第十九話:元・異世界勇者と出会い話


 その日もいつも通りに田中はアフラフの仕事を受けていた。

 玲のサポートを受けつつ、流れてくる依頼を処理する。


 そんな日常。


「最近、佐藤先輩忙しそうですよねー?」


 依頼の一つを終え、次の依頼まで余裕が少し出来たのでファミリーレストランで昼食をとっていると、玲が不意にそんなことを言い出した。


「確かに。詳しくは聞いてないが色々と調べていると田中は聞いた。このところ、なにか奇妙だろ?」


「そうですね。奇妙な事件も増えてきましたし、そのせいで……ほら! 学校の裏掲示板なんですけど、都市伝説とか噂の書き込みで一杯に。いつもはここまでアクセス多くないんですけど」


 玲がそう言って見せてくれた端末の画面には、大量の書き込みがなされている掲示板の様子が映っていた。

 投稿時間の感覚から察するにかなりアクセスが集中していることがわかる。

 ザッと内容を見る限りでは大したことは書かれていないように見えたが、一部では田中達が実際に解決した事件の話も載っていた。


 良くも悪くも盛り上がってる様子が伺える。


「それにニュースとかでも取り上げられるようなになりましたよね? 雑誌とかでも」


「ふむ」


 田中はファミレスに入る前に買った雑誌を広げた。

 ゴシップ雑誌の一つだが、そこにはこの街を中心に奇怪な事件が多く起きている……という内容の記事だ。

 もっとも論調としてはまともに推察しているというものではなく、面白がって大袈裟に煽り立ているだけのネタ記事としての要素が強そうだが。


 テレビのニュースの方もそうだ。

 魔法を封じられて警察に捕まってしまった犯人たちの「超能力で犯行に及んでいた」という主張を面白がって取り上げているだけ。


 どのメディアも今の段階では真面目に受け止めているというわけではない。

 だが、それでも段々と注目が集まってきていることを田中たちは肌で察していた。


「先輩はそれについて調べているんですよね。大丈夫かなー」


 この頃は佐藤とはほぼ別行動をとることが多かった。

 田中は依頼を受けなければならないし、一旦アフラフの活動を休止するかと提案しても、「それは駄目だ」と拒否されてしまった以上、調査については彼女が一人でやるのが手っ取り早いのだ。


「最近は顔を合わせてないし、一人で調べてるんですよね? 確かに何か変かなーとは思いますけど……それほど大事なんでしょうか?」


「さてな、正直なところ田中は佐藤がどう考えているのかはわからん。けど、佐藤は必要だと思ってるからしているんだろう」


「……信頼してるんですねー。田中さんは佐藤先輩のこと、心配じゃないですか?」


「佐藤は田中より遥かに頭がいい。自分一人で解決できないと思えば助けを求めてくるだろう……。いや、助けを求めるというか田中なら巻き込んでいいと思って、強引に巻き込んでくるというか。田中には何をやってもいいと思っている節がある」


「あははは、佐藤先輩ってそんな感じなんですか? 学校での姿とは……」


「猫被っているからな。それも分厚い」


 佐藤に知られたら即時報復を受けそうなことを玲に吹き込みつつ田中は言った。




「ただ、まあ、佐藤は心配いらないだろう。佐藤ほど強い女性を見たことが無い。腕っぷしじゃなくて……在り方がな。カッコいい」




「そう……ですね。佐藤先輩はカッコイイです! 私の憧れなんです。初めて会った時もそうでした」


「初めて会った時?」


「はい! 高校に入る前のことです。私、ちょっとガラの悪い人たちに街で絡まれたことがあって……怖くて、助けを求めようとしても周りの人達は見て見ぬふりをしてて……人気のない路地の方に連れ込まれそうになった時、佐藤先輩が――」



 ――「失せなさい。私の目の届く範囲でそんなことをしようだなんて言い度胸ね。不愉快だわ。警告は一度だけしてあげる。言葉を理解できる脳みそがあるなら……」



 一応、元とはいえ愛と正義と平和を魔法少女だった女の言葉だろうか。

 どっちかというとスケバンとかじゃないのか、と玲が語る瑠璃之丞の活躍っぷりに田中は思った。


 結局、ブチ切れた不良たちを鉄拳制裁の名のもとに打ち砕いたのが彼女との出会いだったらしい。


「あの時の先輩……カッコ良かったなァ」


 頬を赤らめてそう零す玲の姿は憧れの存在を熱く語るファンそのものだ。

 颯爽と現れ、暴漢から身を守ってくれた姿は彼女の憧憬として焼き付いているのだろう。


 ――まあ、多分ストレス解消が理由だろうけど。


 二年前と言えば田中が瑠璃之丞と出会う前。

 二浪した末に進学するも学校での生活が上手く折り合えずストレスを一番抱えていた時期だ。

 玲を助けようとしたのは間違いないが、単に暴れたいという理由が大きかったんだろうな……と薄々察しているが田中はコーヒーと共に言葉をなんとか呑み込んだ。


 切り替えるように口を開いた。


「まっ、そんな佐藤のことだ。あまり、田中は心配はしていない」


「そうですね! 佐藤先輩なら大丈夫です」


「ああ、そうだな。田中達は田中達で仕事の方を……ちゃんと進めておかないと後で怒られかねないからな」


 そう言って話を切り上げ、次の依頼のためにファミレスを後にする準備を整えていると――



『臨時ニュースです』



 不意にファミレス内に設置され、昼のニュースを垂れ流しにしていたテレビの様子が変わった。

 画面が切り替わり、女性のキャスターが現れ読み上げた。



『――警察署において危険物所持法違反、ならびに複数の容疑で勾留されていた容疑者が留置所内から脱走。常識では考えられない状況で姿をくらまし、現在行方不明となっている模様。前代未聞の不祥事であり、緊急的な対応を検討したいと……』




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