第8話 美人生徒会長との関係
意外なメンバーと一緒に昼休みを過ごした後、3階の踊り場で2階に下りようしたところで俺はとある女子生徒に名前を呼ばれて、後ろから抱きしめられたけど、背中に押し当てられた胸で正体が一発で分かった。その正体は3年生でこの才華高等学校の生徒会長をやっている、
それから放課後付き合ってくださいという先輩からの申し出が来た。先輩の言い方に少し驚いたけど、いつものやつかって聞いたら先輩はこくっと頷いた。
俺はその申し出を受け今日の授業が終わってからすぐ生徒会室に向かった。そして4階にある生徒会室に無事たどり着いた俺は、ドアを2回ノックして「どうぞ入って~」と中からどこか楽しそうな声色で返事したエマ先輩の声が聞こえてから、すぐそのドアを開けた、のだけれど……
「お前も入るか?」
「え?」
生徒会室に入る直前に、さっきからなんか視線を感じたなぁって、右側に視線を移すと、ひょこっと壁から顔を出してる文香がこちらに様子を伺った。それで反射的に文香に声をかけて誘ってみたけど、彼女は間抜けな声を漏らして返事をした。
さっきのあれもしかして尾行してるつもりだったのか?あんなバレバレだったのに?もしかしてバカなのか?って思ってしまった。まぁ、それは置いといて、たしかエマ先輩と奈々子と文乃ちゃんと分かれた後、俺は文香と一緒に並んで自分の教室に向かってる途中で―――
「ねぇ政也くん、桜川先輩と付き合ってるの?」
「いや、なんでそうなる?」
「だってさっき先輩が付き合ってって……」
「さっきも聞いたろ?放課後に付き合ってっていうのは生徒会室で何か手伝ってほしいのことだ」
「うん、それ聞いてたけど……なんで政也くんなのかなって……」
文香がそう聞いた時はもう教室の前に着いたけど、時間少しあるし、他の生徒もまだ外に多いから俺は廊下の窓の方に移動した。そして文香もこっちに移動してから、俺は口を開いた。
「ん、まぁ、なんでって聞かれたら答えはたまにエマ先輩を手伝ってたからかな?先輩には頼れる人がいなかったからよく一人だけで生徒会の仕事をしているんだよな。エマ先輩から聞いた話だけど、現在の生徒会長以外の役員は教師に決められたから、なんかこう…まるで成立してないんだ。他の役員は部活で忙しいという理由で、生徒会室に顔を出さないことが多かった。エマ先輩だって美術部に所属してるというのに、何故エマ先輩だけがよく生徒会室に顔出せるんだっての話だ。まぁ、実際詳しいことは知らんかったけど、ここまで話しを聞いたら分かったんだろ?」
「えぇ、でもそんなことあったんだね」
「あぁ、初めて聞かされた時正直驚いたわ。ほんっと、エマ先輩は他の役員のカバーする時どれだけ頑張ったのか俺には分からんけど、無理だけはしないで欲しいんだ。あ、色々喋っちゃったけど、この話他言無用で頼む。エマ先輩は隠すつもりなかったけど、一応な」
「うん、分かったよそんなこと。それで、生徒会室では桜川先輩と二人っきりってこと?」
文香がそう訊ねてから、少し頬をぷくっと膨らんでる。うん、嫉妬心丸出しだなこいつと内心でツッコんだ俺は、気づかないふりをし話を続けた。
「そうなっちゃうなぁ。てかいつも二人っきりだけど」
「へ、へー、ふーん……なんか室内で二人っきりとかいろいろヤバくない?」
「あのエマ先輩の姿見て、大抵の男子はどうなると思う?」
「うん、ヤバいね」
「だろ?まぁ、俺いつもギリギリまで我慢できたけどな。あははは!」
「笑うところじゃないのよそこ!もうっ……えっと、それじゃぁ、今日も一緒に下校するの無理か……」
「ん、すまん……あ、そうだ、なんなら放課後一緒に生徒会室に行かないか?たぶん30分で終わらせるけど。エマ先輩だって歓迎すると思う」
