第二十五話:元・異世界勇者は語る
「あいつらの居場所はわかるのか?」
「さて、な。ただヒントはあるはずだ」
病院を抜け出し事務所へと帰った田中であったが、敵の居場所がわからないことに気付き瑠璃之丞に尋ねた。
なんかこんな会話、異世界でも良くやったなと懐かしく思う。
大抵、女魔導士辺りがやれやれという顔をしつつも答えてくれるのだ。
「これを見ろ」
流石は瑠璃之丞というべきか、田中があまり考えていないだけか。
ともかく、彼女は色々と考えていたようだ。
そう言って渡されたのこの街の地図が表示された端末だ。
「これがどうしたか?」
「あいつらがコインを使って異世界魔法使用者を生み出したことには何らかの意味があるはず。ただの実験なら須藤とか言うストーカー男だけでいいし、無差別にばら撒くにしても範囲が限定的過ぎる。それにやつらが須藤を逃がしたという話を聞いて、他の異世界魔法使用者の居場所を探ってみたがやつらもやはり同じように行方不明になっていたわ」
「……あっ、思い出した。そう言えば須藤は? なんか怪人化とかいうのをしていたので毒で身動きを封じていたんだが」
「ああ、やっぱりあれは田中のせいか。安心しろ、怪人化については私が解除した。人間に戻った碌に動けそうもない様子だったし、とりあえず今は放置でいいでしょう。話を続けるわね?」
瑠璃之丞は更に端末を操作して画面を切り替えた。
「須藤以外の異世界魔法使用者は四人。その行方を追うために街の監視カメラにハッキングしたり、SNS等で情報を求めたりしてたけどビンゴ。おおよその位置は特定できた。それが――ここだ」
地図上に瑠璃之丞のミニチュアのようなアイコンが現れ、四つの箇所を指し示した。
「良く見つけれたな……田中感心」
「まあ、私とエクセリオンの力があればこそ……と言いたいところだが、実際はある法則性さえわかれば苦労はしなかった。何せどいつもこいつもその箇所から動いていないようだからな」
「動いていない……? つまり、場所に意味があると?」
瑠璃之丞に言われ、改めて地図を見るも田中には法則性というのはわからなかった。
「なら、これならどうだ? 田中が須藤と戦って倒した場所よ」
画面に五人目のミニチュア瑠璃之丞が現れ、田中はようやく気付いた。
「これはもしかして等間隔に円を描くように?」
「あるいは五芒星……かな? とにかく、ある場所を中心に五人は一定の間隔を保った場所に配置されている」
「中心の建物は……電波塔か」
この街のシンボルの一つ。
とはいえ、だいぶ古くもなって来たので数年後には建て替えが決まっている大型の電波塔が存在する。
それを中心に等間隔で囲むように配置された異世界魔法に強制的に目覚めた人間が五人。
「儀式魔法……」
田中の頭に浮かんだのはその単語だった。
「やっぱりそういうのが浮かぶわよね? 正直答えには期待してないけど何か心当たりは?」
「ふっ……田中に魔法の詳しいことを聞かないでほしい」
便利な道具程度の感覚で使っているのだ。
そもそも、詳しい理論、知識、歴史とか異世界で学ぶ暇も特になかった。
――ここに魔法オタクの女魔導士だったら何か分かったのかもしれないが……。
「でしょうね。でも、これには何か意味があるはず……」
「確かにそれっぽく見えるが、そもそも須藤はもう別の場所に居るんだろ?」
「ええ、一緒の病院に。病院側も警察に連絡してたから今頃は……って感じ?」
「なら現在の居場所は違うことになる。それじゃあ、その推察は外れていることになるんじゃないか?」
「それなんだけどねぇ……怪人化を解いた須藤の様子が異常に衰弱していたのよね。まあ、怪人化には力を使うから解除した時に疲労状態になって倒れた人とかはわりと居た。それに怪人時のダメージや須藤に至っては毒まで打ち込まれていたんだから、衰弱していること自体は変ではないんだけど、それでも過剰なほどに衰弱していたわ。だから、エクセリオンで詳しく調べたんだけど――」
瑠璃之丞曰く、色々と試行錯誤を加え魔法力というのを感知できるようになったらしいエクセリオン。
その力を以て観測した結果、感知できた魔法力は一般人にすらも劣るほどに枯渇していたのだという。
「異世界魔法を使えるようになって、須藤の魔法力は活性化していたはず。なら、枯渇するほどまでに減った分は一体どこにって話になるわよね」
「確かに田中は炎の怪人となった須藤を倒しはしたが、動きを封じる程度で殺すまで追い詰める……などはしていない。それに田中を無力化した後、アレハンドロは須藤を回収できたはずだ。それをせずに放置したのは……」
「用済みだったから――と考えるのが自然ね。重要なのは当人じゃなくて魔法力? ならそれだけ抜き出して大地に楔のように打ち込めば……儀式魔法とやらは成立する?」
田中と瑠璃之丞はその後も話し合ったが敵側の真の目的について結論を出すことは出来なかった。
何らかの儀式魔法を成功させようとしているという推察こそできるものの、肝心な儀式魔法の知識が足りないのだから仕方ない。
ともかく、それを邪魔する方針で二人は同意をし、それぞれ準備に移ることにした。
恐らく時間はそれほど残されていない。
あとは出たとこ勝負、二人からすればよくある状況ではあった。
◆
「田中はさ……自分の戦いが無駄だった。なんてことを考えたことはない?」
いつもの瑠璃之丞の声ではない。
何処か弱さを感じる声でそう尋ねられたのは、諸々の準備をしていた時だった。
「どういう意味だ?」
とはいえ、準備とは言ってもほぼすることはないがない田中。
戦いが予想されているとはいえ、鎧やら何やらは全部異世界に置いて来ているので頼れるのは自らの肉体と魔法のみ。
一応、予備として置いていた木刀を手に持ってこそいるが、どれくらい使うことやら。
ちなみに毒入りの暗器なら身体中に忍ばせている。
「別に変な意味じゃ……あー、嘘。まあ、そこそこの付き合いだしね。教えておいてあげる魔法少女ラピズ・ラ・ズーリの顛末と言うのを」
それは瑠璃之丞が今まで語って来なかった過去だった。
特に田中は知りたいとは思うことは無かった。
田中にとって、瑠璃之丞は瑠璃之丞だったから。
だから、ただ戦いの日々に費やし、
愛と正義と平和のために魔法少女としての使命を果たし、
そして全て終わらせ、誰からも知れない元・魔法少女と成り果てた。
そんな話を聞いて、田中が答えは――
「そうか、頑張ったんだな」
「……は?」
「田中は称賛する。よく頑張った」
ぽかん、とした顔だった。
瑠璃之丞は何を言われているかわからない……そんな顔だ。
「田中は佐藤を尊敬する。お前は誰よりも勇者だ」
田中は自らの小見が届くように真っ直ぐと見つめ彼女へと伝えた。
瑠璃之丞は唖然とした表情から、一瞬で真っ赤になった。
「おまっ、何を――」
「佐藤……いや、魔法少女ラピズ・ラ・ズーリ。田中はキミのようになれたならと心の底から思う」
瑠璃之丞が自らの過去を吐露したのだ。
こちらだけ黙っているというのもフェアではないだろう。
互いに深いところは触らないようにしてはいたが、今日は共に戦う以上晒すべきだろう。
それが田中にあるまじき、とても情けない過去であったとしても。
「――実はな、田中は田中じゃないんだ」
「なるほど……なるほど? ……なるほど????」
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