07-15:「結局、失敗って事ですかね」
「警備兵の数が少なくなりました。全体的に手薄です」
再び先行して偵察に行ったフロッグ4から連絡が入った。
フロッグリーダーも隠れていた場所から出て、バリケードの向こうを各種センサーで確認してみると、確かに報告の通り。どうやらバリケードの向こうにいた警備兵たちは、他の場所へ移動したようだ。
「プランAの各チームはやはりどこかへ誘き出されたな。よし、中央区画へ向かって侵攻する。学園宇宙船の警備兵はプランA各チームへの対処で手一杯のはずだが、それでも念を入れて慎重に進め。中央区画に達するまで戦闘は出来るだけ避けよ」
「了解しました」
部下がそう答えると同時に、フロッグリーダーにハイドランジアリーダーから通信が入った。
「よし、侵攻する。全員遅れるな!」
フロッグリーダーは部下にそう命じた。
◆ ◆ ◆
「……頃合いか」
セレモニーホール内の映像を見ていたミロはそうつぶやき、通信機を取るとアート・マエストロに向かって言った。
「順次、点火だ」
◆ ◆ ◆
「リーダー、床に穴でも開けてそこに身を隠すってのはどうですかね」
手すりにケーブルで身体を固定したバッファロー4は、同じようにしているバッファローリーダーにそう進言してみた。
「おお、それは良い考えだな。一つどっかからドリルを調達してきてくれ」
バッファローリーダーの返答は、その提案を真面目に受け取っていない事を意味していた。
「別にドリルやスコップもいらないっすよ。こうやって……」
バッファロー4はドアから吹き込む風に注意しながら、手にしたアサルトライフルを床へ向けた。
「銃撃だけで人が入れる穴をあけるのにどれくらい時間がかかると思うんだ」
バッファローリーダーは呆れたが、バッファロー4は至って真面目だ。
「いや、運良くこのすぐ下に排水パイプか何かあるかも知れませんよ」
「なるほど、それもそうか。穴が開くかどうかはともかく、床下に通じる場所があってもおかしくない」
「そうでしょ」
バッファローリーダーが同意してくれたので、バッファロー4は少々得意げだ。
しかし再び足下へ視線を向けたバッファロー4はそれに気付いて首を傾げた。手すりの根元。
床に接している部分に何かが着いている。隙間を埋めるパテだろうか。
それにしては雑な作りだ。工事をした人間は相当慌てていたとしか思えない。しかも余り時間は経っていないと見える。
いや、待てよ。これは、ひょっとして……。
バッファロー4よりも早くその正体に気付いた人間がいた。通信回線を通じて仲間の声が響いた。
「気をつけろ! 手すりや柱の根元に爆薬が仕込んで……」
聞き終える前にバッファロー4の目の前でその爆薬が爆発した。根元が爆発した柱は、いとも簡単に床から抜けてしまった。
「うぉ!?」
バッファロー4は慌ててボディアーマーのスラスターを噴射した。もっとも作戦行動は宇宙船内のみを想定しており装備もそれに準じている。
装備しているスラスターも低推力でしかも稼働時間も短い。
せいぜい脱出の際、襲撃艇へ飛び移る程度の使用しか想定していなかったためだ。そもそも充分な推力が期待できるなら、最初から使っている。
最初は吹き込む風圧に抵抗してバッファロー4を床へ戻してくれたかに思えたが、その頃にはすでに推進剤の残量は半分を切っていた。さらにドアから風と共に吹き込んできた土砂がバッファロー4に激突した。
どうやらプランターを丸ごと放り込んだようだ。植木の枝や葉、そして見事にプランターがヘルメットの上に被さってしまった。
「ええい、くそ!!」
プランターを払いのける間にバッファロー4の身体は宙に浮き、そのまま天井の穴から宇宙へと吸い出されていく。
「リーダー!!」
バイザーの映像にはバッファロー4よりも一足早く、天井の開口部から宇宙へ放り出されたバッファローリーダーの姿が映った。
手すりや柱の根元に設置した爆薬は一斉に爆破したのだろう。次から次へと兵士たちが宇宙へと吸い出されていく。
バッファロー4は近づいてくる天井に腕を伸ばし、爆発によって開いた穴の縁に捕まろうとした。
「よし、掴んだ!」
穴の端から突き出していたフレームに何とか捕まる事が出来た。
ボディアーマーの倍力化装置により何とか下から吹き上げてくる風圧にも対抗できている。
このまま屋根の上に移ることが出来れば……。
そう考えたバッファロー4をあざ笑うかのように、真下から風圧に吹き上げられたシーツや毛布が襲いかかってきた。
寝具はあっというまにバッファロー4に巻き付き、増えた面積の分さらに風圧を受ける事になってしまった。それでもフレームを離さなかったバッファロー4だが、壊れかけの天井の方が先に音を上げてしまった。
バッファロー4が掴んでいたフレームごと崩れ、あえなく宇宙空間へと放り出されてしまったのだ。
「毛布ごときが!!」
バッファロー4がそう罵りながら巻き付いていた毛布をはぎ取ると、すでに学園宇宙船の外だった。ボディアーマーには数時間分の酸素と、スラスター用の推進剤が少しばかり残っている。
ボディアーマーのセンサーが周囲をスキャンして、適切に処理した画像をバイザーに表示してくれた。
宇宙港の警備艇が接近中だ。
発光信号で通信回線を開くように求めている。
バッファロー4が標準波長に合わせて通信回線を開くと、警備艇からの声が飛び込んできた。
「学園宇宙船襲撃犯に告げる。武器を捨て降伏するならば、諸君等の救助と身の安全の確保は約束する。降伏する意思が有るのならば、全ての武器を捨てて帝国共通信号でその旨を伝えよ。もしも反撃するのならば、こちらも相応の考えがある」
警備艇は対艦用のレーザー砲や機関砲も積んでいる。撃ってこられたらお陀仏だ。
どちらにせよこの状況では勝ち目がない。
「結局、失敗って事ですかね」
仲間との通信回線も生きてるはずだが、バッファロー4がそう言っても誰も答えてくれなかった。
バイザー内の映像を拡大してみると、宇宙空間へ放り出された兵士たちは、持っていた銃や残りの手榴弾などを捨て両手を挙げていた。ボディアーマーの両肩に装備された小型ランプが点滅しているは、帝国共通の発光信号。
内容は言うまでもなく降伏するという意味だ。
こうなっては一人で抵抗する意味など無い。
バッファロー4も銃や残りの武器を捨てると、帝国共通発光信号で降伏の意思を伝えた。
警備艇に救助されるまで特にやる事もないので、学園宇宙船の進行方向を見ると、広がる星空の一部がまるで水面に映っているかのように揺らいでいる。
バイザーの解析表示に頼るまでも無く、バッファロー4には見慣れた物、リープ閘門だ。かなり大型のもので学園宇宙船も余裕で通り抜けられるだろう。もっともそれは
作戦では宇宙港に停泊した学園宇宙船は自動的に桟橋を離れ、場合によってはリープ閘門に突入するようプログラムされてのはバッファロー4も知っていた。
自分たちがもうちょっと粘っていれば、そういう事になっていたかも知れないが、いずれにせよ今となってはどうでもいい。
バッファロー4ことブライアン・マイルズはそう考えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます