第5話
ここで少し話はそれるが、ぜひ伝えておきたいことがある。朝比奈みくるのことである。彼女もまた、SOS団のメンバー、涼宮ハルヒのゆかいな仲間たちの一員である。そして俺は彼女にひそかに好意を寄せていた。これはハルヒには内緒だが、ハルヒと出会ってよかったことの一つとして、朝比奈さんに出会えたということがある。ほかにもいくつかあるのだが、まあそれは今度の機会にしよう。
さて、この状況をどうやって朝比奈さんに説明しようかと思案していると、ハルヒは不敵な笑みを浮かべ、ちょうどよかった。手伝ってよみくるちゃん。とじりじりと朝比奈さんに近づいて行った。
この幾度となく繰り返されてきたハルヒの蛮行をいち早く察知した俺は、断固阻止すべく、2人の間に割って入りながら、
「奇遇ですね、朝比奈さん。こんなところで会うなんて。朝比奈さんこそここで何をしているんですか?」
と獰猛に威嚇する野獣のように臨戦態勢に入ったハルヒと目をそらさないように見つめながら、話しかけた。
朝比奈さんも気配を察知したようで、目に涙を浮かべながら、
「ビラを配っていました。私、あそこでアルバイトを始めたんです。」
なんという偶然であろうか。同じ部活の高校生が、同じ時間同じ場所に、一堂に会することになるとは。朝比奈さんが指さしたメイド喫茶の看板を見つめながら、俺は感慨にふけっていた。これが俺の油断であった。
気づいた時にはもう手遅れで、俺の背後にいたハルヒの影が、朝比奈さんに向かって素早く覆いかぶさっていた。
「みくるちゃん、あんたなんでそんな重要なこと黙ってたの!」
「そんなつもりじゃ、」
「なーんで気づかなかったのかしら。簡単じゃない。」
なにに気づいたのか知らんが、おおかたろくなことではないので俺は戦闘態勢から離脱する決断をする。が、遅かった。
「キョン、あんたもついてきなさい。」
後ろ首をつかまれて逃亡という希望をなくした俺はため息交じりに尋ねた。
「どこへ行くつもりなんだよ。」
「決まってるでしょ、みくるちゃんのバイト先よ!」
ふふんと鼻を鳴らしながら、ハルヒは高らかに宣言した。
メイド姿の朝比奈さんを堪能できるのならば、それもまた悪くないな。
小学生レベルの切り替えの早さで俺はハルヒたちと行動を共にすることにした。
「あの、お二人は別の目的があって、ここに来たのではないのですか?」
朝比奈さんが涙目で尋ねると、俺とハルヒは同時に振り向き、こう言い放った。
「そんなことはどうでもいいの!」
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