第12話

俺は呪われているのかもしれない。

2年連続で夏休みが無限ループへと周回軌道を始めてしまった。

世間の小学生が聞いたらまるで天国に違いない。しかし、俺にとっては紛れもない地獄であった。

「一発ギャグでその場をやり過ごすは失敗と。」

俺は自分で読んでて悲しくなるようなことをメモに書きつけながら深いため息をついた。何としてもこの地獄の日々から抜け出すべく、俺はありとあらゆる可能性にかけて今までに試したことをメモしていた。

「仏様が蜘蛛の糸でも垂らしてくれたらなー」

俺が独り言をつぶやいていると、ハルヒがずかずかと大股で近づいてきた。

「アンタ、なにさぼってんのよ。明日の夜はシフト外してもらうんだからその分5倍は働きなさい!」

このやり取りももう72回はやっている。いや、73回だったかな?後で長門に確認しておこう。そう心に思いつつ、俺はハルヒに向かって

「悪い。ちょっと気分がすぐれなくてさ。」

とこの場をしのぎつつ、今夜ハルヒに告白しなくていい状況を作り出そうとする。

するとハルヒが急に俺の方に顔を近づけてきてじっと見つめる。

改めてハルヒは美人の部類なんだと思う。特に好意がなくても、この顔で見つめられると恋に落ちそうになる。

俺がしどろもどろしているとハルヒは手のひらを俺のおでこにあてた。

「熱もないし、顔色もいいじゃない。さてはサボるために仮病つかってるな。」

そうはいかないわよとハルヒは俺の手をつかみ喫茶店のビラを配りに店の外へと連れ出されていったのだった。


「キョン君、だいぶお疲れのようですね。大丈夫ですか。」

朝比奈さんの優しい言葉に、地獄に仏とはまさにこのことだとしみじみと思った。

「ありがとうございます。朝比奈さんちょっと聞いてもいいですか。」

俺は今までのメモからある可能性に気づいていた。いや、嘘だ。本当ははじめから気づいていた。朝比奈さんが何か言いかける前に俺はそのことに触れた。

「朝比奈さん。この状況を打開できる方法を知っていますよね。前は禁則事項だからヒントしかくれなかったけど、このままだと埒が明かない。教えてくれませんか。」

俺は単位を落として留年しかかっている大学生が教授に泣きつくような藁にもすがる想いで朝比奈さんに詰め寄った。

「あの、その・・・。」

朝比奈さんは明らかに当惑していた。少し涙目になっている。俺は焦って朝比奈さんを落ち着かせようと肩に手をかけたとき、何かに手を跳ね上げられた。

「やめなよ。嫌がってるだろ。」

一人の少女が俺の後ろに立っていた。

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