ツクミ国攻略篇
御嬢様 負けイベントに遭遇する 四天王が一。火炎の魔人ギース 登場
「で、次はどちらに参りますの?」
サイキ国を救った吉弘綾香嬢は賢者に尋ねる。
「そうですね。海路が使えるならツクミ国ですね」
ツクミ国。そこは多くの山がそびえたつ内陸と、入江が多い海が混じった中継点的土地である。
現実の津久見はセメントが主な特産品で、山を越えると大きな山脈が削っていかれているのが見える。人間の力の凄さを見られる土地となっている。
海には傾斜の強い山が多く蜜柑の産地でもあり、津久見蜜柑は贈答品やソフトクリームなどの菓子に加工されているし、入江で取れるマグロはクッキーになったり、醤油・砂糖などを入れた特製のゴマだれで和え、アツアツのご飯の上にのせた津久見ひゅうが丼などがある。
あと大友宗麟の終焉の地として駅前に銅像が、図書館の付近に墓と公園があるが、それにちなんだお土産は『大友公』という最中しかないので、歴史好きとしては、もう少し頑張ってアピールしてほしいと思う。
あと、工場の町だがパチンコ屋が市で一件しか無い治安の良い町(婉曲的表現)だ。
そんな土地である。
「つまり、鉱山と漁業が中心の町という事ですか?」
脱線した解説を簡潔にまとめる御嬢様。
「ええ。娯楽は少ないですが安定した産業で食うには困らない国でしたが…」
と、そこまで話していた時
「はっはっは。お前等か。魔王様にたてつく勇者一行とやらは」
楽しげな声が響く。
見ると、今まで誰もいなかったはずの場所に一人の男、いや魔物が立っていた。
体中から炎を吐きだし、赤熱する精霊の様な存在。だが、それは敵意に溢れ悪霊とも呼べる存在だった。
「俺様は魔王様の四天王が一人。火炎の魔人ギース様だ」
そう。敵の幹部のお出ましである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
魔人。
たった一人で人間10000人分の戦力に匹敵する化け物であり、経験を積んだ勇者でしか倒せないと言われる化け物。
それが、いきなり目の前に現れたのである。
ゲームで言う負けイベント状態だった。
ただ、ゲームと違うのは、この世界に復活呪文などは無く、ここで負けたら冒険は終わるという事である。
「たった一日でオ―ニュ島を制圧した勇者が現れたと言うので身に来たのだが…」
その言葉に、賢者は悪目立ちしすぎた事を後悔した。
相手にこちらの戦力を残らず見せれば、それは早めに叩きつぶさなくてはならないという危機感を与えるだろう。
「もう少し、時間をかけて攻略すべきでしたね…」
それもこれも、守銭奴みたいな勇者様と、ケチでろくな予算を与えず、勇者様の言う『工期短縮で予算削減』をさせた王様が悪い。
もし、ここで勇者様が倒れたらサイキ国が滅びるのは自業自得と言う者である。
(※本作はフィクションです。実際の団体とは一切関係がありません)
「そんなお前等に良いことを教えてやろう」
悪意を込めた目で魔人ギースは言う。
「あの島にいたのは単なる野生の魔物。何の訓練も受けてない落ちこぼれどものあつまりだ」
「「なっ!!!」」
あの魔物たちにてこずっていたドワーフとホビットは言葉を失う。
お嬢様はたいして苦労もせず根絶やしにしてしまったが、それ以前は王国軍が滅亡寸前まで追い込まれていた相手たち。
それがただの末端兵でしかなかったと男は言っているのだ。
野球でいるなら、全力で戦って良い勝負をした相手が全員2軍で、次回戦は1軍にボコボコにされるようなものである。
魔人が望んだとおり絶望の表情を浮かべるパーティ達。しかし
「あら、そうでしたの。安心しましたわ」
笑顔を絶やさない者もいた。綾香嬢である。
「安心?」
「ええ。この世界の魔物さんたちは野卑で言葉も通じない野生動物ばかりかと思ってましたが、知能のある相手がメインだと分かったんですもの」
こいつは何を言っているのだ?
