第3話
「涼宮ハルヒは今、普通の精神状態ではない。」
ハルヒが経営書に気を取られているうちに、ひそかに図書室を抜け出し、最初に長門から聞かされた言葉だった。
「前述したとおり、彼女は普通の人間ではない。」
「普通の人間ではない彼女が普通の精神状態ではない。」
長門が平坦な声で多くを語るとき、たいがい何かろくでもないことが起きる前触れである。
「つまり、あれか、俺たちも巻き込まれる可能性があるってことか?」
嫌な予感をいち早く察知した俺は、RPGに例えるなら、回避コマンドを選択するべく、大賢者たる長門様にこう質問したのだが、返ってきた答えは、復活の呪文さえ打ち消してしまうような無慈悲なものであった。
「もう、巻き込まれている。私も、あなたも。」
なんということだ。もう巻き込まれてる。スペルスピードが間に合わなかったのか、はたまた、どこかの分岐を選び間違えたのか?どちらにせよ俺たちはいま確実にBAD ENDに向かっている。
「涼宮ハルヒの精神状態は、今まで経験してきたどのパターンとも照合しない。」
「ってことは、解決策はまるでなしなのかよ?」
「今のところ。」
「じゃあ今後、解決策が見つかる可能性は?」
「先ほども述べた通り、今回の涼宮ハルヒの精神状態は普通ではない。そのうえ今までのどのデータとも一致しない。」
「つまり?」
「解決策が見つかる可能性は低い。」
詰んだ、詰んだよ、詰みました。もう大賢者長門様が言うんじゃ、どうしようもないよ。さらばわが人生、フォーエバーマイライフ。
「ひとつだけ、いえることがある。」
「なんだ、救済措置か、それとも人生のリセットボタンとか?」
もう何でもいい、この状況を脱出できるなら緊急ボタンだろうが、魔王城の自爆スイッチだろうが押してやる。
俺が長門の答えを聞こうと歩み寄った時、後ろの図書室のドアが勢いよく空いた。
「いたいた、こんなところに!まったくちょっと目を離したすきにいなくなるんだから。」
お前にそんなことを言われる筋合いはないんだが。
「読書は終わりか、ちゃんと元の場所に本片づけたのか?」
「なんであんたにそんなこと言われなくちゃならないわけ?」
「お前なぁ、」
俺が言いかけたとき、ハルヒにネクタイを思いっきり引っ張られた。
「アンタと無駄話してる時間はないの!さあ、行くわよ。」
「ちょっと待て、俺は長門と話がある!」
「あら、有希ちゃん、いたのね。ちょっとキョン借りてくわね。」
そんな横暴が許されていいものか。俺は断固拒否するべく長門に援護射撃を求めた。
「どうぞ。」
俺はハルヒに引きずられながら、絶望の淵からたたきおとされたのであった。
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