「歓迎…されるのかな……ん――遠慮するかな。邪魔しちゃ悪いし」
「邪魔って?」
「ううん、なんでもない。一緒に下校する機会なんて多いから、今日は大丈夫だよ」
「分かった。じゃぁ、そろそろ教室に入ろっか」
「うん」
文香が頷いてから、俺たちはすぐ教室に入った。だが、教室に入った途端、なんかどっから視線を感じた。そして自分の席の方に歩きながら少し視線を右側に移すと、廊下側の前から3番目の席に座ってる一人の男子生徒に鋭い眼差しを向けられた。そうされる意味が分からないから、俺はすぐ視線をそらして自分の席に着いてから着席した。
そして今日の授業が終わり、すぐ生徒会室に向かった。着いてから中に入る前に右側から気配を感じて視線をそっちに移すと、ひょこっと壁から顔を出して俺の後をつけるような行動をしている文香の姿が視界に入ったから、俺は思わず生徒会室に入るかって誘ってるのだが……
「……気づいてたの?」
「あぁ」
尾行がバレて恥ずかしかったからか、文香は少し頬を赤らめた。そして彼女は気まずそうな表情を浮かべながら生徒会室のドアの前まで歩いた。
「で、遠慮するかなってさっきお前が言ったけど、
「うっ、ご、ごめんなさい……急に気になったからつい……」
「ついって……まぁ、折角だからお前も入るか?えっと、いいんだよね、エマ先輩?」
「ふふ、構いませんよ~」
「そ、それじゃぁ、失礼します……」
ケースからノートパソコンを取り出してるエマ先輩がそう許可を出して、俺は文香と一緒に生徒会室に足を踏み入れて、ドアを閉じた。
生徒会室の内部は教室の半分以上ぐらいの広さがあって、一台で4人が使える黒い長机が左右に一台ずつとよく職員室で見かけたオフィスチェアが八台設置された。そして生徒会室の入り口から真っすぐ、窓から一番近い場所に生徒会長専用の一台オフィスデスクとオフィスチェアが見えた。
室内を見渡して、左側は色んな本に書類、そしてティーセットが一台の大きな棚の中に置かれた。右側では一つのホワイトボードが設置されて、その下には中身がよく分からない二台の段ボールがあった。
それから俺と文香は長机の上に学生鞄を置いてから肩を並べて座ったけど、なんか文香がそわそわしながらあちこちに視線を巡らせた。さてはここに来たなのは初めてだな。そういうのめっちゃ分かるわ。俺も初めてここに呼ばれた時はそんな感じだったから。まぁ、ちょい文香をリラックスさせようか。
「お前さっきから何キョロキョロしてるんだ?」
「え?ううん、初めて来たからなんか気になってて……想像してたやつと中は結構違ったなぁって……」
「いや、どんなの想像してたんだお前は?」
「えっと、もっとこう、長机じゃなくてソファとか高級感のある道具ばかりが設置されてると思って……」
「オタク思考やめろ」
「私をこんなにしたのは政也くんだよ?」
「え?そうなん?」
「中一の時学校に漫画を持ち込んだ悪ガキは誰なのかなぁ?」
「俺だったじゃん。それで?」
「私は少し聞いただけなのに、政也くんが次から次へとブレーキを踏まずにおすすめの漫画教えた」
「あっちゃー、そうだったー」
そう言いながら、俺は手で額を打ち鳴らした。そしてふふっと文香の口から笑い声がこぼれた。うん、だいぶリラックスになってくれたな。
「と、というわけで、責任取って、ね?」
「なんの責任なんだよ!?」
いきなり俺の制服の裾を掴んで上目遣いで見ながら言った文香に少し驚いた俺がそうツッコんだ。リラックスになりすぎてもダメだなこいつと少し吐息をこぼしてから、ゴホンっとエマ先輩の咳払いが聞こえた。
それを聞いて当然俺と文香が釣られてエマ先輩の方に視線を移った。そこは笑顔を浮かべながら先輩がこちらに見ているけど、なんかその笑顔怖く見えるのは気のせいだろうか?
数秒後でエマ先輩がその笑顔を崩さずに口を開いた。
「いちゃつく最中に申し訳ありませんが、そろそろ始めましょうか?」
「そ、そうっすね……」
「い、いちゃ!?」
「そういえば始める前にまずは少し自己紹介しましょうか。改めまして、私は3年B組のこの才華高等学校の生徒会長を務める桜川エマです。苗字は長いから気軽に下の名前で呼んでください。よろしくお願いしますね~」
ニコッとさっきより明るい笑顔を浮かべながら自己紹介をするエマ先輩でした。一方、文香はどこか緊張した面持ちを浮かべてたけど、一度深呼吸したら緊張感が消えて見えなくなった。
「初めまして、政也くんと同じ2年B組の朝倉文香と言います。私のことも下の名前で呼んでください。よろしくお願いします、エマ先輩……」
「おぉぉ……」
文香のスムーズな自己紹介に感心した俺は思わず小さく歓声を漏らしながらパチパチと拍手した。
「ど、どうして拍手してたの?」
「いや、お前が会ったばっかりの人とちゃんとスムーズに自己紹介できたことに感心しただけだ。本当に成長したなぁって」
「……なんか私馬鹿にされてる?」
「してないしてない。ハハ」
「もうっ、やっぱり馬鹿にされてる……」
俺がそう否定してすぐ小さく笑い声を漏らしたら、文香は左頬をぷくっと膨らませて拗ねるような素振りをした。うん、かわええ。
「もう、マサヤ様、女の子をからかいすぎるのはダメですよ?」
「あはは、ごめんごめん。そいえば、今回はどんな仕事を手伝ってほしいんだ?」
「ちょっと待ってくださいね」
エマ先輩は席から立ち上げ、ホワイトボードの方に向かってその下に置かれていた二台の段ボールを同時に持ち上げようとしたところで、俺は迷わずに早足で先輩の方に向かった。
「待って先輩、段ボールを持ち上げるなら一台ずつで持ち上げてください。重さに耐えられなかったら危ないぞ。ほら、俺が持ち上げるから、机の上に置けばいいか?」
「う、うん、ありがとうございます……」
少し驚いたような反応をしたエマ先輩を気にせず、俺は同時に二台の段ボールを持ち上げ、机の上に下ろした。まぁ、一台ずつで持ち上げてって言ったけど、男手なら同時に二台の段ボールくらいは持ち上げられるもんな。
「で、この段ボールの中身を取り出せばいいか?」
「はい、そうしてください」
もう自分の席に戻った先輩がそう言って、俺はちゃっちゃっと段ボールの中身を全部取り出したら、机の上が一瞬書類で溢れている。少し一枚ずつの紙をチェックしたけど、大体は提出された部活や学校行事計画の書類ばかりが目に入った。
「これ大体前やったやつと同じかな?ならすることも前みたいに書類をまとめるだけか?」
「はい、そうです。お願いしますね~」
「了解しました」
「あの……」
俺がそうはっきりと返事してから、文香の声が聞こえてそっちに視線を向けたら文香が居心地が悪そうな表情を浮かべた。
「ここにいて何もしないのは流石に居た堪れないので、なんか私に手伝えることありませんか?」
「いいんですか?こちらとしては助かりますが……」
「うん、人手が増えればもっと早く終わらせますしね」
「それじゃぁ、お願いしますね。マサヤ様は文香さんに書類のまとめ方を教えてあげてくださいね?」
「おう、分かった」
そう了承した俺は文香にいちからシンプルな書類のまとめ方を説明した。さすがとしか言えないか文香は本当に飲み込みが早いから、教える時は全然手間がかからなかった。
一人でもう大丈夫って文香が言ったから、俺は自分の作業をし始めた。
それから15分ぐらい経って、私たちはそれぞれの作業をきちんと終えた。視線を右側に向けると、先に作業を終わらせたエマ先輩がいつの間にか高級感のあるティーセットを持ち運んで俺の前に置いた。そして先輩は花柄ティーポットで三つの同じ花柄ティーカップに紅茶を注いでから、紅茶の華やかな香りが鼻孔をくすぐった。
「お二人共、お疲れ様でした。ほら、紅茶をどうぞ」
「んん、いい香りがしましたね」
「本当、相変わらずいい香りだ」
「ふふ、温かいうちに飲みなさいな」
エマ先輩はそう言ってから俺の右隣に腰を下ろして、俺は両手に花状態になった。そして俺と文香はいただきますって言ってティーカップを持ち上げ紅茶をすすった。
うん、美味い。こんな温かい紅茶をすすって、喉を通った時なぜか身体全体への温かさが広がっていく。紅茶の品質が最高級だからか、それとも作り手が上手だから分からないけど、どっちでもいいやとファイナルアンサーにして俺はまた紅茶をちびちびすすった。
「美味くてあったかい……」
「だな。今日の疲れが吹き飛んだくらいだ」
「ふふ、ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです。でももしケーキがあればもっと美味しいのになぁ。持ってくるの忘れましたから残念です……」
「確かにそうだけど、一生飲みたいぐらい先輩が作った紅茶が好きだから俺はそれを飲むだけでも十分かな」
俺がそう言ってから、エマ先輩が俺の二の腕をポンポンと優しく叩いた。いやなんでだと少し考えたら、どうやらさっきの俺の発言が原因なのようだ。一応言っとくが、あれは狙って言ったんじゃないよ?
