第10話 その後のこと
放課後生徒会室に向かってる政也くんを尾行するのがバレて、生徒会の仕事を手伝うことにしたり、エマ先輩と知り合いになったり、紅茶を味わいながらいろんな話をしたりしてから、政也くんと久々に二人で下校して分かれる前に彼の頬にキスをした数時間後のこと、さっきから食卓を囲んでる私は目の前にあるご飯に手を付けず眺めてるだけで、食事をする場合じゃないと頭がそうさせる。
「どうしたの文香ちゃん?さっきから珍しくぼーっとしてるなんて……」
自分の名前が呼ばれた時私ははっと我に返って、正面にいるお母さんが首を傾げながら心配そうな表情で私を見ている。
「もしかして体調でも悪いの?もしそうならちゃんと言ってね?」
「ううん、大丈夫だよお母さん。ただ考え事をしただけだよ……」
「そーう?それならよかった」
「……姉さん今日帰りが遅かったが、もしかして政兄さんと放課後デートでもしていたんですか?」
「っ!……」
文乃がそんな唐突な爆弾質問を投げて、私は露骨に肩を震わせてしまった。この子意外と鋭い。デートじゃないけど、私が放課後政也くんと一緒にいたことよく知ってるよね。
「簡単な推理を言ってみただけなんですが、姉さんの反応から見ると本当のことみたいですね」
「あら、そうなの文香ちゃん?」
「デートじゃないです!」
文乃がそう言ってからお母さんがニヤニヤしながらそう聞いた。当然私は即否定をした。だって普通に政也くんと一緒に下校しただけだし、デートなんてしてなかったもん。
「放課後は政也くんと一緒にいたということは否定しないわね~」
「うっ、まぁ、単に二人で下校しただけで、デートとかじゃないわよ」
「まぁ、それは置いといて、さっきからあんなにぼーっとしてたあなたは一体政也くんと何があったかしら〜」
「な、何もないよ……」
文乃とお母さんがじっと見ながら「ふーん」と私を疑ってるような声で返事をした。だって、仕方ないじゃない?頬とはいえ政也くんにキスをしちゃったなんて言えない。
そして何故かお母さんが側にいる文乃の方に向けて、私に聞こえないようにからか口を手で隠してひそひそと話し始める。
「これは何かやっちゃったわね、文乃ちゃん」
「私もそう思いますよお母さん。その反応は絶対キスしちゃったていう反応ですよ。勿論唇に」
「頬わよ頬!唇じゃない!ていうかわざと聞こえるように喋ってたでしょうあれ!?……」
お母さんと文乃が軽くうんと揃って頷いた。珍しく息ぴったりだねこの
そしてお母さんが「ふふっ」と小さな笑い声をこぼした。
「意外と大胆なことをしちゃったのね、文香ちゃん。で、それ以外は何をしたの?」
「そ、それ以外は何もなかったです」
「ふふ、その喋り方では嘘だとバレバレって知らないのかしら~?さぁさぁ、全部白状したまえ~」
「そうですそうです」
「私をいじめて楽しいのかな……」
もう逃げ道がないと悟った私は大きなため息を吐いてから話しを始めることにした。まぁ、話と言っても電車内で政也くんに抱きついたり、分かれる前に頬にキスしちゃったりしただけのことだけど。今思うとこんな話を身内に話してるの意外とあまり恥ずかしくないけど、もしかして羞恥心バグってるのかな?
そして全部話したら二人共は何故か何も言わずに真剣な顔でじっと私を見ている。え、一体どうしたの?
「文香ちゃん……」
「はい?」
「政也くんの抱き心地はどうだった?」
「はい!?」
お母さんのそんなシリアスな表情と裏腹に質問が想定外すぎて思わず大きい声で返事をしてしまった。聞いてどうするつもりなの、お母さん?……
でも、政也くんの抱き心地か……政也くんは背が高いから、抱きついた時は彼の胸が丁度私の目の前にあったなぁ。男だからかグリグリと顔を政也くんの胸に埋める時はやっぱり固い感じがしたけど、それが何故か心地良くて安心感を感じたなぁ。今思い出すとなんかまたしたくなった……
「ゴホン」
そんな急に妄想の世界にダイヴしかけた私はお母さんの咳払いで我に返った。
「なんか良からぬ想像を」
「してない!」
「あらあら。そういうことにしておこうね。で、どうだった?」
「教えないから」
「へー。仕方ない子ね。まぁ、会う時に直接確かめるか~」
「それはダメ!」「それはダメです!」
さっきから私とお母さんが会話していた所を黙って観察していた文乃がまさか私のツッコみとハモった。あれ、なんかデジャヴ感じたけど、気のせいかな?
「ふふふ、また完璧にハモったわね二人共。まぁ、あれは冗談だから本気にしないでね~」
「だ、か、ら、お母さんの冗談は冗談って聞こえないからね?本気にしない方が難しいよ」
「ふふ、そんなの流石にしないわよ~」
「ふん、どうだか」
そう疑ってるような声色で返事してから私はスプーンで目の前にあるご飯を掬い上げ口に運んだ。今日の夕飯、お母さんが作った肉じゃがはいつも通り美味しい。昨日のカレーといい今日の肉じゃがといい、お母さんが作った料理は本当に美味しかった。私料理は得意でも苦手でもないけど、お母さんのレベルになりたいならそろそろ料理を教えてもらおうかな?うん、念のためにそうしよう。
そんな決意をしてから私はふとさっき政也くんと駅に向かってる途中の会話を思い出した。正確は政也くんが彼、
久々に聞かなかった彼の名前が聞かされた時、私は焦ってつい話をそらしてしまった。口が勝手に話をそらしたから何故焦ったかあの時は本当に分からなかった。でも今は冷静に考えるとなんとなく分かった。あれはきっと……
「……文香ちゃん?またぼーっとしてるけど、もしかしてまた考え事してるの?」
「え?あ、あぁ、うん少しだけ」
「姉さんまた政兄さんのことを」
「してるけどしてない!」
「えー、どっちなんですか?」
「まぁまぁ、そこまでにしなさいな。文香ちゃんが何の考え事をしてたかお母さんは知らないけど、あまり考えすぎるのも良くないから程々にしてね?さぁ、また食事に戻りましょう」
「「はーい」」
そう返事した私と文乃がまたご飯を口に運んだ。まぁ、今はそんなことを考えなくてもいいかな。もう過ぎたことだからね。
そういえばさっき帰り道で、政也くんは私が話をそらしたことを気づいてるのかな?でもあんなにバレバレだし、きっと気づいてるよね?
まぁ、分からないけど、気づかないで欲しいと私は祈ることしか出来なかった。
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