第五話:元・異世界勇者と資金調達法



 田中的活動資金調達法、とは何か。

 それを説明する為には勇者という存在を説明しなくてはならない。



 勇者とは何か。

 様々な媒体で色々な定義があるのは知っているが、少なくとも田中が召喚された異世界では人界に攻め入ってきた魔王軍と戦い、その頂点の魔王を打ち倒すことを使命としていた。



 要するに鉄砲玉である。



「とんでもなくぶっちゃけたわね……」


 夜も更け、辺り一面も暗くなっている頃の街のとある一角。

 田中的活動資金調達法の話に思わず、瑠璃之丞は突っ込みを入れた。


「だが、敵地の奥に居る魔王を殺して来いというのは帰ってくるのを想定してない要人暗殺の鉄砲玉と言われてもしょうがない所業だと田中は思う」


「そう言われるとそんな気もするけど……。身も蓋も無いわね」


「適当な装備与えられて、勇者の称号を与えられて事情説明もなく最前線に送られた田中」


「思っていた以上に無茶苦茶ね」


「後にして思えば色々と切羽詰まっていたんだろう。田中が召喚された時点で、大陸の七割が魔王軍の侵攻で奪われていた」


「詰んでるじゃん。もっと、早く召喚するなら召喚しなさいよ。そこまで追い込まれてから召喚されても困るわよ……。っていうか、良く生きてたわね。いや、確か死んだ経験あるんだっけ?」


「いや、その時は死んでない。あの時は本当に運が良かっただけだ。逃げ回ってて何とか生き残ることには成功して……。とはいえ特に手柄も当てないそんな状態で召喚された国に戻ってもいい結果は田中には想像が出来なかった」


「それはまあ……そうね」



「だから、田中は魔王軍の勢力圏に乗り込むことにした」



「なんて??」


 ちょっと意味が解らない、という顔を田中に向ける瑠璃之丞。

 だが、田中は気付いた様子もなく淡々と語った。


「戻った所で……という思いもあった。それに勢力圏とは言っても全ての街が滅んだわけじゃない。抵抗軍みたいなものも存在し、魔王軍も支配には苦慮していたのは田中も知っていた。案外隙もあったんだ」


「なるほど、灯台下暗し的な……」


「その通り。魔王軍の強さも実際に体験した。奴らは強く、そして何よりも生命力が強い……ちょっとやそっとのことでは死なないことを田中は思い知らされた。あの時の田中の力じゃ、まともに戦って倒すのは無理だと……否が応でもわからされた」


「なるほど、自分の力不足を知っての……つまりは強くなるための修行パート――」




「だから、田中は魔王軍の勢力圏でゲリラテロを実行することにした」


「んんん???」




 元・異世界勇者から飛び出た言葉に思わず疑問の声上げる瑠璃之丞。


「いまともに戦うのが無理ならまともに戦わずに戦うしかない。当然の結論だ。つまりはゲリラ戦法。身軽に動き回って軍としての統率を無茶苦茶にする。兵站を焼き、敵軍の将校に毒を盛り、魔王軍の施設に襲撃撤退の夜討朝駆けをやり……懐かしい。井戸に毒を投げ込んだこともあった。大して、あいつら効かなかったけど」


「勇者ってなんだっけ?」


 言っていることはわからなくもないが、勇者という単語との整合性に苦慮する瑠璃之丞。

 そんな彼女にただ田中は答えた。



「魔王を殺す者だ」


「あっ、はい」



 瑠璃之丞は思わず敬語になった。

 勇者ってなんかこんなにヤバい感じの概念だったかなー、などと心底呟いているが勇士は気にした様子を見せない。


「とはいえ、そんな風にゲリラ活動を続けるにも元手はいる。食料や水、生活物資、火薬、毒物……だが、国からの支援は無く、敵の勢力圏の中。どうすればいいか、そんなことは決まっていた」


「まさか……」


「即ち、現地調達。魔王軍からの強奪……いや、人類が奪われた資産を強制回収する行為――それこそが田中的資金調達法」


「いや、調達っていうか……徴発……」


「悪から資産を奪い取る行為は実に田中的な行い。ゲームだってダンジョンの城の中のもの、勝手に奪い取っていくものである。それと同じだ。物資の集積場とかを強襲し、必要なものだけ奪ったら後は燃やして逃げる、それが田中的な定番」


「勇者ってそんな野盗みたいなものだったっけ?」


 瑠璃之丞は真剣に考えこみ始めた。



「いや、というか待った。その強盗行為――」


「田中的資金調達法」


「……田中的調達法で資金調達するって言ってたけど、もしかして今からするの? ここ法治国家らからね?? 犯罪はヤバいわよ? 一応、元・魔法少女として止めるからね??」


「安心して欲しい……流石に放火が重罪だというのは田中は知っている」


「強盗も犯罪だからね!?」


「大丈夫だ、ちゃんと悪党を見繕っている。存在しないはずの汚い金を奪うだけ」


「いや、仮に相手が犯罪者だからってセーフってわけじゃ……っていうか、だからここなのね」



 瑠璃之丞は思わずため息を吐いた。

 ようやく自身がこんな夜更けにこの地域では危ないと言われる地区に、忍ぶように連れてこられた理由がわかったからだ。

 彼女の目線の先には一つの雑居ビルが建っていた。

 当然ただの雑居ビルではない、≪止水会≫と呼ばれる組が居を構えているビルとして近隣では有名だった。


「確かに色々と学校とかでもヤバい噂を聞いたことがあるヤクザ事務所だけどさ。っていうかよく知っていたわね、バイトと就職活動に忙しかったくせに」


「前に女の子を襲った暴漢の腕をへし折った話をした。そいつがその下っ端みたいで、ちょっと調べたことがあった。お礼参りとかされても困るから」


「いちいち、話が物騒なのよ」


「そしたら、出てくるわ出てくるわ。だいぶ手広くやってようだ。恐喝に脅迫、それに違法品の売買とか色々な手段でだいぶ稼いでいたようだと田中は報告」


「なるほど……確かに悪党ではあるんでしょう。それに被害者も居るんでしょうけど、やっぱり警察に任せるべきで――」




「あとは最近は女子高生の盗撮映像とかの売買とかもやってるらしい。業者と結託して学校の施設に盗撮カメラを仕掛けて、その映像を高額でネットで売りさばいているんだとか。確か佐藤の通っている高校も――」




「田中ァ!! 何をしているの!? 全てを消し去りに行くわよ?」


「待て、起業用の資金の調達がある。そのギュインギュインピンク色に光ってるアイテムからは手を離せ、建物ごと消し飛ばす気かと田中は警告。というか、やる気出し過ぎじゃないのか?」


「うるせぇ!! お前にヒロイン敗北物の成人同人誌のネタになったことがある魔法少女の気持ちがわかるか! そういう輩はジェノサイドよ!!」


「田中、ごめんなさい」







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