第3話 帰り道のひとりごと
「じゃあ、俺は先に失礼します。お疲れ様でしたー」
「おう、お疲れ政也。きぃつけて帰りな」
「へーい」
バイトを終えた俺は店長に挨拶してから、店の裏に設置された扉から店を出た。
「ふぅ、さみぃ……」と裏路地で夜風に撫でられながら両手を擦り合わせ、そう小さく呟いた。すでに学校のブレザー冬服を着ているのに、4月の夜はまだまだ冷えるな……
そして少しだけ歩いたら、俺は大通りに着いた。現在の時刻はもう22時5分を示しているというのに、左右見渡すと、そこかしこ人がまだ多くいる。まぁ、この辺りでは深夜まで営業する店があちこちにあるから、客は大体暇なウェーイ系の大学生たちの集まりや上司に残業を押し付けられたボロボロなスーツを身に着ける会社員のおっちゃんたちぐらいだろ。大学と色んな会社が多いしなこの辺。あ、噂をすれば向こうのバーでウェーイ系の大学生の集まりが視界に入った。うわぁ、声大きすぎるわー。もう何時だと思ってんの?暇すぎんだろ大学生。
ウェイウェイの鬱陶しい声が耳に届かない所まで歩いてから、俺は一旦足を止めて「んっ――」と両手を合わせ大きく伸びをした。
「今日めっちゃ疲れたなぁ。ボーナスが良いから文句言えないけど」と呟きながらまた歩を進め駅に向かった。
今日のシフトは普段の午後5時から10時までじゃなく、午後2時から10時までのほぼフールタイムの仕事だった。理由は一人の従業員がどうしても離せない用事があるから、俺が午後から穴埋め役として店長に呼び出された。でも、店長はよく俺がその時フリーだってことを知ったな。もしや超能力者か?
今俺のバイト先は『エンジョイ喫茶店』というネーミングセンスの欠片もない喫茶店でホールスタッフとして去年の秋から務めている。まだ高校生だからシフトは当然5時から10時まで。それを週3か週4、ときどき人手が必要な時に週5まで働いている。実はバイト先の喫茶店は母さんの友達、
まぁ、それは結局外見だけで、店長の中身はめっちゃいい人だ。例えば……そうだな、俺がバイトを始めたばっかりの頃、店長は親切心で俺にバイトの内容を説明した。店長の丁寧で分かりやすい教え方のおかげで今に至る。それに、そこの喫茶店の時給も割といい方だ。現在は結構稼いでるしな。
気が付いたらもう駅に到着した俺は、スマホタッチで改札通し丁度着いたところの普通列車まで走って、無事電車内に足を踏み込んだ。降りる駅まで15分くらいかかるから、俺はスマホ出して、左耳にワイヤーレスイヤホンをつけてからミュージックスタート。電車に揺られてしばらく経った、俺はユーチューブアプリを開いた。
「そいえば先週にアップした動画は今どうなったんだろ……」
恐る恐る自分のチャンネルをチェックし、一番上に最近アップした動画の再生回数に目をやる。
「おぉ、これは過去一だ」
そう、アルバイト以外に俺はユーチューバとして活動しお金を稼ぐ!のつもりだったが、チャンネル登録者数がまだ1000人ぐらいじゃあんま稼げねぇわ。まぁ、今は気まぐれでアップしただけだけど、もしとあるアップした動画がバズって有名になったらもちろん嬉しい。どんな動画をアップしたって?んー、この話は後程までお預けな。
あっ、そう、さっきから俺がお金に困ってるような発言をしていたけど、これは一応言っておきたい。うちは金に全然困ってない、むしろ結構余裕ある。だが金もアンリミテッドというわけではない。父さんが亡くなってから、母さんが頑張って生活費や学費などのために金を稼ぎ、二人の子共である俺と妹の将来を支えていく。だから高校生に上がる前から俺は決意した。母さんの負担を減らしたいから、アルバイトを探す、と。まぁ、最初は今のバイト先の辺りにあるコンビニで働いてたが、色々事情があったから夏休み明けに辞めた。それからしばらく、母さんの知り合いの喫茶店がバイト募集中で、俺はそこで応募するのを決めて今に至る。
そして俺はツイッターアプリを開いて『しごおわ~』とバイトを終える度に投稿したツイートを投稿する。一応ユーチューバーだから、こういう事をした方がいいと思ってな。ツイートの反応?んなもんどうでもいいわ。あ、母さんからのLINEが来た。えっと、内容は……
『冷蔵庫にドーナツがたくさん置いてあるから、食べたいなら遠慮せず食べてね」
『了解しました。教えていただきありがとうございました』
俺がそう冗談めかしの返事してから、『OK』と書かれたウィンクしてる猫のスタンプで返された。母さんは本当にLINEを使いこなしたな。
その後、俺はふと自分のLINEアカの友達リストに注目した。母さんと妹のアカに含めて、三つのアカがある。もう一つのアカは
そいえば、IDを交換したとは言うものの、どうすればいいか分かんないよなぁ。もしかしてこっちからメッセを送った方がいいのか?さっき学校ではスムーズに喋れたのに、何故こんな時になるとダメになるんだと少し悩んだらイケボで電車内アナウンサーが降りる駅の名前をもうすぐ到着するって知らせる。
「おう、そろそろ着いたか」
それからしばらく、電車が完全に止まってから自動ドアが開いて、俺はゆっくりと電車から降りた。さっき駅に入った時みたいにまた改札を通って、早速駅を出た。22時30分はやっぱりいつも通り人影が少ない。まぁ、俺もいつも通りの早足で歩を進めるけどな。平和な日本とはいえ、かならずしも各地が安全とは限らない。もし運が悪くて、厄介なやつに絡めたらめんどいだ。てか道端によく見かけた酔いつぶれたスーツ姿のおっちゃんたちはどうやって生き延びたんだ……そうくだらない事を考えながら、俺は歩くペースを落とさずに早足で家に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます