涼宮ハルヒの妄想

岩之助岩太郎

第1話

俺には悩みの種があった。誰に相談するわけもなく、ただただ、日々思い悩む種が。

日常になんの不満もなく、むしろ何もないことを願う俺にとって、涼宮ハルヒという一生命体はまったくもって迷惑な存在であった。

「あんな美人とお近づきになれるなんて、うらやましい限りだぜ。」

よしてくれ、俺はあいつに振り回されているだけなんだ。

クラスの男にこう言ってもまるで信じてもらえない。

まあ、確かにハルヒは美人であった。しかし、そのアドバンテージをもってしても俺にとってはデメリットのほうが大きい。つまり、俺は再び平穏な日々が送れはしないかと、日々妄想にふけるしかなかった。

そうは言っても、ここで君たちに俺の悩みを打ち明けたところで何も始まらないので、そろそろ俺の失われた青春へと帰るとしよう。


「ちーす」

俺はSOS団の部室のドアを開きながら気のない挨拶をした。

「キョン、なにその覇気のない挨拶は。やり直し!」

とか言われるんだろうなと思って正面奥のハルヒの席に目を向けた。

いない。

また何かろくでもないことを企んでいるのではないかとため息をつきながら頭を抱えていると、窓際のほうから声がした。

「涼宮ハルヒはここにはいない。」

平坦な声で本を読みながら俺に話しかけてきているのは長門有希だ。

「見ればわかる。長門、今日は何読んでるんだ?」

俺はおとなしすぎる長門との何とも言えない空気感を変えるべく、まったく興味のない本の話題に移る。

「問1 何を読んでいるか?という質問は何の意図があるのか?」

まるで、俺の心を見透かしたこのような問いに俺は言いよどむ。

「問2 見ただけでいないと判断するのは浅はかなのでは?」

長門、今日はやけに食ってかかってくるな。

「問1と問2を統合すると、あなたは今私とのやり取りを拒んでいる。」

さすがに俺も反撃ののろしを上げよう。

「違うな、間違っているぞ長門。お前の論法には戦略がない。」

「・・・」

「そもそも俺は、涼宮ハルヒの所在など気にしていない!俺が気になっているのは、お前の読んでるその本だけだ!」

「さあ、読んでいる本を言ってみろ、長門!」

「コードギアス」

「!!ばかな!?」

「あなたのその口調、昨日放送されていたテレビアニメコードギアス反逆のルルーシュのセリフ」

長門に言われると、さながらCCと会話しているようだな。

なんかテンション上がってきたぞ!

「ちなみに、間違っているのはあなたの方。」

「ほう、戦術的勝利などいくらでも、くれてやる。何が間違っているんだ!」

「うしろ」

俺は今更ながらに、背後から嫌な予感を感じ取って振り返った時にはもう手遅れだった。

「涼宮ハルヒが命じる、キョン、私についてきなさい!」

制服のネクタイをつかまれて、ものすごいスピードで俺とハルヒは部室を後にしていった。

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