第14話
緑川かおりは不思議な女性だ。初対面で彼女から鉄拳を食らったにもかかわらず、俺は彼女に親しみに近い好意を抱いていた。いや俺だけではない、SOS団全員がその日のうちに彼女と親しくなってしまった。竹を割ったようなさっぱりとした性格で飾り気はないが、容姿からはどこかお嬢様のような品格を持っている。しかしながら、彼女の来ているジャージや言動からはそのような要素は見つからずそのギャップが人々を引き付けているのかもしれない。
「かおり、あんたも花火大会に参加しなさいよ。」
ハルヒが当然の義務のように言った。
ちなみにハルヒとかおりは既にお互いの下の名前を呼び捨てしあう仲になっていた。
女子って初対面の女子と仲良くなるの早いよな。俺はしみじみと思った。
「お、面白そうだな。明日の夜はあたしも予定空いてるし。」
それに、かおりは何かを言ったようだが、声が小さくて俺は聞き取れなかった。
「決まりね。そうと決まれば追加の打ち上げ花火を購入しなくちゃいけないわね。」
ハルヒが俺の方へと目を向けた。
「キョン、わかってるわよね。バイト終わったらダッシュで買ってきなさい。」
なんで俺が行かないといけないんだと言いかけたが
「無理。命令。」
と長門みたいな口調で言うもんだから(というか絶対意識して真似してる)俺は命令に従うしかなかった。
この時に俺は気づいていなかったが俺たちの夏休みは引き込み線から本線へとポイントを切り替えていたらしい。
そんなことはつゆ知らず、俺とかおりは筒状の打ち上げ花火を品定めしていた。ハルヒがお使いを命じたのは俺だけだったが、おもしろそうという理由でかおりもついてきた。正確に言えばかおりだけついてきた。そう、俺たちは2人きりであった。
「兄ちゃんこれなんかいいんじゃないか」
かおりは特大の花火を指差して言った。
「お前はビルでも爆破させる気なのか?却下。」しかもこれ4500円もするじゃねーか。
「つれないなー。金ならあるぜ、兄ちゃん。」
「やっぱりお前お嬢様なのか?てか誤解を招くから兄ちゃんて呼ぶのやめろ。」
自然な流れで言ったつもりだったのだが、かおりは黙り込んでしまった。
俺は何かいけないことを言ってしまったのだろうか。
その空気を察知したのか、かおりが口を開いた。
「ごめんごめん、あたしにも本当の兄ちゃんがいてさ、あんたがどこかその兄ちゃんと雰囲気が似てたからついさ。」
嫌なんだったらキョンて呼ぶよ。かおりは少し寂しそうな表情で言った。
「いいよ、好きなように呼べ。」
かおりは満面の笑みを浮かべて特大花火をレジへと持って行った。
「じゃあ、兄ちゃんのおごりなー」
俺はなぜだか少し笑っていた。
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