「マ、マサヤ様は何故たまに不意打ちでそういうことを言うんですか?……」
「政也くんはやっぱり女たらしだね」
「もしかして文香さんにも?」
「はい、そうなんですよ。よくまぁ平然とした顔でそんなこと言えるんですよねこの人は」
「ですねぇ、私もそう思いますよ」
「思ってることを口にしただけなのに、すげぇ理不尽に責められる気がする……」
二人がそう俺に呆れて、俺ははぁと小さく溜め息を吐いた。
「そっちの方が質が悪いと思うんだけどね……」
「じゃぁ分かった、今度思ってることを口にしないまま、胸の内にしまっておこう」
「それもダメ!」「それもダメです!」
「ハモるな。てかそれもダメだったら俺はどうしろうと?」
「うっ、そう聞かれると答えようがない……そ、それより」
「話そらすな」
「さっきから聞きたいけど、政也くんはどうやってエマ先輩と知り合ったの?」
「えっと……」
想定内の質問だった。話した方がいいか少し悩んでるけど、右に視線を向けるとエマ先輩がこくっと頷いて、どうやら悩む必要はなかった。まぁ、別に減るもんじゃないしな。答えの整理の時間が必要だから俺はティーカップを持ち上げ紅茶を飲み込んだ。少し落ち着いてから俺は口を開いて話し始めた。
「まぁ、きっかけはバイト先の喫茶店の前でナンパ野郎に絡まれたエマ先輩を助けたからかな……」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それは去年の12月に入ったばかりの頃のことだ。その日はシフトに入ってないけど、店長から電話かけられて人手が足りないから来れるかって聞かれた。
まぁ、日曜日ではよくあることだから、ボーナスもいいし断る理由なんてなかった。そして無事店の裏に着いたところでなんか店の前で騒がしいなとそっちに目指したら、女子一人が二人の大学生くらいの男子にナンパされているところが視界に入った。
結構距離のある所から見ていてもその女子の美貌は確かに美しく見えた。透けてるような白肌でどこか外国人のような腰まで伸びたふわっと長い銀髪。そして、たぶんだけど、普通着る時体のラインを目立たせないはずの水色のロングノースリーブワンピースが、ナイスバディを持つ彼女にすごく体のラインが目立ってしまって本当に目に焼き付いた。まぁ、そりゃナンパ一人や二人ぐらい釣られちゃってるわぁ。
それから彼女はもう断ったのにナンパ野郎がなかなか諦めないという困りそうな顔を浮かんでから、一人の男子が強引に彼女の手を掴んで連れて行こうとした。
「おいマジか、人多いぞここ」と呟いてから回りを見渡すと、通りすがりの人たちが関わりたくないように見ないふりをしてた。身の危険を感じたからか彼女は一応抵抗を見せたけど、結局男子の力には敵わなかった。
まずいなと思った俺は彼女を助け出すために彼らの方に近づいた。まぁ、あいつらをぶん殴るのはできるけど、ここは平和的な手段を選んだ方がいいだろ。そしてもう彼らの近くまで歩いた時、俺は「ほい」と喧嘩を売るような声を出してしまった。平和的どこ行ったんだよちくしょー。
そんな俺の声が聞こえて、彼女に含めて二人のナンパ野郎もこっちに振り向いた。彼女の顔をさっきより近い距離で見れたから俺はひとつ気づいた。そのナンパされてた女子の正体は俺が通ってる高校の有名人で生徒会長をやっている桜川エマ先輩だ。もう彼女の名前が知っているから俺は彼女を助けるための手段をふと思いついた。
「はあん?なんだおめえは?」
「いやそれ、その手、離してもらえないかな?彼女は俺の連れなんだけど」
「……フっ、ハハハハ!そんなダサい服装でこの子の連れだとか、冗談キツイぜ」
「ハハハ、確かにな」
あ、確かによく見たら自分の服装の上は灰色の大きめのパーカーで下は黒いジーンズのめちゃくちゃダサい服装。およよ、なんか恥ずかしくなってきた。いや仕方ないだろ?俺はバイトをしにこの服を着ているんだ。普通の出かけるとかデートとかはちゃんとマシな服装をしているんだ。まぁ、一緒にデートする相手いないから、そこはスルーして。
この服装本当に失敗したな。てかあいつらにめっちゃ笑われてるし。一方、桜川先輩はまだ困惑しているままだった。
まぁ、想定外の事態だったから、俺は第二手段を実行する。まずは「はぁ、やれやれ」とから始め、冷静な顔を崩さずに彼らを近づけてから、ナンパした人の手を彼女の手から激しく打ち払い、俺は彼女の手を優しく握り始めた。何故か呆然としたナンパ野郎から無事に桜川先輩を解放させ、俺と彼女はちょっと彼らから距離を置いた。
「本当、遅れてすまんなエマ。強引に掴まれた手は大丈夫か?」
「え?あ、あぁ、はい、これぐらいは大丈夫です」
彼らに聞こえるように、俺はわざと大きい声で先輩の下の名前で呼んで話しをした。これなら恋人ふりしても怪しまれないだろうと。そして桜川先輩が一瞬で瞳を大きく見開いたけど、俺の意図が分かってくれたようだからかすぐ話を合わせた。
「それはよかった。まぁ、気分を落ち着かせるためにとりあえずあっちの喫茶店で休憩でもするか」
彼女はうんと頷いて、急にカップルみたいに俺と腕を組み始めた。うん、二の腕に当たった胸、めっちゃやわかい。てか大きすぎね?なんか思った以上大きすぎねぇなこれと内心では動揺してたけど、顔に出さずに俺と先輩はさっき俺が示したエンジョイ喫茶店という俺のバイト先の喫茶店に向かってるのだが、後ろから「ほい待ってよ」とナンパ野郎の鬱陶しい鳴き声が聞こえて、俺は歩を止め後ろ振り向いた。
「なんっすか?」
「何勝手にその子を連れようとすんだ貴様は?」
「いやさっきから俺の連れって言ったよな?勝手に連れてたのはアンタらの方だが」
「俺の方が先に声をかけたんだろが」
「先に声をかけたかないか知ったことか。彼女はお前のことが知らない以上そんなもん関係ねぇんだよ。さっきから本当、浅はかだな」
「てんめぇふざけやがって」
「おい、うちの店の前で何騒いでんだ?」
一人のナンパ野郎が怒りに任せて俺を殴ろうとしたところで、聞き覚えのある声が聞こえた。そっちの方に目を向けたら、見慣れたプロレスラーみたいなムキっとした体形を持つ男性、バイト先の店長が姿を現した。まぁ、これは狙い通りだ。
「騒がせてしまってすみませんでした。実はそこの二人、俺の彼女をナンパしてしつこく連れて行こうとするんです」と合図を送るために2回ウィンクしながら店長にそう説明した。
「あぁ、なるほどな。彼女をちゃんと守ってあげるのは偉いぞ。で、そこのアンタら、こっちに来てくれるか?人の彼女に手を出そうとするアンタらにたっぷり説教してやるから覚悟しておけよ」
「ひぃ!す、すみませんでしたー!」
店長の圧に恐怖を感じたからか、彼らは慌ててここから逃げ走った。ふぅ、店長が本当に来てくれてよかった。もし来なかったら暴力で解決するところだったわ。
「その怖い顔では流石に説教だけじゃ済まないって分かってくれたよなあれ。まぁ、何はともあれ、さっきはありがとう、店長。本当に助かったわ」
