第8話

俺たちの夏休みはほぼルーティンだったといっていい。

早朝に駅前に集合し、モーニングの開店に合わせて具材の下準備、昼のランチまでウェーターをした後、比較的暇な午後は店のビラ配りと食材の買い出し、夕方に解散という流れであった。バイト代は日払い制で結構羽振りがよかった。

しかしながら、バイトで疲れ切った俺はとてもその足で遊びに行こうという気にはなれず、バイト代が入った封筒を自分の部屋の机の引き出しにしまい込み、そのままベットに倒れこむのが日課となっていった。


「せっかくの夏休みなんだし、何かイベントが欲しいところね。」

ハルヒがこんなことを言い出すとたいていろくなことがない。

「そうだ、花火大会をしましょう!」

「いいですね。是非ともやりましょう。」

俺は、できたら反対意見に回りたかったのだが、古泉が賛成した上に、

長門は問題ないというし、極めつけは朝比奈さんが珍しく大いに賛成したので4対1という圧倒的な数の暴力で俺の意見は棄却されたのだった。


「そうと決まれば、明日の夜はシフト外してもらわないとね。」「マスターに交渉に行ってくるわ。」

ハルヒが店の奥に消えて行ったあと、ふいに古泉が

「お話があります。ちょっといいですか。」

なんていうものだから、俺のテンションはだださがりだった。

せめて、相手が朝比奈さんだったらよかったのになあ。


「今夜が山場です。くれぐれも判断は慎重に行ってください。」

「なんだ、親戚の誰かが危篤なのか?」

俺は古泉の言葉の真意を量り損ねていた。

「いえ、涼宮さんのことです。朝比奈さん同様、私もあまり詳しいことはいえませんが。」

今夜がターニングポイントです。といって、店の中に戻っていった。


おれはなぜだか、ハルヒと帰路を一緒にすることになった。というよりも、俺たち以外の団員が口をそろえて、今日は二人で帰りなさい。なんていうものだから、仕方なく俺はハルヒと帰り道を共にしていた。

「キョン、明日の花火大会のことなんだけど。」

いつになく真剣な面持ちでハルヒは切り出した。

「なんだよ、準備手伝えとかいうんじゃないだろうな?」

「それもあるけど、もっと重要な話。」

「重要?どんな?」

ハルヒが何かを口にしたが小さくて聞き取れない。

なんだよ。なにがいいたいんだよ。

おれが若干イラついていると、

「いるの?」

「はい?」

「キョンにはいるの?」

「あー前言ってた友達云々のことか。まだ根にもって・・・」

「ちがう!」

ハルヒの声が震えていた。

「好きな子いるの?キョン!」

俺の耳にはっきりと聞き取れる声でハルヒは言ったのだった。


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