普通。戦う相手は知性が低い方が喜ばしい。
罠にかけたり、フェイントを仕掛けたりできるのは勿論。知能が低いと言う事は学習能力が低く思いもよらぬ反撃を受けると言う事である。
だが、目の前の勇者はむしろ喜んでいる。いや、欲望にまみれた顔に近い物を感じた。
『何だ?この女…』
ギースは生まれて初めて人間に恐怖した。
いや、人間と思っていたが、目の前の女が得体の知れない化け物に見えた。
そして、次の言葉でその認識は正しかったと確信する。
異世界から来た人間は平然と、こう言ったのだ。
「言葉が通じるなら、色々とお仕事を手伝ってもらえるでしょう」
戦いながらも収支関係を計算している彼女にとって、知能が有る動物とは優秀な家畜に成りうる可能性がある『ビジネスチャンス』であった。
彼女にとって魔物とは恐怖ではなく、商品に近い存在である。
最低な考え方であるが、お金もなしに戦争は継続できない。
世界を救うため、簡単に現金化できる要素が有るなら早めに事業を進めて置き、しっかりと補給が整った状態で戦いたかった。
そんな美味しい話がこの先には眠っているのだと考えると、どのような仕事を割り振ろうかと笑いとワクワクが止まらないのである。
「貴様ぁ!」
そんな事情は知らないながらも、魔人は気が付いたら怒声を発していた。
まるで命をもてあそぶ悪魔と話しているようだったからだ。そして
「いでよ!ファントムたち!」
そう言って使い魔を召喚する。
現れたのは、ベヒーモスとかミノタウロスとか、筋骨隆々。3mを超える巨体を持つ化け物たち。の形をした炎だった。
これが炎の魔人の特技。炎をまとった部下の召喚である。
相当な実力者を倒し、契約を結ぶ事で飛躍的に魔物の力をアップさせる卑怯なまでにブースト効果を与える魔法だった。
その力は見ているだけでも理解できた。
ドワーフとホビットの2人は撤退も視野に入れ、身構えたが
『あ、こりゃ死んだな』
と生存を諦めた。
それほどまでに実力差が見て取れるのだ。だが
「あらあら、少し骨が折れそうですねえ…」
と勇者は面倒そうに言った。その言葉に魔人は目をしかめ
「ほう、おもしろ…」
い…。と言うが早いか、隣にいた使い魔がミンチになった。
「は?」
「吉弘流護身術、その47;マシンガンですわ」
その手には私物のAK47マシンガンが握られていた。
「弓術とか剣道みたいに言わないでもらえます?というかそれもう明らかに護身のレベル超えているし、殺す気満々ですよね?」
あちらの世界の武器の豊富さを知る賢者は、あきらめたように言う。
「え?何かおっしゃって?聞こえませんわ?」
そう言いながらもお嬢様は水平射撃の手を休めない。
ヤルべきことは確実にヤル。
上に立つものは大胆に事を進めるが、重要な部分では手を抜かない。
「ブモオォォォオオオオ!!!!(涙」
訳もわからず倒れる仲魔たち。
それを見て強大な力を持つミノタウロスは、ドナドナされる牛のように涙をためて逃げまどい………………御肉になっていくのだった。
「ひでぇ…………」
「魔物たちに同情するぜ…………」
余りにも一方的な虐殺に、ドワーフたちは先ほどの恐怖は完全に消え、一匹でも多く助かって欲しいと願うようになっていた。
だが、御嬢様は無情にも逃げまどう使い魔たちをきっちりと効率よく始末していく。
5分後。
あっと言う間に全滅した使い魔たち。
それをみて、四天王を名乗った魔族は
「ヒュー」
と口笛を鳴らし。
「なかなかやるな。どんな弱っちい奴が来るかと思ったけど、これなら楽しめそうだ」
と、言って魔法陣を開き「また、会おうぜ」と姿を消した。
「新大陸、なかなか面白そうですわね」
硝煙とミンチ肉が飛び散る光景を見て、お嬢様は言った。
・・・・・・・・・・・・・・
そのころ、魔王城の片隅では
「なんだあれ、なんだあれ、なんだあれ、なんだあれ、なんだあれ、なんだあれ」
先ほどの四天王が頭を両手で抱えながら、部屋の隅でふるえていた。
体育座りで、歯をガチガチ鳴らしながら、絶対の自信を持っていた部下たちが為すすべもなく倒されていった光景を思い出す。
「あきらかにおかしいだろ。詠唱なし、それも魔力の発動すら感じさせないのに、一瞬で魔力強化されたファントムたちを皆殺しとか…」
彼にとって、あれはお手並み拝見ではなく、手塩にかけて育てた最高戦力だった。
それが、害虫でもつぶすかのように息一つきらせず全滅したのだ。
化け物である。
あのままあの場所にいたら『ついで』で殺されていただろう。
それくらい戦力差が有るのが理解できた。
明らかな負けイベントである。
このまま四天王を続けていたら、いつかあれと戦わなければならない。それだけは避けたかった。
「よし」
決意した声でギースは立ち上がり
「魔王軍やめよう」
そう、的確に判断を下したのであった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
初期に強い敵が登場して全滅しかける。
FFで良くあった手法ですが、こうした自分は強くて絶対に負けるはずがない。というキャラが蹂躙される展開って個人的には好きです。
1話目で強くてニューゲームして准ボス倒したら
「ズルはいかんな」
と、話を止めるラング●リッサー3君はアナザーストーリーかエンディングを作って欲しかったです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます