第二話 好転転転転転

 時は経ち、ケイは放課後の校門で彼女を待っていた。頭の中は彼女のことでいっぱいだ。というか、根本からではあるのだが、彼女は本当に来てはくれるのだろうか。あんなシチュエーションで告白をされれば誰でも相手のことを警戒するものだろう。ましてや男性から女性となると、それの逆とはまるで社会の見る目は変わってくるのではないだろうか。女性からの場合、まぁ場合によるのだろうけれど、何か可愛らしく感じられるものも、逆だと感じ方は豹変ひょうへんするというのが男性のオレからの意見だ。そういう事を考えていると、ケイは自然に頭を抱えていた。すると後ろから胸をざわめかせる声がした。


「頭を抱えてどうしたんだい?」


 声がする方に目を向けると彼女が居た。光のかかる彼女は教室で見た時よりも美しく見えた。意識すれば意識するほどケイの胸の揺れは増してゆく。


「先輩!ホントに来てくれたんですね」


「来ないって何なのさ。私から誘っておいて来なかったら、私ただただ怖い人じゃないか」


 とりあえずは軽蔑けいべつされてはいないようで良かった。だが、ここからがオレの勝負の時間。彼女の答え次第でオレの人生は大きく動く……


 ということを考えているうちにオレの手は彼女の手に握られていた。


「ふへぇっ、せっ先輩?」


「どうしたんだい?そんな変な声出して。さぁ、早く一緒に帰ろう」


 この女性が何を考えているのかがケイには全然ピンとこない。てっきり告白の答えが返ってくるものとばかり思っていたケイには少し刺激の強い体験。人生で初めて自分と歳の近い女性と手を握るケイの顔はリンゴのように赤く熟れていた。


「先輩、これってどういう?」


「だから言ってるじゃないか、早く帰ろうって」


「そうじゃなくて、これはオレの告白の答えってことでいいんですか!?」


 二人の間に静寂が生まれる。ケイにとってその時間はものすごく怖く、ひたいからは冷や汗が出てきていた。時間にして15秒、彼女の口は開いた。


「ケイくんはどっちだと思うの?」


「どっちって、そりゃオーケーがもらえればいいなとは思ってますけど…」


「そっかそっか、『もらえればいいなと思ってる』か……はホント自分に自信がないんだからー」

 

 彼女は突然ケイの握っている手を引っ張ると、自分の方へと手繰たぐり寄せていく。その光景は周りから見ればカップル同士のハグシーン。ケイはもうすでに自分自身を見失ってしまう程に混乱していた。彼女はそんなケイを見ながら満面の笑みを浮かべて言った。


「君の告白を断る理由なんてこれっぽっちもないよ。だってキミと一緒で私もキミに一目惚れしちゃったからね」


 その言葉を聞いたケイは安心で腰が抜けてしまい、なぜか目元には少しの涙が溜まっていた。溜まった涙はほおに沿ってゆっくりと落ちていく。


「これからよろしくお願いします………!」


 オレはこのくらいの事しか言えなくなっていた。そのくらい感情がこみ上げていた。


 そんな時でも相も変わらず蝉の声はうるさかった。




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