第十八話:元・魔法少女と会敵


 夜の街を歩きながら瑠璃之丞は呟いた。


「一連の事柄、これは……事件ね。間違いないわ」


 そう確信したのは後輩を襲ったという魔法を使うストーカー男が捕まってすぐ、別に魔法を使う者が現れたことが原因だった。

 一人だけならただの偶然でも二人、三人とも出てくればそこに何かの意図を感じるというものだ。


 


 元・魔法少女はそう判断した。


「……鈍ったかな」


 正直、遅きに失した感じがある。

 本来であれば田中以外に異世界の魔法を使う人間が現れた時点でもっと警戒をするべきだったのだ。

 少なくとも現役時代の瑠璃之丞だったら、その謎を突き止めようとすぐに精力的に動こうとしていただろうが……。


「あー、やめやめ! 切り替え切り替えっと!」


 頬を叩き、瑠璃之丞は自らに活を入れた。

 流石にもう開放して欲しいという気持ちが無いこと無いが、彼女にも世界を守った元・魔法少女としての矜持もある。


「それに経験上、面倒だと思って放っておいたら後でひどい目に合うしね」


 そんな独り言を呟きながら瑠璃之丞は思考する。

 魔法少女時代の時のように。


は何処だ……?」


 事件の基点。

 中心。

 それが見えない。


 佐藤瑠璃之丞が魔法少女をしていた時は良くも悪くも事件の中心で、そこを考える必要は無かったが――今は違う。


「使われたのは田中の……異世界由来の魔法だ。つまりは田中サイド、異世界サイドの存在が関与をしている?」


 それは間違いはないだろう。

 ただ、それだけでも……無い気もする。


「そもそも田中は召喚の魔法で異世界へと召喚され、そして帰ってきている。つまり、この世界と異世界は繋がりが存在する。どれだけの縁なのかはわからないけど、それを辿って異世界の方からこっちの世界へことで辿り着く……可能性としてはどうだ? あり得ない話ではない」


 可能性はある。

 少なくとも否定できるほどの根拠もない。

 田中は大して魔法について詳しくないのだ。


「ここ最近のアフラフの動きはどうだ? 立ち上げ当初から順調に成功し、知名度も人気も依頼も増えるようになった。そして、ただの買い物の代行とか庭の手入れ代行のほかに、どうにも危ない仕事も増えるようになった……」


 ストーカー男とて魔法云々が無くても刃物を取り出す危ない奴だったし、魔法を使う泥棒もひったくり犯もそうだ。

 いつ、どのタイミングで魔法を手に入れたかは知らないが普通、急に特殊な力を手に入れたのなら慎重に使うものだろう。


「だが、どいつもこいつも犯罪に使用し、それを偶々田中が依頼で彼らを捕まえる……と」



 



 それが瑠璃之丞の素直な感想であった。

 何者かの誘導を感じる。


「危ない事件関係の依頼が多くなるのと同時に普通の依頼は減るようになった。必然的に最近は田中もそっち系統の依頼ばかり受けるようになって……」



 そして、使用者が起こす事件に関わり――解決した。


「無差別にばら撒いているならもっと広範囲に起きてもおかしくはない。けど、どの異世界魔法使用者の事件もこの街を中心として起こっている。……つまりはアフラフの営業範囲――私たちの近くでのみ発生している」


