第10話
かくして、花火大会の日がやってきた。この日は俺の人生の中で最も嫌な日ベスト3には入るだろう。
いつも通りバイト先にきたものの、SOS団員はなんだかそわそわして俺を避けている気がした。
特にハルヒは朝から目も合わせようとしない。
まあ、ハルヒから距離を置きたい俺にとってはむしろ、好都合だったのかも知れない。
ただし、朝比奈さんから向けられる悲しい人を見るような視線はかなりつらかった。
昼過ぎ、客足も落ち着いたところで俺は小休憩の時間に思い切って長門に相談してみることにした。
「なぁ長門、ハルヒのことなんだけど」
長門だけは団員の中で唯一普段と変わらない様子だった。
俺は長門に昨日までの日常を求めていたのかもしれない。
何だか、昨日と今日で世界が変わってしまった気がする。
「あなたの選択は間違っていない。」
長門はいつにもまして冷静な声で言う。
というか、長門は俺がハルヒに告白したことを知っている。
「ハルヒから何か聞いたのか?」
俺の予測が正しければ、長門のいうことは大体想像がつく。
「何も。ただ、みんな知っている。」
やはり思った通りだ。俺とハルヒ以外の連中はみんなこうなることを予測していたに違いない。
「ということは、何か、俺がハルヒに告白することは必然だったといいたいのか。」
俺は無意識のうちに語気を強めていた。
「必然、とはちがう。あなたの選択するパターンは12通りあった。その中で私たちが予想したのは3通り、あなたはその選択肢の中で最良のパターンと最悪のパターンそのどちらでもないパターンを選んだ。」
長門は俺の苛立ちに気づいているのかはわからない。
ただ、淡々と説明を続けた。
「この後起こりうる事象はすでにあなたも経験している。」
俺は去年の夏休みを思い出していた。
エンドレスエイト。夏休みの同じ日が幾度となく繰り返されたあの日々だ。
「あんなのが、また来るっていうのか。」
冗談じゃない、あんな体験は二度とごめんだ。
「何か、回避する方法はないのか。」
俺は自分のした選択に後悔をしつつ、その回避策も当然あると思っていた。
「涼宮ハルヒが通常の心理状態なら、回避手段はいくつかあった。前にも言ったが涼宮ハルヒの精神状態は今普通じゃない。」
「そんな。」
俺の中に、いや、世界中に暗雲が立ち込めているぞこれは。
「俺は、あきらめない。去年の夏だってループ状態から抜け出せたんだ。こんかいだって。」
俺の言葉を遮るように長門は言った。
「どちらにせよ、カギを握るのはあなた。そしてもう一人。だけど、これはあなたにしかわからない。」
俺たちの夏は混迷を極めていった。
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