閑話 クリスタルマウンテンの戦い

「この世界の海旅は中々大変ですわね」

 すずしい声で吉弘嬢はいう。その後ろには爆雷で内臓が破裂したらしき水棲モンスターがぷかりぷかりと浮いている。

 

 勇者パーティーは勇者の私物であるフェリーに乗って、ヨウラ半島を迂回した15kmのクルージングを楽しんでいた。

 実際の津久見四浦半島は春には河津桜が咲き、夏場は津久見イルカ島が開かれる観光地なのだが、こちらではただの魔物の跋扈する土地なのでストレイツォでなくても爆殺に容赦はない。

 300体ほど魔物が海に浮きあがった所で

「あ!ツクミの城が見えてきました!」

 と、賢者が双眼鏡から指さして叫ぶ。


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 ツクミには二つの山がある。

 単なるツクミ山とクリスタルマウンテンと呼ばれる山だ。


 その内の一つ、海へはりだした崖の上に立つクリスタルマウンテンの上には魔物の生息する城があった。


「あ、俺もうオチがわかっちゃった」

 ドワーフのベッキーが達観したように言う。

「そうね。あたしもよ」

 ホビットのキスミが、可哀そうだけどあと数時間以内に死ぬ予定の動物を見るような目で城を見た。

「死者に捧げる祈りの準備でもしますか」

 賢者のソーカが最期に締める。


 勇者を除く3人は完全に観客モードでこれから虐殺される予定の魔物に黙とうをささげるのだった。


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 クリスタルマウンテンの主将はジャイアントギボーン

 別名手長猿だけで編成された軍団だった。


 その理由は4mはある体長に3mの腕と言う巨大な体躯で大きな岩を長い手で遠くまで投げられるのと、三つ目で非常に視力が良い点だ。

 この長い手から放たれる石は城に近寄る船、人、全てを容赦なく打ち抜いた。

 その威力は下手な斧や槌など比べ者にならない。

 標高150mの崖から1km先に500gの石が飛んでも、船に穴があくし、500m圏内なら10kgの岩が集団で飛んでくる。

 しかもはげ山の下には隠れる場所がなく、100匹の手長猿が一斉に投げる岩岩は球というより壁となる。

 時速200km、3m四方の回避不可能の壁が冒険者たちをおそうのである。

 この城はたどり着く前に決着がつく場所であった。


 故に歴代の勇者も大してうま味がないのに危険だけはたくさんあるこの地は迂回して、そのまま北のウスキの町に行く者ばかりだった。


 が、


「キー(久しぶりにニンゲンの船が来たぞ)」

「キキー(小さな船だな。ちょっとからかってやるか)」

 そういうと、手頃な小石を持って

「「「「キー!!!!」」」」

 10匹のキラーエイプは勇者の船めがけて投石を行った。




 そして、次の瞬間、


 自分たちの下でものすごい爆音が鳴り響き、気がついたら天井に頭を叩きつけられていた。


「キー?(なんだこれは?)」

「キー?キー!(なにかがおかしいぞ!)」


 魔物たちは聞いたこともない爆発音を聞いたあと、自分たちが空に浮いている事に気がついた。

 それは夢でも見ているかのようで、いくら降りようとしても地面に足が着かないのである。


 そして、


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「すげー。山が一気に崩れたぜ」

 視力に優れたホビットのキスミがいう。

「あー。やはりあの部分の亀裂に強い衝撃を与えたら崩れたのう」

 と、視力がそれほど良くないドワーフのベッキーが言う。

「あんな危険な場所に城なんて建てるから…」

 と、テレビで見た違法建築が壊れる様を思い出して賢者は言う。

 

 その後ろでは、10個ほど私物の迫撃砲に点火した御嬢様が

「石英を多めに含んだ山なら、衝撃に弱かったみたいですね」

 と、理科の実験が終わったように双眼鏡で砲弾が当たって亀裂が入り、崩落>城が転落。という流れを観測しながら言った。


 張り出した岬の根本に白撃砲の集中砲火がお見舞いされ、不安定な岬は重たい城ごと折れて落ちていった。


「崖の近くって見晴らしは良いですけど、土砂崩れや崩落があるから恐ろしいのに…あのお城を建てた方はそんな事もご存じなかったのかしら?」

 不思議そうな顔で城に生息していた100体の魔物を墜落しさせたシリアルキラーは首を傾げた。

「ま、こんな遠くから爆撃魔法使える人間なんてそうそういないし…」

「本来なら海を移動する船を高所から一方的に攻撃できる最高の立地だったんだよなぁ」

「まぁ。そうだったんですの?でもたった2km先から攻撃されて迎撃も出来ないなんて想定すらしてませんでしたわ」

「いや、普通そんなに遠くから攻撃できないから、ここらを通る船は手も足も出ずに攻撃されるだけやったんやけど…」

 巨大な投石機でも、100m位が関の山である。

 爆薬で物質を遠くに飛ばすなんて発想はまだこの世界には無かったのである。


「でしたら、一方的に攻撃されたのも因果応報ってやつですわね」

 と、今まで一方的にボコられたであろう人間に御嬢様は黙とうをささげた。

「………その言い分だと、あんた何度も死ぬことになるんやけど…」

 それ以上にトラックで轢いたり、川水で溺死させたり、塔の崩落で圧死させたり爆雷で殺した数はゆうに600は超えるだろう。

 これはたった2日の戦歴である。

 凶悪殺人犯でも真っ青の記録である。

「あら」

 だが、そんな事は意に介さない様に

「命は一つしかございませんことよ」

 いつ死んでも覚悟はできてる。

 そんな剛胆な表情でお嬢様は言いながら、あぶくを立てながら沈んでいく元石城を眺めるのだった。



 いくら、攻撃に楽だからといって岩盤がもろい高所を拠点にしてはいけない。


 というお話。


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 津久見は真砂土がおおく、土砂崩れや崩落を起こした場所があるので、今回はセメント採掘で消滅した水晶山をモデルにしました。

 どこでもそうですが大雨の時は川や崖の近くには近寄らない様にしましょう。


 特にドラキュラさんとか、魔王さんとか高貴で耽美系な方々は建築家が「あきらかにヤベェ」という土地に城を立てるのが好きなようですが、岩盤をちょっと揺らしたら、たぶん落ちますよ。それ。と言いたくなる元現場監督です。

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