 意図的なものだ、と瑠璃之丞は確信している。


 アフラフの奇妙なまでの広まり、そしてその活動範囲のみで起こる事件。

 明らかにこれを仕組んだ存在は何かしらの意図をもって、こちらを引きずり出そうと画策している。


「問題は私と田中のどっちを狙ったものなのかってことよね。異世界魔法のことを考えれば田中の関係者の可能性が高いのだけど……」


 相手は何らかの方法で明らかにネット工作まで行っている。

 そんなことを異世界から来た存在が出来るものだろうかという疑問がある。


「異世界経験のせいで田中の奴も現代文明に適応出来なかったって言ってたし……というか今でもだけど」


 現代人の田中でもそうなのだから、仮に田中が行っていた異世界からこちらに来た存在が居たとして、そんな高度なことが出来るのだろうか。


「特に私を相手に……ね」


 不可能なはずだ。

 自惚れではなく純粋な事実として、瑠璃之丞の電子技術は現代において比肩できる存在は居ないだ。


「あり得るとすれば……でも、はもう」



 言ってから気付く。



「……しまった。これってフラグだ」



 迂闊にも呟いてしまった自身に頭を抱えつつ、瑠璃之丞は目的地へと辿り着いた。



                   ◆



 須藤すどうあらた

 それが瑠璃之丞の後輩である佐々木玲をストーカーしていた男の名前だ。


 男は通報を受け駆け付けた警察によって倒れているところを発見。

 一旦は保護を受けるも、近くに置かれていた情報端末の保存されていた動画には須藤が背後から刃物をもって女性へと襲い掛かっている様子が記録されており、そして凶器として写っていた刃物からも須藤の指紋が採取されたため、一先ずは危険物所持の容疑で逮捕となった。

 その後、更なる捜査の過程でが明るみとなり、書類送検も決まり拘置所へと移送される手筈となったと瑠璃之丞は聞いていた。


 その捜査の過程で明るみとなった事実というのが――


「うげぇ……」


 これである。


 壁どころか床や天井にまで張られた女性の写真、写真、写真、また写真。

 無数の女性の写真が須藤新の家の中には張られていたのだ。


「聞いてはいたけど本当に変なのに目を付けられていたのね、玲の奴……」


 写っている女性は様々だが、共通点として挙げられるのはみんなティーンの少女ばかりで、そしてどの写真も明らかに隠し撮りのアングルばかりだということだろうか。

 これを見た警察が本腰を入れて捜査を入れるのもわかる気持ち悪い空間だった。


 瑠璃之丞的にもさっさと出ていきたくて堪らない。


「ストーカーをやってたわりに一筋でも無いのね」


 一途だったらいいのか、という問題でもないが気が多いストーカーというのも釈然としないものがある。

 単純に勝手に好きになって勝手に目移りするタイプだったのだろう。

 そのお陰で玲が大勢のストーカー対象のあくまで一人ということになって、変に聴取とかを受ける羽目にならなかったのは良かったのかもしれないが……。


 まあ、それはともかくとして。


「ああ、気味が悪い! さっさと調べること調べたら、出て行こうっと……。くそっ、こういう時にミッフルが居たら――いや、ダメか。時たまに優秀になるけど、肝心なとこでポカして面倒を起こすだけだし」


 ブツブツと呟きながらも瑠璃之丞は家探しを始めた。

 彼女が須藤新の家に当然のように不法侵入をかましたのは勿論目的があった。


 彼がどうやって魔法の力を手に入れたか、それを調べるためだった。



「事件の基点となっている部分はそこね。須藤に限らず、他の異世界魔法使用者もどうやってその力を手に入れたのか……恐らく、手に入れたのはこの一年。田中が帰ってきた後のはず、何か手がかりがあれば……」



 それが事件の真相に繋がる鍵になる。

 瑠璃之丞はそう読んだのだ。


「とはいえ、やっぱりあらかた警察には調べられた後か。パソコンも……ふーん?」


 目ぼしいものを見つからず、須藤のパソコンを調べることにした瑠璃之丞だがあっさりと隠してあったファイルを見つけ出す。

 そして、それを精査して須藤がこれだけの写真を集めた手段について突き止めた。


「そうか、こいつ≪止水しすい組≫の顧客だったのね」


 例の盗撮やら何やらの裏サイトに関わっていた人物だったらしい。

 恐らくはそこで玲に眼を付けたのだろう。

 何せ瑠璃之丞の通っている学校にも仕掛けられていたのだ。


「……ということは何か? 私のことも見られた可能性がある?」


 衝動的にこのマンションの一室を吹き飛ばしたくなったが瑠璃之丞は我慢した。

 まだ何も情報が得られていないのだ。



「落ち着け、私……。吹き飛ばすのは後でいい、それよりも何か手がかりを――ん?」



 そんな風に自らを落ち着かせるように唱えていると不意に瑠璃之丞の視界に何か光るものが目に入った。



「これは……金貨?」



 それは五百円玉のような大きさのどこかで見たことのある金色の硬貨で。





「確かコレって――」


「ああ、そこにあったのか。すまないね、返してくれないか?」




 瑠璃之丞しか居ないはずの空間。

 それなのに聞こえた声に、咄嗟に体勢を取ると同時に――




「初めまして。この世界の勇者……確かだったか?」




 が瑠璃之丞の視界を覆い尽くした。

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