「いいってことよ。つーかお前ならあいつらを倒せると思うけどな」
「いやビビったからの助かったんじゃないんだ。俺が暴力せずに解決したってことの助かったんだよ」
「あぁ、なるほど。ところで本当にわりぃな折角綺麗な彼女さんとのデートの最中にいきなりお前をバイトに呼び出して」
「え?」
「え?ってなんだよ。デートしてるんじゃなかったのか?」
「あー、まぁデートなんてしてないんだよ。そもそも彼女はナンパ野郎に強引に連れて行かれようとしたところを目撃して助けただけだ。恋人設定はあくまであいつらを騙すためだったんだ」
「あぁ、そっか。さっき本当にお前にくついたからてっきり彼女だと思った。まぁ、とりあえず店に入ろうか」
「あぁ。じゃぁ入ろうか、桜川先輩」
「は、はい……」
そんな緊張感丸出しの声が聞こえてから、俺は桜川先輩を空いた席に案内してすぐ俺と先輩の分のオレンジジュースを取ってきた。ちなみに店長はもうカウンターに戻った。
「はい先輩、めっちゃ美味いからオレンジジュースをどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
グラスを渡したら先輩はストローでゆっくりとジュースをスッと飲み込んで、はぁと小さなため息を吐いた。どうやら少しは落ち着いたな。
「先ほど助けていただきありがとうございました。あなたがいなかったら、私どうなるか分かりませんでした」
「ん、まぁ、どういたしまして。次は気をつけてな」
「はい、分かりました。ところでさっき私のこと先輩って呼ぶんですが、もしかして才華高等学校の1年生ですか?」
「ん、そうだ」
「そうなんですか。改めまして私は2年A組の桜川エマと申します。知っての通り私は今年から才華高等学校の生徒会長を務めています。あ、因みに、私のこと下の名前で呼んでくれたら嬉しいです。よろしくお願いしますね」
「俺は1年C組の
自己紹介が終わったら、エマ先輩は何故か驚いたような表情を浮かべた。どうしたんだ?と少し考えてから、先輩は急にもじもじしながら俺を見ていた。
「あ、あの……あなたのことマサヤ様って呼んでもいいんですか?」
「え?」
先輩の急な申し出に驚いた俺は、そんな間抜けな声を漏らしてしまった。俺のこと様付けで呼ぶとかないだろ。むしろ俺の方がエマ先輩を様付けで呼ぶべきでは?先輩はなんかお嬢様っぽいし。まぁ、一応理由を聞いておこう。
「えっと、なんで様付けで呼ぶんだ?普通に下の名前で呼んでも構わないのに」
「んん――しっくりくるからですかね?私を助けた時のマサヤ様は本当にヒーローみたいにカッコよくて、手を優しく握ってくれた時も王子様みたいに本当に紳士的ですから」
いきなり自分の惚気話を聞かされたら、俺はそっぽを向いて恥ずかしさを隠した。てかもう様付けで呼ばれてるし。さっきはあんなに緊張してらっしゃったのに、一度落ち着くとよく喋る人になったな。まぁ、当然か。生徒会長をやってるもんな。
いや、それ以前に、何故そんな褒め方を?もしかして先輩はあれか?アニメか映画に影響されすぎた人なのか?といきなり思考が少し混乱してしまったら、エマ先輩は心配そうな表情を浮かべながら「ど、どうしてそっぽを向いてるんですか?」と訊ねた。
「い、いや、そういう呼び方はその……なんというか……」
「や、やっぱりダメ、ですか?……」
先輩は上目遣いしながらそんなことを言った。ズルいだ。とにかくズルいなのだ。女の子って何故何か断られた時そういう表情をしているんだ?もしかして隠しスキルの一つなのか?
