第2話

俺は今、非常にどうでもいいことを考えていた。もし俺とハルヒが出会っていなかったら、俺はどうなっていたかということだ。答えはない。もう、俺とハルヒは出会ってしまった。そしてその事実は神様でも宇宙人でも未来人でも、決して変えることはできない。そう、俺たちは出会ってしまった。

「キョン、聞いてるの?キョン」

「ああ、聞いてるよ、お前のギアスのせいで少し記憶を失っただけだよ。」

「あ、そう。違うギアスで記憶を改ざんしてあげようか?」

ぜひそうして欲しい。俺はハルヒと出会わなければ今頃平穏な毎日を送れていただろうに。

「ハルヒ、お前のギアスが暴走しないことを俺はねがっているよ。」

「はいはい、ギアスごっこは終わり、つぎ、この本ね。」

軽く見積もっても1k以上のページ数がありそうな分厚い本をハルヒは俺に渡した。これで5冊目である。

さすがに手で持つには限界に近づいていた俺はハルヒに抗議した。

「おい、いきなり図書室まで連れてきて何の説明も受けずに、本を渡されてもまったく意図が理解できないぞ!」

「あんた、ばかぁ?表紙を見てその共通性に気づけないなんて、SOS団失格ね。」

いわれてみれば、その分厚さに圧倒されて、本のタイトルにまで意識が回っていなかった。

「経営の哲学、経営の基本、経営者の考え方、ハルヒ、お前社長にでもなるつもりか?」

「やっと気づいたわね、ただの社長じゃないわよ。」

こいつのことだから、超常現象とかオカルト研究に関する会社でも興すんじゃなかろうか?

俺はそんなことを思いながら、ハルヒの次の言葉を待った。

「・・・」

「・・・」

「どうした?ギアスで記憶の改ざんでもされたのか?」

「うるさい!馬鹿キョン、今言おうとしてたの!」

「会社を興すのは自由だけどさ、お前に振り回される社員のことを考えると俺は泣けてくるぜ。」

「ほんとにそう思う?」

「ん?ん?」

俺は何か言ってはいけないことを言ったような気がしてきた。しかし、ハルヒの様子が変だ。こいつはこれくらいの言葉で、動揺したり、くじけたりするやつじゃない。むしろ、何倍も強い口調で切り返してくるカウンタータイプの強キャラのはず。

「友達がいない子っているじゃない。」

「はい?」

「あんたみたいに友達がいない子がいるでしょ!」

狂犬ハルヒここに見参。強い口調で言われるとなおのこと傷つくようなことを平気でいってくるなこいつは。

「そういう子たちが友達を作れる学校を設立するのよ!」

やっぱり、今日のハルヒは様子が変だ。

こいつがまともな夢をまともに語るなんて正気の沙汰じゃない。

俺は自分の頬をつねっているとハルヒの背中越しに、図書室の外から長門がこちらを見ているのが見えた。

「ちょっと来て」

そんな風に目で訴えているのが一瞬で分かった。

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