第二話:元・魔法少女と出会い
彼女と同居生活を送るようになって、それなりの月日は経った。
親族もない異性が一つ屋根の下で同居生活を送る。
一般的な感性を持っていれば、それに何らかの邪推が入ってもおかしくない状況ではある。
普通は彼氏彼女、パートナーのような関係だと考えるし、世の中にはルームシェアというのもあるらしいがそれだって異性でやるのは珍しいだろう。
かく言う田中自身、第三者の立場で聞けばそういう関係だと考える。
だが、田中と
何せ、あの日あの時。
冬の寒空の下、偶々公園で出会うまで二人はただの赤の他人同士だったのだから。
◆
「魔法少女って……ツラいんだ」
「ああ」
「初めて魔法少女になったのは小学四年生の頃だった。ある夜、ふと空を見上げるとちょうど流れ星が落ちるところを見てね。私は好奇心の赴くまま、流れ星の落ちた裏山に登ったのよ。そこで見つけたのがミッフルという可愛らしいデフォルメした狐のような喋る小動物な生き物……」
「マスコットキャラクターというやつ。田中、理解」
「この地球は悪い奴に狙われていて、彼らから守るために力を貸して欲しいっていうのよ。そのための不思議な力もあげるっていうし、説明を聞いている最中にその悪い奴らってのにミッフルの仲間と思われて襲われるし、もう……そうなったらやるしかないじゃない?」
「まあ、顔見られてる時点で逃げても見逃してくれるかは相手の気持ち次第……その時点で選択の余地なしとも言える」
「当時の私はそこまで考えてはいなかったけどね。これでも清く正しく、優しさに満ち溢れていた私は一種の使命感に近いものにも後押しされて、ミッフルと契約して魔法の力を手に入れて魔法少女になったのよ」
「なっちゃったのか」
「なっちゃったのよ」
まあ、魔法少女としてはベターな始まり方ではある……と田中は思った。
魔法少女のベターってなんだよ、という話は置いておくとして。
「初めの頃は良かった。愛と正義のために私は悪と戦っているんだって、気力も充実し、表では普通の小学生、裏では地球の平和を守るために奮戦していたわ」
「表では普通の女の子として日常を謳歌しつつ……というのは魔法少女としては鉄板」
「あれ? おかしいな……って思い始めたのは一年過ぎた辺りだった。私はまだ魔法少女をしていたわ。というか最終的に決着がつくまで中学二年生の終わりまで時間がかかったわ」
「おおよそ、五年か」
「そう……戦歴五年。その時点で人生の三分の一を私は魔法少女として戦いに費やしたことになる。それはまあ……いいのよ。やってしまったことは仕方ない。過去を悔やんでも今は変わらない、戦いを終え、魔法少女から元・魔法少女になった私は守り切った平和の日常と共に、新たなる未来への道を歩き出そうとし……失った代償に気付き、愕然とした」
それは絶望だった。
地球を守るため、愛と平和と正義を守るための対価としては重すぎるものだった。
「――ずっと戦いっぱなしで勉強が全然わからない……っ!!」
「……悲しい」
昼間は学生、夕方から夜にかけて魔法少女。
魔法少女に休みは無く、むしろ休日とか祝日とかイベントごとの時の方がトラブルが起こる確率は上昇し、平日の授業中こそが安眠できる生活を送っていた薫。
彼女の学力は致命的なまでの遅れが発生し、それが二十歳の女子高生という今の現在の姿に繋がる羽目となったのだ。
「キツイ……キツイよぉ。同級生、みんな年下だよぉ……っ! 学生での年の差はデカすぎる……学校に居場所がないっ」
血反吐を吐くような叫びだった。
田中は何も言えなかった。
最終学歴を中卒で諦め、高校に入り直そうと思わなかった理由はそこだからだ。
田中は逃げたが、瑠璃之丞は逃げなかった。
元・異世界勇者は逃げたが、元・魔法少女は逃げなかった。
そして、結果として元・魔法少女は酒に逃げた。
「それであんなところで飲んだくれてたんだよな……学生服のまま。田中、衝撃だった」
「成人してるからいいのよ」
「いや、当時はまだ未成年……」
そんなこんなが二人の出会いだった。
冬の寒空の下、公園の片隅でセーラー服でチューハイ缶をあおる姿に思わず二度見し、続いてその身に宿る力の大きさに驚き、無視も出来ずに話しかけたのが切っ掛けだ。
「今、思い出してもとんでもない出会い。……いきなり田中に攻撃を仕掛けてくるし」
「あの時のことに関しては謝ったでしょー。生き残りかと思ってさ」
「嬉々として仕掛けてきたと田中の記憶にはある」
「酔いもあったから……」
どう考えてもストレス解消が目的だった。
田中は確信している。
そんなこんなで異世界から帰ってきて初めての戦闘を酔った元・魔法少女と行い、そして――紆余曲折を経て二人はこうして同居生活を送ることになったのだ。
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