そういえば前のバイト先の先輩もよくそのスキルを使ってたな。いつも何かを断った時すぐその表情を利用してたんだ。結局いつも断れなかった俺ってもしかしてデバフかけられたのか?俺、そのスキルにめっちゃ弱いからな。
今回もあんな表情見せられてやっぱり断れないかな。まぁ、先輩の好きなように呼ばせるか。
「ん、分かった。でも学校ではその呼び方を控えてくれると助かる。周りに主従関係と勘違いされたらお互い嫌だろうし」
「えへへ、やった~。でも主従関係と思われても私は気にしませんよ?そちらの方がいいかもってたった今少し考え始めました」
「いや、考え始めるなよそこ」
「ふふ、半分は冗談です。まぁ、学校ではなるべくそういう呼び方を控えますのでご安心くださいな」
「その残りの半分が気になるが、そうしてくれると助かる」
それからエマ先輩の迎えが来るまで俺たちはゆっくりとオレンジジュースを飲みながら色んなことを話してた。ちょっとプライベートなこと話したり、連絡先交換もしたりするぐらいとか。そして迎えがもう着いた時は丁度バイトの制服に着替える時間になって、そろそろ分かれだなと席から立ちあがったら、先輩は突然こっちに近づいて俺を見上げながらこう言った。
「改めまして、今日は本当にありがとうございました。この御恩は必ずお返しします。まぁ、今はこれぐらいのお礼しかできないのですが、我慢してくださいね。チュっ」
「っ……」
突然背伸びした先輩が俺の左頬にキスをしたら、彼女の柔らかな唇の感触が頬に伝わった同時に女の子の独特な甘い香りが俺の鼻孔をくすぐらせた。うん、そういう不意打ちは本当にやめて。
「もうっ、もっといいリアクションしてくれればよかったのに……マサヤ様はこういうのはもう慣れましたね。むっ」
急に右頬をぷくっと膨らませながら先輩は不満を言った。なんだそりゃ、めっちゃ可愛いんだけど。
「あ、いや、慣れたというわけじゃないんだ。頬にキスするって地球の西側の人々にとってはただの挨拶かなぁと。先輩はイギリスハーフってさっきも言ったから、きっとそれぐらいはしそうだろうと思って俺は冷静でいられた」
「ふふ、そうですね。まぁ、さっきのキスはそういうことにしておいてもかまわないです」
「えっと……」
「ふふ、今そんなに考えなくても大丈夫ですよ。それじゃぁ、私はそろそろ帰りますので、今度また会いましょうね、マサヤ様」
「あぁ、また。気を付けてな」
「はい!」
満面の笑みで手をひらりと振りながら先輩が嬉しそうな声色で返事をした。先輩の姿が店内で見えないまで俺も手を振り続けた。そしてその姿がもう見えなかった後に、俺はさっきキスされた左頬を自分の手でなでながらバイト制服に着替えるために更衣室に向かってる、のだが。途中で遭遇した店長や他の従業員はどうやらさっき俺が頬にキスされたところをはっきりと見ていたから、俺はその日のバイトが終わるまで皆にからかわれる羽目になった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「とまぁあれからかな、エマ先輩がバイト先の喫茶店にちょくちょく来るようになってだんだんと仲良くなったのは……」
実はエマ先輩を助けてから数日後のこと、期末テストが近いから俺はわずかな休憩時間を使って店内で勉強してた。その時は偶然エマ先輩が客として喫茶店に足を運んで、勉強してる俺を見ていたら先輩が先日のお礼として勉強を教えてあげると提案した。先輩は生徒会長だからきっと頭がいいだろとお言葉に甘えて先輩に勉強を教えてもらった。
それ以来エマ先輩は俺がシフトに入った時週に2回ぐらい店に姿を現した。まぁ、うちはWi-Fi付きの喫茶店だから、先輩はただまったりとよく注文してたレモンティーをすすりながらノートパソコンで何か作業したり、宿題をやったりした。俺もたまに宿題が出る時同席して先輩に解き方をいろいろ教えてもらった。先輩の教え方が本当に上手くて分かりやすいから、本当にありがたいことだ。そしてある日俺はふと思いついた、俺も先輩に何かしてあげないといけないかな、と。
最初は何かして欲しいこと、手伝って欲しいこととかあるかと先輩に聞いてみたけど、遠慮がちで別にありませんよと答えた。良心がなんとなく許さないと分かったから俺はもう一押しして先輩に聞いた。そしたらたまに生徒会室に生徒会の仕事を手伝って欲しいという申し出が来た。
とまぁあれから俺はたまに先輩と二人っきり生徒会室で一緒に仕事をしたってわけだ。俺とエマ先輩の関係はもしどんな関係かと聞かれたら、今のところは仲良し先輩後輩で助け合い仲間と答えるしかないかな。エマ先輩に好かれてるのは勿論知っているけど、お互いが告白しない限り、その関係が変わらないだろ。俺も正直エマ先輩と付き合ったらきっと嬉しいと思ってるけど、前に言ったように俺は今恋人を作りたくないんだ。我ながらめんどくさい人だなぁと思ってしまったけど。
