ピクニックの日に
子ども頃の俺は、今もそれは変わっていないかもしれないけれど、こうする、あーしたい、嫌なことがあればすぐ口にして抵抗をしたり、泣いたり、喚いたり、少し聞かん坊なところがあった。
家族もそれはもちろんわかっていて、よく怒られたし、よく暖かく慰めてくれた。兄と妹は、俺とはあまり似ていない。容姿もそうだけど、性格かな? 兄は優等生でスポーツもそこそこできて、先生からはお兄ちゃんはねと、いつも兄のことを持ち出されて、間接的に説教されている気分になっていた。落ち着いた雰囲気で誰からも頼りにされる、まさに【THE 兄】という存在だ。俺というと、頭はそんなによくないけれど、スポーツ万能で何をやっても大抵は熟せる。お前は威勢いいけど……って言われることが多かった。
妹は可愛いし、頭もいい。勉強しなくても授業さえ聞いていればだいたいは覚えられるらしい。優しくて気遣いもできて、家族のアイドルだ。
小学4年生のときだったかな? 家族で緑ヶ丘公園までピクニックに行ったことがある。芝生の上にレジャーシートを敷いてそれぞれリュックを置いた。昼までは1時間くらいあるから、それまではボールで遊んだり、追いかけっこをしていた。
兄の蹴ったサッカーボールが、俺を通り越して少し遠くにいってしまった。急いで追いかけて見つけ出し、戻ってきたときのことだった。父、母、兄、妹、なんだかテレビCMを見てるかのように完璧な家族に見えた。尽善尽美まさにその言葉が形になったようだった。手からサッカーボールが滑り落ち、ポンポンポンと音を立てて転がっていった。
俺は本当にこの家族の一員なんだろうか? 本当の親で血の繋がった兄妹なんだろうか? 子ども心にそんなことを思った日だった。
兄が「何やってんだよ。お弁当食べるから早くこいよ~」と俺に手を振った。早くおいで~と父、母も笑顔で呼びかけてくれた。
そのとき、心底安堵した。余計なことを考えるのはやめておこうと。
あれから約10年、家族のことは大切だし、好きだけれど、今年、何する目的もないまま上京した。甘えたくないわけでもないし、居心地が悪いわけでもない。
ひとりになりたかった……違うか。居場所というか、全身が何かを探して、どこか違う場所に行きたがっているような気がしていた。
自分自身、どんな時も、どんな場所にいても、心もとない感覚が頭を巡って、どうしようもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます