからそれができなかったよ。でもどうやら宮田の行いは学校側が知らなかったようだから、たぶんあの先輩らしきの生徒が宮田に何か脅されたと思う。そんなことがあったのに、噂にならなかったし」
「へー、あいつそんなことを……本当、全然そう見えないけどな正直」
「まぁ、きっと何か理由があって殴ったと思う。理由なくあんなことしたら流石に隠された事件が隠し切れないだろ」
「だろうな。俺もそう思う」
理由もなく人を殴ったらもうアウトだ。殴られた側が何も悪いことしなかったら黙ってはいられないだろ。でももし宮田が理由なく殴ったら流石に文香に近づきさせねぇわ。裏が正直どうかは分からないけど、さっきあいつを見たら正直全然そうじゃないと思う。
「今のところは宮田が元ヤンであること、周囲にはただの噂だな」
「そうなるな。まぁ、あいつが怖いと思ってる男子生徒は少なくないけどな。しかし元ヤンって噂でも女子たちには人気が凄く高いよ。あんな容姿でサッカー部のエースとして大活躍しちゃ頷けるしかないけど」
「っ!」
サッカー部のワードを聞いて俺は少し肩を震わせた。おいマジか。またサッカー部のエースに狙われてしまうのか文香は。でも、気になるところがあった。それは……
「……あんな凄くスペック高い男子が何故文香を狙ってるんだ……」
「「「え?」」」
俺がそう呟いて、前にいた三人は驚いたからか間抜けな声を出して目を見開いた。え、何?
「どうしたんだお前ら?」
「……いや、お前は知らないのか?」
「何が?」
「知らないって反応だねこれ」
「だな」
「いや、だから何が?」
「……朝倉さん、学校では人気者だよ?」
「……はっ?マジで?」
彼らは三人揃ってうんうんと二回頷いた。確かに中学よりずっと綺麗になった今の文香を見て薄々そんな気はするけど、まさか本当にモテるとは。中学の時文香の魅力を知っている者は俺と新太ぐらいだけだったから、高校で人気者って聞いたら少し驚いた。それで人気者だった新太に告白された文香は、あの時よりずっと綺麗になったから当然宮田のような男子に狙われたか。本当、色々変わったなあいつ。てか一昨日から文香と下校した時妙に視線をあちこちから感じたと思ったら、理由はそれかよ。
俺高一から学校の事情とか流行りとかにあまり興味ないから、文香が人気者であることを全然知らなかった。まぁ、容姿以外は頭の良さかな。高校生になってから勉学に励み始めた俺はテストが終わる度に必ず廊下にある掲示板に貼り出された定期テストの順位表を見る。勉強苦手だった俺は最後のテストで学年50位以内まで取れたけど、文香の場合はやっぱり学年1位だ。
頭が良くて綺麗な女の子か……人気になるの当然ってことだな。でも彼女にも苦手なことがある。それは体育だ。中学の時はそうだったけど、今はどうだろ?まぁ、来週の体育授業で確かめるか。いや、今はそういう場合じゃないだろ。
「でも僕は正直驚いたよ、春川君」
「何が?えっと……」
「そいえばさっきから自己紹介はまだだったね。
「あ、あぁこっちこそ」
「背が低いって余計なんだよ」
「まぁ、それは置いといて」
「置いとくな!」
「僕が驚いたのは朝倉さんと君のことだよ、春川君。一年の時からモテる朝倉さんはよく色んな男子に告白されて、それを全部断って男の気配が彼女の周りに全然見えない一年間。それから二年に上がって早々朝倉さんの近くに謎の男が姿を現したら……」
「……驚いただろうな……」
「でしょう?」
俺はあぁと返事しかできなった。文香はモテるからよく告白されたって二宮が言った時一瞬で心地がなんか良くないと感じた。そして文香がそれを断った事実を知って俺は何故かホッとした……
え?何?さっき宮田に好きにすればって言った癖に、俺はもしかしてまた文香のことを?それともまた彼女と離れたくない気持ちはあるから今更焦った?いや、どっちも同じことだと思うけどね。思春期ってこんなに面倒な思考を持っているのか?