「へぇ、そんなことあったんだね……」
「ふふ、本当に懐かしいですね、マサヤ様~」
「いや、まだ3ヶ月ぐらいしか経たないだろ」
「私にとっては遥か昔のことなの!」
「えー」
「お二人は本当に仲がいいですね」
「ふふふ、でしょう~」
文香の含みのある発言に、エマ先輩は気づかず無邪気に返事をした。まぁ、俺はまた紅茶をすすりながらそっとしておいた。
「そういえばエマ先輩は、学校では政也くんのこと様付けで呼ぶのは控えますって言いましたが、さっき私と奈々子ちゃんと文乃の前でははっきりと様付けてますし、今もそんな呼び方をしています。その、大丈夫ですか?」
「「あっ」」
「完全に油断しましたね、二人共……」
「なんかその呼び方に馴染みすぎて感覚が麻痺してたわ」
「ふふ、そうですね~」
「いやそうですねって言ってる場合じゃないだろ先輩。よし、今から別の呼び名にしよ!」
「ええー」
「ええーええーしない」
「むっ。本当はやですけど、私の落ち度でもありますから、それは仕方ありませんね。じゃぁ、マー君でいいですか?」
「いやいやいや」
あれは昨夜文香とビデオ通話してる時の奈々子がいたずらしてその呼び方をしてた。何故か分からないけど、そんな呼び方だけはされたくないんだ。
「えー、どうしてダメなんですか?」
「いや、とにかくそれだけはダメ。普通に下の名前でいいんだ。呼び捨てとか君付けとか」
「ん――マサヤって呼び捨てるのはなんかしっくりこないですし、マサヤ君って呼ぶのも文香さんにかぶりますし」
「そんなにこだわらなくていいんだけど……」
「あ、マサ君でならどうですか?」
「まぁ、マー君よりはマシかな」
「じゃ、決まりですね、マサ君」
「内容はあれなんだけど、なんか会議に参加していた気分……」
文香がはぁと吐息をこぼして何故か呆れてる。
それからどこかからスマホの音聞こえて、文香は「あっ」と声を漏らした。どうやら文香のLINEにメッセージが来たようだ。あれ、LINEの通知音だしな。
「えっと、政也くん……
「え?ん……ちょっと待って」
俺はさっきから机の上に置いたスマホを取って、LINEアプリを起動してからプロフィール設定に入った。まぁ理由は単にプロフィール画像を変えたいだけだ。今美少女アニメキャラの画像をプロフィール画像に使ってたからな。もし変えないままクラスのLINEグループに入ったら、なんか嫌な予感しかしなかった。それに、高校生になったらオタク趣味は隠した方が幸せだと俺は思う。
それから俺はギターの画像でプロフィール画像を変えた。これなら大丈夫だろ。
「よし文香、いつでも来い!」
「一体何と戦ってるんだか……うん、もう招待したからチェックしてて」
トーク画面に招待されたグループのアイコンに参加ボタンを押した。それから自動的にグループのチャット画面に入ったのだが……
「これ、よろしくおねしゃーすって送った方がいいのか?」
「え?……ま、まぁ、それもありだから送ってみたら?」
「なんか間があるから、しない方がいいと判断した」
「あの、マサヤさ、マサ君、LINE使ってるんですね……」
「え、まぁ、そうだけど。どうして?」
「いつからですか?」
「1月からかな。妹の奈々子が連絡しやすくなるようにと言ったからインストールしてみた」
「……」
そう説明してからエマ先輩は急に黙り込んだ。
「あの時私たちはもう仲良くなりましたよね?どうしてLINEIDを教えてくれなかったのですか?」
「えっと……聞かれなかったから?」
「うっ、確かに聞かなかった私が悪いです……それじゃぁ、今私と交換していいですか?」
「うん、いいけど」
俺は自分のLINEのQRコードを見せてから、先輩がカメラでスキャンした。そして先輩からの友達リクエストが来て承認した。
「えへへ、やった~。LINEってメールより便利ですね。簡単にビデオ通話できますし」
「そ、そうだな……」
「文香さんも私と交換していいですか?」
「え?いいですよ」
「それじゃ、お願いします」
今度は文香が自分のQRコードを先輩に見せた。
そういばエマ先輩はこれから文香と仲良くなるつもりだったのか?と考えながら左右に座ってる二人を見ていた。
それから俺たちは紅茶を味わいながらいろいろ雑談をしてまったりしていた。予感だけど、前に学校ではたまにしかエマ先輩と関わらなかった俺は、この日からエマ先輩とたくさん関わるようになるかもしれないだろ。それがいい事か悪い事かと聞かれたら、俺はいい事でありますようにと願っていた。
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