第一話:元・異世界勇者と同居人
「面接……落ちた。田中、解せない」
「でしょうね、当然の結果だわ」
「やっぱ髪なのか? 染めてるわけじゃないんだけど……」
「あとは肌の色もね、この日本で褐色肌にシルバーはヤバイ」
「ブロンドとかピンク……発光するのとかもいたぞ? むしろ、シルバーは大人しい方だろう。というか、黒の方がレアだったんだが」
「いや、異世界常識を持ち出すなっての……いや、私も人のこといえない髪色した知り合い知ってるけど。……っていうか髪色で発光ってなに?!」
「戦いになって魔法を使うと光るんだよ。お陰で田中は目が痛かった」
「流石は異世界……常識じゃ測れない場所ね」
同居人である
長い黒髪にセーラー服、何処からどう見ても女子高生な姿。
やや、大人びて見えるが淑やかな和風美人を思い起こさせる容姿をしている。
「とはいえ、落とされたのはその奇抜なスタイル以前の問題でしょ。そもそも書類選考で落ちてるんだし、面接にすら行ってないわけだから。流石に写真だけでは落とさないでしょ」
「むぅ」
「問題はどう考えてもふざけてるとしか思えない経歴書のことでしょ」
「田中は真面目に書いたぞ?」
「書きすぎなんでしょ。なによこれ、魔法とか暗殺とか……ただの悪戯と思われてゴミ箱行き不可避。もうちょっと、オブラートに包むというかさ……」
「そんなことを言われても…書くことないし、そもそも田中の最終学歴中卒は隠しようがない」
「やーい、中卒元異世界勇者ー!」
「田中は二浪現役女子高校生の言動に厳しいものを感じる。年上であるのを隠して、年下と同じ教室で同い年のふりをして勉強する生活は楽しいか? 田中は純粋な興味として聞きたい」
「死ね」
そんな言葉と共に放たれたのはビールの缶だった。
しかも、中身もしっかりと入ったやつが、放物線どころか田中へ直線軌道で顔面目掛けて物凄い飛んできたのだ。
「田中を殺す気か」
田中はそれをヒョイと掴み取るとプルタブを引きあげた。
「そのぐらいで死ぬたまじゃないでしょ」
ジトッとした眼つきで睨むも、瑠璃之丞はどこ吹く風の様子だ、
「その程度で死んでちゃ、世界を救うのに幾つ命があっても足りないでしょうからね」
ケラケラ笑いながら、自身用のビール缶をまた開けながら、宣う彼女に田中は答える。
「いや、実際に田中は何回か死んだのだが……。肌と髪はその影響だし……」
「へー、どうやって生き返ったの?」
「仲間が蘇生してくれたり、それからあっちの世界で死ぬと辿り着くあの世みたいな場所から無理矢理脱出したりとかだ」
「えー、じゃあ本当に複数回死んでるの……冗談とかじゃなく?」
「田中、嘘付かない。ガッツリ死んでこのままじゃまた死ぬからって女魔道士に改造されてこうなった」
「改造って……奇想天外な過去ね。流石は異世界に行って勇者して帰ってきた変態なだけあるわね。臨死体験ぐらいならともかく、死からの蘇生経験ありとか……」
いや、臨死体験の時点で大概じゃないか?
と田中は突っ込みたくなったが、口に放り込んでいたツマミのピーナッツのせいでその言葉が吐き出されることはなかった。
「というか良く怒らなかったわね。聞いてる感じ、勝手にやられた感じだけど」
「うん、死んで起きたらこうなってた。まあ、強くなれたし」
「それで済ませるってどうなのよ。了承なしで改造されたわけでしょ?」
「とはいえ、その強化があったお陰で復活後は戦い易くなったのも事実。正直、あの時は魔王軍の勢いもあってジリ貧だったから田中としては助かった」
「魔王軍、ねぇ……。まあ、勇者と戦うのは魔王だろうけどそんなに強かったの魔王軍? あと四天王とかっていたの?」
「居た、最初に四天王とか言って出て来たくせに、先代四天王とかいうのが途中で出てきたせいで結局七天王ぐらい相手にする羽目になった。田中、大変」
「七天王って……」
「まあ、純粋に相手にしたのは半分くらい。だが、とても強かった。田中は相討ちで何とか殺すのが精々だった。それで女魔導士が田中を蘇らせたのが、四天王を討たれたことに怒り狂った直轄軍の追撃の最中だったので……緊急事態というやつだ。田中、仕方ない」
「まあ、それなら確かに文句は言えない……かな?」
「だよね?」
懐かしい思い出だ。
復活したてでちょっとだけテンションが上がっていた田中は、妙に軽く動く身体と巡りのいい体内魔力を存分に使って、隠れていた森に入ってきた魔王軍幹部の直轄部隊相手に大立ち回りをしたものだ。
「へー、大立ち回りって?」
「魔法で透明化と消音を行って、一人ずつ高速で攫って殺す」
「ガチね」
「しばらくすると部隊の人数が減っていることが発覚して、すぐに騒ぎが起こるからリーダー格が場をおさめようと動くから、それを確認して吶喊してリーダー格を殺す」
「ガチね」
「その後、すぐに追いかけられる程度のスピードで撤退。指示を出す奴が亡くなった部隊は冷静な判断能力を失い、報復と俺の首を何も考えずに狙って追ってきたので、予め罠を仕掛けておいた地点に誘い込み――壊滅。それを数度行う」
「徹頭徹尾、ガチね。なるほど、そりゃ経歴の部分に暗殺なんて書くわけね」
「真っ当に無双させてくれない魔王軍サイドにも問題があると田中は主張。あいつらしぶといんだもん」
「それで……毒。なるほど、確かにアンタなりに真面目に書いているのはわかった」
「うむ」
「でも、現代のアルバイトにそんなスキルも経験もいらないから。しかも、警備会社とかならともかく、喫茶店のアルバイトって……」
「飲み屋には荒くれ者がやってくるのが常なんだから、腕っぷしをアピールするのは間違ってないはずだ」
「異世界常識に汚染されてる……可哀想にこれが異世界で三年間もどっぷり勇者をやった者の末路か」
そう言ってこちらを見る瑠璃之丞の視線はまるで哀れなものを見つめるようで、
「飲んだくれの二浪女子高生やってる元・魔法少女に言われる筋合いはないんだが?」
「うるへー」
田中の同居人、
年齢は現在、二十歳な女子高生。
小学三年生から中学二年生までの間、魔法少女活動を行っていた元・魔法少女である。
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