まぁ、今確かなことはもし文香が誰かと付き合ったら流石に彼女に接することができなくなるな。自分の女が他の男子と仲良くしたところを見たら嫉妬心に襲われるだろ普通……
あぁ、でもそうだったんだ。高校生の男女の友情って無理があるなぁ。高校生限定ってわけじゃないけど、男女の友情ってもしその一人が恋人ができたら、その恋人を優先してもう友達とか親友とかいられなくなるだろ。いや、優先の問題じゃないかな。その恋人をヤキモチを焼かせたくないからそうなると思う。まぁ、その恋人が二人の知り合いなら話は別だけど。
でも俺は三日前、一年ぶりに初めて文香と会話を交わした。そして文香の俺への気持ちも知ってしまった。あえて知らないふりをした。中学みたいに友達として接しているだけで十分だと、俺は文香にもそう思って欲しかった。
でもそれは無理だった。文香は一昨日からやたらと俺に構ってほしかった。因みに、昨日も文香と一緒に下校したけど、流石に人が少ない電車内では一昨日みたいな行動はしてこなかった。まぁ、あの時文香は不満な顔を見せたけど、あれでも可愛かったな。それでこの二日間の間、それは友達の距離感じゃないって今は実感してしまった。そしてさっき宮田の問いに答える時少し躊躇ったことと沢村たちが文香はモテてよく告白されたって言った時なんか心地良くないと感じたことはやっぱり……
文香とはまた離れたくないからだ。
彼女のことが好きかどうかの問題じゃない。彼女と付き合いたいかどうかの問題じゃない。シンプルに彼女と過ごす時間が好きだ。実際中学の時からそう感じてるんだ。それに彼女は俺に告白したいかどうか分からない。彼女が俺に告られたいかどうかも分からない。そもそも文香は今俺と付き合いたいかどうかすら分からない。だから今の俺の結論は文香に告白せずこのままの関係であってほしい。我ながら頑固なやつだけど、今の関係はやっぱり俺には心地良いと感じてる。
それに、俺にとって彼女は『親友の元カノ』、そして彼女にとって俺は『元カレの親友』だ。その称号を持って関係を進みたくても簡単に進めないと思う。文香がそれを気にしてるかどうか分からないけどね。まぁ、今は彼女が宮田を遠ざけることを祈ろうかな。もし彼らが本当に交際したら、さっきの言ったように、俺はもう文香に接することができなくなる。
折角再会して再び仲良くなったから、また疎遠になったら嫌だしな。まぁ、一年間彼女を避けていた人が言っちゃいけない台詞だけどね、これ……
「—―かわ、春川」
「えっ?あ、あぁどうしたん?」
「どうしたんじゃないだろ。なんでさっきからぼーっとしてるんだお前」
「……いや、なんでもない」
「そうか?ならいい。ところでさ、僕ひとつ聞いていいか?」
「ん?なんだ?」
俺がそう返事したら、日野というさっき二宮がそう呼んだ背が低い男子はなんか躊躇って周囲に見渡す。彼に釣られてクラス中に見渡すと、どうやら俺ら以外誰もいなかった。
そして数秒後、日野が何か覚悟してやっと口を開いた。
「さっき宮田との会話聞いたけど、お前は本当に朝倉さんと付き合ってないのか?」
「え?そうだけど。どうしたんだ?お前も文香を狙ってるのか?」
「違う」
「即答かよ」
「朝倉さんは確かに魅力的な女の子とは思ってる。いや、大抵の男子はそう思ってると思う。でも僕は彼女のことを恋愛対象としては見てないよ。カノジョがいるからね僕は」
「なぁ、沢村、二宮、これって結局自慢話?」
「違うよ!?ていうかこの二人も彼女いるし」
「マジかぁ……」
沢村と二宮は「あはは」と返事しかできなかった。この三人見た目はオタクっぽいのに、まさか全員彼女持ちとは。いやオタクっぽいってなんだよ。失礼なやつだな俺。てかさっきこの三人、自分のことチキンって言ったよな?チキンである彼らは恋人がいたら、恋人いない俺はチキン以下なのか?
いや、恋人とかどうでもいいんだけどね。
「まぁ、話を戻すけど、お前は朝倉さんと付き合ってないって言ったな?でもすまんがその嘘は僕らには通用しないよ?」
「は?どういうこと?」
「ハハハ、とぼけてるとぼけてる」
「全くだ。アレを見せられたら流石にな」
「だねぇー」
「……俺もしかして虐められてる?」
俺がそう言って、彼らは三人揃って笑い声をこぼした。おいマジでピンと来ないぞ俺。一体何のことだ?見せられたってのも何のことだよ。
「やぁ、お前の表情からは確かに悟れないけど、アレを見せられた以上流石に嘘って分かるよ」
「いや、マジで何のことだよ?」
「一昨日彼女と何かあったかを思い出してみて」
「えっと…………昼休み終わる前に俺が文香と教室前の廊下で喋ってたから?」
「それもあるけど、それじゃない。ほらもっと印象的なことあったはずじゃん?」
んん、なんだっけと俺は頭を巡らせて思い出そうとする。印象的なことは……電車内で文香に抱きつかれて、降りる前に俺の頬が彼女にキスされたのことか?こいつらもしかして同じ車両にいたのか?いや、あの時は遅めの時間に帰宅したから同じ学校の生徒なんていなかったはずだ……
いなかった、よな?うん、こいつらに確認しよ。
「……お前たちもしかして同じ車両にいたのか?」
「正解〜」
「マジか……」
「で、やっぱり付き合ってる?」
「いやだから付き合ってないって」
「またまたぁ」
「満員電車であんなにイチャイチャしてよくもまぁそれを否定できるんだなお前は」
「あれは誤解だな。あの時文香が勝手に抱きついて勝手にキスしただけだ。本当に付き合ってないよ俺たち。彼女とはただの中学からの友人みたいなもんだ。てか俺今恋人作りたいとか思ってないぞ?」
「本当かなぁ?」
「あぁ」
「……まぁ、今はそいうことにしておこうかな」
「だなぁ」
「お前ら俺をいじって楽しいのか?」
揃って、彼らはうんと軽く頷いた。今日が初めてこの三人と喋ったけど、よくここまで馴染んだな。まぁ、楽しいと感じているのは確かだけど。高校生になる前に、俺は本当に明るく元気な子で友達も多かった。でも高校生になってから、俺はいろいろ忙しくて新たな友達を作るとか考えていなかった。新太だけに……チっ、滑ったか。
まぁ、高一の時は友達を作らなかったけど、確か隣の席の生徒Aとは会話とかそこそこやってた。グループワーク時はどうするって?いや、流石に会話交わしたんだろう。俺別にコミュ障じゃないからな一応。
「ふっ」
「ん、どうしたんだ春川?急に吹き出して」
「いや、久々に男同士とこんな盛り上がりな会話をしてなかったからついな。てかめっちゃ今更だけどお前、沢村は初日から俺と喋ってなかったのに、さっきは何故いきなり親しく俺に声かけたんだ?」
「あぁ、それ僕も思った。春川君は近づきがたいオーラが半端ないからね」
「待って、何のオーラだ?俺それ知らないけど」
「無自覚か。まぁ、今はもう感じてないから話は流すね」
「流すな」
「で、どうだったんだ卓君?」
無視するなと俺は付け足した。俺と二宮に訊かれた沢村はうーんと考えるポーズをしている。数秒後、彼は口を開いてこう答える。
「まぁ、単に春川は話しやすいに見えたからかな?宮田たちと喋った時はそう見えて、春川に声をかけてみよ判断したが、想定以上のコミュ化け物だったよ。折角隣の席だから、仲良くするのも悪いことじゃないだろう」
「そうだな。俺もそう思うわ。で、俺がさっき宮田たちと喋った時、隣から笑い声を堪える生徒はもしかしてお前たちだったのか?」
「あぁ。あはは、やぁ本当そこで四天王っていうワードが出てくるとは思わなかったよ」
「だね。宮田って怖いからよく初めてから茶化したんだなお前は」
「そうか?普通だと思ったけどなあいつ。ん?」
マナーモードにしたスマホが震えて俺はズボンの左ポケットからスマホを取り出した。画面を見たらどうやら奈々子からLINEが届いた。えっと……
『私の愛する兄ちゃんへ。昼休みのチャイムが鳴ってから結構経つけど、今日屋上に来ないの?文乃ちゃんと文香先輩が待ってるから絶対に来てね?兄ちゃんの愛する妹より♡』
スマホの時計を見て今昼休みが始めてから20分以上経った。うわ、結構経つなぁこれ。てか文香はいないと思ったら屋上にいるのかよ。ちなみにあの三人は昨日来なかったから俺はいつも通りの一人昼食をしていた。今日は四人か……まぁ、早速行くか。
『Ok. On my way』
そう返事してからすぐ『Hurry up!』って奈々子からの返事が返ってきた。なんだ、英語できるのか妹よ。そして俺は自分の机に置いてあった弁当箱を取ってから、沢村たちに向けてこう言った。
「じゃ、昼休み20分以上経つから、俺は昼食しに行くわ」
「お前はいつもどこで昼食を摂るんだ?」
「屋上だけど、なんで?」
「いや、聞きたいだけだ」
「そうか?てかお前ら彼女いるって言ったけど、彼女とは一緒に昼休み過ごさないのか?あ、もしかして別のクラスにいるとか?それとも他校?」
「……あぁ、それはだな……」
彼らはそう聞かれてから何故か苦笑して俺を見ている。え、何?三人同時に彼女と喧嘩中でもしているのか?ありえるのかそれ?
そして彼らは三人揃って自分のスマホを出して、何かを起動した。数秒で、彼らはスマホの画面を俺に見せた……
おい、マジか。その画面の中には――
「二次元の女かよ!?」
「「「ハハハハハ」」」
「笑うなよこんちくしょー。クッソ信じて損したわ。やっぱオタクじゃねぇか」
「あはは、ごめんごめん。でも卓君だけは本当にリアルな彼女がいるから許して」
「はぁ、そうかよ。ってまた足止まったし。じゃ、俺はそろそろ屋上に行くわ。またな」
「待った」
「ん?なんだ沢村?」
「俺らのLINEグループにお前を招待していい?」
「……いいけど、お前らはいいのか?今日初めて接したからな俺たち」
「いいよ別に」
「春川君なら歓迎する」
「そうか?じゃ、分かった。まずLINEID交換しよか?」
「いや、クラスのグループにあるから、あとでそっちから追加しておく」
「そいえばそこからできるな。分かった。じゃな」
「おう」
彼らに背を向けて俺はクラスを後にした。今日の昼休みハプニングが多くて結構疲れた。宮田の件はさておき、今日新たな仲間ができてよかったな。しかも三人。まぁ、高一の時と全然違って今はちゃんと友達を作って中学の時みたいに眩しい学校生活を送れそうかな。そんな前向きに考えながら俺はゆっくり歩いて屋上に向かった。
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