第3話黒い巨塔

「おれは肺がんなんだ」

加藤まひるの表情が曇った。

「執刀は、友人の細川君だ。外科部長をしている。腕のいい医師だから、安心して。まだ、ステージ1だから」

まひるは、夕飯の支度を始めた。

豚肉のしょうが焼きだった。おれの好物を作ってくれた。

「そう言えば純也君、洗面台に血が付いていたけど、血を吐いたの?」

「まぁね。よくある症状なんだ」

「じゃ、内科はどの先生が代わりをするの?」

「先輩の羽弦先生が診てくれるんだ。おれのガンの事は、トップシークレット並にしたいんだけど、そうは問屋が下ろさない」

「純也君、内科部長の話しはどうなってるの?楽しみにしてたじゃない」

純也は、しょうが焼きを食べると、缶ビールで流し込んだ。

「内科部長は羽弦先生が断ったから、おれで本決まりだよ」

「早く、肺がん治さなきゃね?」

「うん」

と言うと、純也は食器を台所へ運び、ベランダで喫煙した。煙を吸うと咳き込み喀血した。

部屋に戻ると、タバコの箱を握り潰し、ゴミ箱に捨てた。

執刀は細川君が引き受けてくれたのは嬉しいが、できれば呼吸器外科の小林先生にお願いしたかった。定年前だが腕は一流なのだ。

早速、スマホをもつと細川に全てを話した。

「じゃ、山崎君。僕は小林先生の助手を務めるよ」

そう、明るく細川は返事した。

ステージ1だが、念には念を入れて。

今はまだ、死ねない。

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