第三話 神様っていると思う?
「キミのことを私はなんて呼べばいいかな」
下校の電車を待つ最中に彼女はケイの耳元でそう
「なになに~?キミは耳が弱いのかい?だとすればキミ、めちゃくちゃ可愛いなぁ」
そう言いながら彼女はオレの頭を
「呼び方をどうするとかより先に先輩の名前を教えてください。オレ先輩に初めて会った瞬間に告白したもんだからまだ知らなくて……」
「何だそんなことか。私はいいけれど、名前が変だったからとかいう理由で私を嫌いにならないでくれよ」
「そんなんで嫌いになんてなりません!オレは先輩の全てを愛します!」
ケイの言葉を聞いた彼女は笑っていた。ケイ自身、最後の言葉は余計だったと思い、顔を赤く染めた。
「私の名前は
自分の名前を変というくらいだから、少しは身構えていたケイを彼女、夏凪 カナはいい意味で裏切ってきた。彼女に似合う美しい名前で何も変ではなかったから。だからこそケイは
「そんなに笑わなくたっていいじゃないか。キミは人の名前を笑うような人間だったのかい?」
「違うんです先輩。先輩の名前が可笑しくて笑ってるんじゃないんです。ただ先輩があれだけ『嫌いにならないで』って言っておいて、いいお名前だったんで笑ってるんです」
「それでも、そんなに笑うものなのか!」
夏凪は恥ずかしさと怒りとが混じり合っているのか、ケイの手を握った手をブンブンと振り回していた。
そんな時に二人の待つ電車がちょうど到着した。降りてくる人も乗り込む人もさほど多くない。まさに田舎の駅と言った感じで、二人は横に並んで出発の時を待った。
この駅に来る前にケイと夏凪は自分の家の最寄り駅を話していた。ケイの駅の前の駅が夏凪の最寄りということもあり、ケイは帰りを送るということになった。初めは遠慮していた夏凪であったが、ケイの
夏凪の最寄り駅に着くと外の景色は
すると、ケイの緊張を和らげてくれるように夏凪が話しかけてきた。
「キミは神様っていると思う?」
「急にオカルト的な話をしますね先輩。まぁ、オレはどちらかと言えば否定派の人間ですよ」
「否定派なんだね。なんだか意外だなぁ」
「そう言う先輩はどうなんですか?神様いると思うんですか?いないと思うんですか?」
「私はいると思うな。だって今朝初めて会って一目惚れした男の子に告白してもらえたんだよ。これは奇跡という他ないと思うんだ。神様が運んでくれた奇跡だと思うんだ」
その言葉にオレは深く共感した。だから今日という最高の一日は神様からの
それから他愛のない会話をしている内に二人は夏凪の家へ着いた。彼女の住む家は庭の手入れが綺麗にされている古びた一軒家だった。
「今日は送ってくれてありがとうね」
「いえいえ、健全たる男子高校生としては当然のことですよ」
『そっか』と呟き、夏凪の表情は何かを思いついたかのようにニコリと笑った。
「健全たる男子のキミに一つ提案なんだけど、今日、家は私一人なんだけど、どう?健全な男子を卒業してみない?」
オレは
ケイの揺れ動く気持ちが表情に出ていたのか、夏凪は大笑いしながら言った。
「なんてね。冗談だよーキミにはまだ健全な男子でいてもらうからね」
冗談を本気にしていたことが分かりケイは自分の赤くなる顔を下に向けて隠した。今は絶対にこんな顔を見られたくなかったケイはその場から立ち去ろうと口を開いた。
「それじゃあオレは帰りますね先輩!!」
「うん!今日はホントにありがとうね渡来くん」
別れ際に言われた自分の名前に答えるようにオレは先輩の名前を声に出した。
「はい!夏凪先輩!」
ケイは勢いよく駅の方へ走っていく。そこには喜びの表情があった。それを玄関前で見送っていた夏凪は一つの独り言を呟いた。
「明日くらいには彼女が来そうだね」
蝉の声はその時には静まり返っていた。
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