第6話
メイド喫茶と思って入ったその喫茶店は以外にも渋い内装をしていた。テーブルや椅子はアンティーク調の木製テーブルで側面には彫刻が施されていた。棚には東南アジアやアフリカのお土産屋で売っているような奇妙な形の仏像や仮面がおかれていた。俺たちは、朝比奈さんに案内されて一番奥の窓際の席に座った。
「ご注文は何になさいますか。」
「コーヒー2つで。」
ハルヒはきょろきょろと店内を見回して、メニューには目もくれない様子だったので、俺はさっさと注文を済ませた。どうせまた俺のおごりだろうしな。
俺は窓の外に赤く染まった積乱雲を見つめながら、図書室の廊下で長門と話していたことを思い出していた。
「涼宮ハルヒの精神状態は普通じゃない」
涼宮ハルヒは普通の人間ではない。そう長門から告げられたのは、SOS団創設間もない頃であった。ハルヒは自分の意志や考えを具現化する能力を持っている。そしてそれは周りの人間や世界にも影響する。
はじめは、とても信じられなかった。しかし、ハルヒと行動を共にするうちに少しずつ信じざるを得なかった。
そして今現在もハルヒの能力は周りの人間を巻き込みながら、発動している。
俺はさっきまで配っていたびらを見つめながら、ふと思案した。
この友達求むってのは俺じゃなくて、ハルヒ自身のことじゃないのか。こいつは図書室で経営書を探していた時、学校を設立したいといった。しかし、それは本当の願いではなくて、単純に友達が欲しいのではないだろうか。だとしたら、こいつが、ハルヒが望んでいる世界は。
「コーヒーお待たせしました。」
朝比奈さんがメイド姿でコーヒーを運んできてくれた。まではよかったのだが、朝比奈さんのエプロンのフリルがテーブルの彫刻に引っ掛かり、躓いて、盛大に転びかけた。俺はとっさに朝比奈さんを抱き上げ、万事解決したかに思えた。しかし、慣性の法則で朝比奈さんの手元から離れたコーヒーカップは直線運動を続け、俺の頭上へ容赦なく熱いコーヒーが降り注いだのであった。
「ごめんなさい。大丈夫。じゃないですよね?」
幸い、やけどもせずに済んだ上に、俺は店の奥の従業員用の更衣室で朝比奈さんと二人きりになれたので、むしろラッキーであった。
「ごめんなさい。」
そんなに、あやまらなくてもいいですよと伝えたかったのだが、矢継ぎ早に
「さっきのわざとなんです。」
なんて言い出すものだから、俺はことばを失ってしまった。
「キョン君と二人っきりになりたかったの。」
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