海は遠く空は近く

 服の僅かな隙間から砂が入り込み全身がかゆみに襲われる。今すぐにでも服を脱いで入ってしまった砂を叩き落とし気持ちだったが、まだまだ先は長い。

 見渡す限りの砂、砂、砂。そして、眩しいぐらいに照りつける太陽。それらが僕の体力をジリジリと減らしていくのがわかる。

 少し前に寄ったオアシスの中にある都市は遠くに見える。そこで商人に話を聞いたところ、魔法の絨毯や双翼のアイテムを使用したりなどして近場の都市に向かうのが普通らしい。僕のように単独でこの砂漠を超えようとするのは自殺行為、とのことだった。

 頼るべきものも頼るべき人も僕にはいない。ただ、あるのは目的だけ。

 それはこの砂漠をこえて、その先にある海を目指す。その海を越えた先にある王都をに行く。今のところの目的だ。

 彼女が犯された病――――あれを病と言っていいのかわからないが――ーを治すためにむかう。かつて神童と言われた彼女はもはや喋ることも動くこともままならない。

 なぜ彼女なのかといつも思う。なんの才能も無い僕がその病になれば良かった、と。ただ、約束したのだ。僕が君を救ってみせる、と。

 

 ※※※

 

 砂漠の夜は気温が下がり、身に染みる。

 昼間とは違う着込み方をしなければ、とてもじゃないが夜を過ごせる気がしない。ただ、星々が煌めき照らしてくれるのが唯一の救いな気がした。

 岩場の陰で、火を起こして暖をとっていた。

 魔法使いでも魔術師でもない僕は火を起こすのも一苦労だ。こういう時アイテムがあって助かった。

 パチパチと火花が弾ける音とともに、ふと手を空に手を伸ばしてみる。

 ジパングと呼ばれる島国では、皆平等との考えから、空の下は繋がっている思われているらしい。とても素敵な考え方だと僕は思う。遠い遠い山奥で動かない彼女とも繋がっているような気がする。

 そう考えると空は海より近いような錯覚に陥る。

 だが、海はまだ遠い。

 それでも、海につき、船に乗って、その先にある王都に行けば彼女を救える。そう僕は確信している。

 彼女が笑ってくれることを目指して、また僕は眠りについた。

END

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