10話 小団円 勝利の凱歌

「勇者殿よくやってくれた!!!」

 最初の時の苦虫をかみつぶした顔はどこへやら。

 たった一日で敵の拠点を破壊した魔王…もとい勇者を王様や大臣は満面の笑みで迎えた。

 城では勝利の祝賀会の準備がされ、見た目は豪勢に見える食事が用意されていた。


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「冒険者が30人がかりで1月かけても攻略できなかった、あの洞窟をたった一日で落とすとは、流石勇者様!」

「あら、準備に半日、攻略は10分もあれば十分でしたわ」

 その言葉に一同、何かのジョークだと思ったのだろう。笑いながら『それはすごい』と称賛した。

 だが、勇者の仲間たちは知っている。

 何の偽りもなく、洞窟の魔物が溺死するまでに要した時間がその程度だと言う事を。あの必死な魔物たちの顔は今晩夢に見そうで、祝賀の料理もあまり喉を通らなかった。

「塔のボスはやはり強かったですか」

「そうですね…3階の窓から飛び降りて来たのですが、気が付かずに吹き飛ばしたので良く覚えていませんわ」

 5tの鉄球と正々堂々馬鹿正直に戦ったオークキングの勇姿を、吉弘嬢はあまり覚えていなかった。実際に顔を見たのは5秒程度だが、ちょっとあんまりなので、ドワーフたちは心の中で黙とうをささげる。

「それにしても一日で終わらすとは頼もしい。どのようにして倒されたのですか?」

「それはまあ、私物を使って効率よく作業を行いましたから」

 閉じ込めて溺死させたり、塔の下敷きにしたという戦術をオブラートにくるんで説明する御嬢様。世の中には知らない方が幸せな事もあるのである。


「あと、獲物が固まってくれていたのも大きいですわね。これがイノシシや鹿のように人間を恐れて逃げたり山で隠れ住まれると駆除の難易度が上がりますから」


「……そちらの世界では人間はどんな生き物なのですか…」

 害獣から逃げて住んでいる者たちからすれば魔物が人間を襲うのではなく逃げ出すという感覚は理解できなかった。



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「ところで王様」

 祝賀会の途中、吉弘嬢は王様に話しかける。

「おお、勇者殿。いかがされた?」

「今回の作戦ですが、財政的にお困りと言う事でなるべく安く、それでも効率重視で作業を進めさせていただきました」

 と、まるで薔薇でも後ろに咲いたかのような極上の笑顔で吉弘嬢は作業報告をする。

「なるほど。そちらの世界の道具を色々駆使して頂いたのか。それは大変有難い」

 王様も男である故に、美人には弱い。いや、弱かった。この時、次の言葉を聞くまでは


「で、つきましては今回の作戦の経費なのですけど」


「経費?」

そう言うと吉弘嬢は一枚の紙を手渡した。


            請求書

 サイキ国 国王様 

                  吉弘財閥 建設機械部

                  国東市吉弘114-514

                   097-666-666

  内訳

 10tトラック使用料(ガソリン代含む) 往復半日21,000円。

 バンパー修理代 150,000円

 ショベルカーリース代 7,500円

 フレコンパックリース代 単価500円×100=50,000円

 クレーン車使用代 半日80,000円。

 フェリー使用料 半日150,000円(爆雷による修理代含む)

 爆雷による害獣駆除費 250,000円

 人件費 4人工(勇者・賢者・盗賊・戦士)

 30,000×4=120,000円

 その他 技術料 190,000円

 諸経費 71,850円

 小計 1090350円


 値引き ―90350円

『買取』魔法の扉 ―300,000円

 合計 700,000円


 勇者はつつましやかな胸を張って請求書を提出した。


「な、な、な、なんだこれわー!!!!」


「格安で仕上げましたうえ、かなりお値引きしました企業努力の結晶です」

 王様の『なんだこれは』は高すぎるという意味だったのだが、お嬢様としては労災事故も起こさず、大量の害獣を退治したうえに工期を一日で短縮したのである。

 本来なら3日かけて危険な状態になりながら進める仕事をそれだけ早く進めると、職人さんの日当が減る。

 そのため、仲間3人の給与は特別ボーナスとして加算したこの気遣い。

 これは誉められてしかるべきだという『安すぎる』という称賛の意味だと解釈した。

「こんな大金払える」

「あら?料金を踏み倒すお積りですの?」

 じゃこん。と御嬢様の手にはショットガンが握られていた。


 あ、そういえばゴブリン退治に4発ほど弾を使用しましたけど、請求に漏れてましたわ。まあ、今回はサービスと言う事でおまけしておきましょう。

 ああ、私って商売には向いてないのかもしれませんわね。


 そんな事を考えているとは露知らず、王様は

『マジでとんでもない奴を呼び出してしまった』と後悔した。

 そしてその後悔は、これから何度も行うものに比べたらまだまだマシなものだったと実感するのは後のお話である。


 第一章 サイキ国編 終わり。


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次回予告。


 魔王の城を目指し北のツクミ国に向かう勇者一行。

 そこへ勇者の顔を一目見ようと、敵の幹部である四天王がせまりくる。

 本来なら物語終盤で戦う事になる強敵。

 圧倒的なレベル差になすすべもない弱者。


次回

『御嬢様 負けイベントに遭遇する』

 に御期待下さい。(TVアニメ風) 

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