第六話 覚醒
ただ事ではない。
店に近くまで戻って見ると、何やら怒号が店の外にまで聞こえて来る。
慎重に、慎重に、
物音を立てずに入り口の僅かな隙間から店内の様子を覗き見る。
おばちゃんは手をあげて震えているのが見える。
何故なら、おばちゃんの目の前には覆面を被った黒ずくめの人が奴が鉄砲を突きつけていたからだ。
「ババア! さっさとこの店を畳めって言ったよなぁ? Eランクの屑共の溜まり場になって迷惑なんだよ! さっきも一匹ガキが入って行くところ見たんだぞ!!!」
物取りではないようだ。激昂している男は叫びながら、おばちゃんに銃を向けて脅している。
その銃口はカタカタと震えていた。
「……EランクとかAランクとか……社会ランクなんて、今を生きる人に関係はない事に振り回されてすぎよ……」
何かを悟ったのか、そう返す。
おばちゃんは芯の部分の態度を崩さない。
「ふざけた奴だ。これは脅しでじゃない。命令だ。こんな店がある所為で、この近辺には浮浪者がうろうろしているんだ。正直、迷惑なんだよ!」
「私は、やめないよ。止めたいなら、そのおもちゃで私を撃ち殺せば良い。」
挑発された不審者は持っていた銃の引き金に指をかけた。
おばちゃんが殺される。
助けなきゃ!
そう感じたとき、俺の体が勝手に飛び出していた。
「やめろ!!!!!」
店の中に叫びながら勢いよく飛び込む。
「てつ坊!?」
おばちゃんが俺の前を呼ぶのが早いか、俺の侵入に気がついた不審者はこちらを向いた。
「Eランクのクソゴミが!!!!」
男は吠えながら、持っていた鉄砲をこちらに向けた。
俺の黒い腕章をみて、殺意と共に引き金に手をかける。
その動きに躊躇なんてない。
間違いなく撃ち殺す気だ。
緊迫の一瞬。
冷や汗が額に滲んだ。
――世界が歪み効果音が鳴りひびく。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ティン! ティン! ティン! ティン! ティティティン!!!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は銃を持った不審者と共にこの生気のない世界へとやってきた。
本日二回目。
勢いあまって思わず態勢を崩して転んでしまう。
違和感に気が付いたのはすぐだった。
「いたたっ……ん?」
いつもなら、何もできないはずの空間で転んだのだ。
地面から顔を上げてあたりを見渡す。
目の前にはおばちゃんを襲っていた不審者が怒りの形相で明後日の方を睨みつけて銃を構えて立っている。
痛む顔をさすりながらゆっくりと立ち上がる。
「な、なんだ!? 体が動かせる?」
大きくジャンプをすることもできた。
いつもなら思考するだけで、待つだけのこの空間で、今、俺は自由に動ける。
「どういうことだ?」
疑問が浮かぶが回答は持っていない。
全く理解できないのだ。
そんな疑問を抱えつつも、今は目の前のことだ。この世界がもしもいつもの同じなら60秒くらいしか時間はないのだ。
俺は不審者に近づき銃を取り上げる。
動くことのない人間から銃を奪うのは容易だった。
知恵の輪を解くように男の手から銃をするりと外して、奪いとる。
――――――――
ピッ!
――――――――
この空間が終わる時に聞こえてくる効果音が聞こえてきた。
しかし、いつもとは様子が違う。
―――――――――――――――――――――――――――
ピッピッピピピピピピ!!!!ピッピッピっ!!!
―――――――――――――――――――――――――――
まるで効果音がバグったようだ。
すると、覆面の男はこちらに向きなおった。
表情は見えないが顔をひっきりなしに左右に動かして始める様子から慌てている事がよくわかる。
――――――――――――――――――――――――――
テテティティー、ディン!! ティティン!!
――――――――――――――――――――――――――
壮大な効果音がなり響き世界が壊れ始めた。
俺と覆面の男は元の空間に戻ってきた。
「おっ……」
覆面の男が俺を見るなり、素っ頓狂な声をあげた。
俺の手には銃が握りしめられていた。
まるで物が息を吹き返したようにずっしりとした重さと金属の冷たさが俺の手の中に急にかかる。
「おい! お前、何しやがった!!!!」
真っ先に聞こえてきたのは男の怒号。
目の前の不審者は銃を失い、俺が銃を持っている。この状況に慌てふためいてるように見える。
何が起きたのかさっぱりわからないが、たしかに銃を持っているのは俺だ。
俺は銃口を不審者に向けて、言い放つ。
「さっさと出てけ! おばちゃんを傷つけるなら俺はお前を許さない!」
精一杯の威勢で俺は不審者に吠えた。
「くそっ!」
武器を奪われ何できなくなった不審者は逃げるように店から走って出ていった。
胸を撫でおろしながら、襲われていたおばちゃんの方を見る。
「ふぅ~……おばちゃん、大丈夫だった?」
「はぁ……」
同じ気持ちだったのだろうおばちゃんも腰を抜かして地面にへばりついて、安堵のため息を吐き出していた。
「てつ坊、ありがとうね。でも、何したんだい?でも急に前に飛び出してきた時はびっくりしちゃったよ。」
「俺よりもおばちゃんが生きてた方がみんな嬉しいからさ。」
「全く……」
おばちゃんはゆっくりと起き上がると俺の抱きしめて頭を撫でてくれる。
「ちょ……俺、もう高校生なんだよ。」
急に恥ずかしくなってしまい、しおらしくなってしまった。
「それにしても、あんた一体何したんだい? あいつから一瞬で銃を奪って……」
「俺もよくわからないや。無我夢中だったから。」
それは事実だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます