05-15:「ミロは来る。必ずな」
「おい、リッキー・パワーズ。聞いたか、今の演説?」
ようやくエレーミアラウンダーズと合流したカスパーだが、状況確認もそこそこに船内放送で流れたばかりの放送に驚きを隠せなかった。
「ああ、学生や生徒を戦わせるなど本気か」
エレーミアラウンダーズはリッキーの指示で、生徒や学生を緊急用シェルターへ避難させる手伝いをしていたところだ。
皆の背後には避難した生徒、学生で一杯のシェルターがある。
「あのボンクラ皇子、追い詰められてトチ狂ったんじゃねえの?」
ブルース・スピリットが冗談めかしてそう言うが笑う人間はいなかった。
「いずれにせよ本気にする人間がいるとも思えんな。こちらは生徒や学生の安全を確保する事を最優先としよう」
アフカンも取り合うつもりはなさそうだ。
「それもそうだな。第一、武器もなしにテロリストに立ち向かうなど自殺行為だ。こちらには実習用の弱装弾しかないからな」
カスパーがそう言うと横からマット・マドロックが口を挟んだ。
「へへ、俺なら素手で充分だけどな」
そんなマットにブルースが白けた視線を送り言った。
「なに言ってやがる。向こうはボディアーマーも着込んだ完全装備らしいぜ。お前ごときの素人技で対抗できるもんか」
ブルースのその言葉にマットはすぐさま言い返した。
「お、言ったな。この野郎。お前とはいずれ決着をつけなきゃならねえと思っていたんだ」
「おお、望むところだ。ガキのケンカに毛が生えたようなお前と違って、俺はちゃんとした師匠に着いて習った拳法だからな。殺さねえ程度に相手してやんぜ」
そう言うなり二人は少し間を置いてファイティングポーズを取る。ふざけているのは事実だが、お互い武闘派という事もあり少なからず本気の部分もありそうだ。
「うむ、よろしい。それではこの勝負。拙僧が見届けよう」
横からシンシ・ゼンが首を突っ込んできた。
「おいおい、ふざけている場合ではないぞ。皇子の今の放送でみんなが浮き足立ってる。早く落ち着かせないと大変だ」
リッキーの言う通りだ。避難した生徒、学生ざわつき始め、中には折角逃げ込んだシェルターから出ようとする者まで出てきた。
「ちょっと待って下さい、危険ですってば」
アート・マエストロが出て行こうとする生徒を押しとどめた。
「でもよ、功績を挙げればギル皇子が褒美をくれるって言うんだぜ」
「ああ、そうだ。適当に銃、撃って危なくなれば逃げればいんだ。一応、授業で戦闘教練取っているんだぜ。俺たち」
生徒たちは口々にそんな事を言いながらシェルターから出て行こうとしていた。
「まずいな……」
カスパーは唇を噛んだ。その時、リッキーの携帯が鳴った。
「どうかしたか?」
連絡してきたのはワインボウムだ。
「ミロはいないか、あいつはどうしてる?」
出し抜けにそう言ってきた。
「まだ宇宙港から戻ってきていない。未確認だが、学園宇宙船が出港したという情報もある。乗り遅れたのかも知れん」
「そうか……。まずい状態になってる。
「そっちもか」
リッキーが言おうとした言葉を、誰かが先に言ってしまった。やはり携帯に応えているカスパーだ。
カスパーは携帯を少し話してリッキーに言った。
「ジャクソン・マクソンから連絡だ。
「全校自治会はなんと言ってる? 教師や警備兵が制止しているが、なかなか言う事を聞いてくれない。学園長とは連絡が取れないし、せめてカスガ会長が止めてくれれば多少は落ち着くと思うんだが……」
ワインボウムの問いにもリッキーは良い返答をする事が出来なかった。
「カスガ会長も宇宙港に行ったままで消息不明だ。戻ってきたという報告もない。そして良くない知らせになるが、副会長のキース・ハリントンと庶務のアーシュラ・フロマンはギル皇子に着いたらしい。残った会計のグレタ一人だけはどうにもならん」
「じゃあどうすれば……」
途方に暮れるワインボウムにリッキーは言った。
「ミロが来てくれる。あいつも今の状況はある程度わかっているはずだ。ならば来る」
「しかし宇宙港に取り残されているのだろう?」
不安げなワインボウムだが、リッキーは確信に満ちた声で答えた。
「ああ、しかしミロ一人だけではない。俺たちの仲間もいる。よしんばミロ一人だけでも、あいつは必ず助けに来る。それまでの辛抱だ」
「……分かった。俺はミロに従う。俺に賛同してくれる人間も少なくない。出来るだけの事はしよう」
「頼んだぞ」
リッキーはそう言うと通信を切り、カスパーへ視線を巡らせる。リッキーとワインボウムの会話を聞いていたカスパーは無言でサムズアップして見せただけ。どうやらジャクソン・マクソンたちもワインボウムと同じように答えたらしい。
「……よし。ミロは来る。必ずな。それまで何とか俺たちエレーミアラウンダーズで凌ぐとしよう」
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