6話 御嬢様式 洞窟攻略法、92bc番
「なんだ……………こりゃあ……………」
パーティーメンバーの女性たちは言葉を失っていた。
そこには見た事もない、ドラゴンの様な大型の機械。
黄色い色がまぶしい高さ10mの大型機械。
『ショベルカー』がいつのまにか鎮座ましましておられたからだ。
なお工事現場では「バックホー」「ユンボ」「パワーショベル」と呼び方が別れるが、バックホーは行政用語。ユンボはフランスの建機メーカー「SICAM」の商品名。パワーショベルは小松製作所が商品名として使用していたものだったりする。
これらの混乱を避けるため、ショベルカー、または油圧ショベルという名称が使われる事が望ましいが、大分市だと「ユンボ」呼びが主流であった。
「さて、それでは洞窟攻略を開始しますか」
洞窟の横を流れるバンショー川のせせらぎをかき消すように響く駆動音。
ガガガガガガ!!!!!ギギギギッギギギギギ!!!!
堅い岩盤も、柔らかい土も、圧倒的な機械の力で根こそぎ削り取られる洞窟前の地面たち。
ファンタジーゲーム後半の勇者の攻撃なら地面は割れるかもしれないが、綺麗に計画的に地面を掘り進むならショベルカーが一番だと思う。
「ダイヤモンドカッター(アスファルト切断用の大型電気のこぎり)で予め切断していた方がさらに綺麗に地面が掘れるのですが、今回はそこまでの制度は不要で御座いますからね」
と、言いながら2mの深さの堀を作り、最後の仕上げとばかりに、バケット(先端の土を掘る部分)幅1168mm(約1m)。バケット容量0.8m³[JIS]機械質量21600kgの鉄の化け物はカルシウムで主に構成された地面を削り取った。
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その頃、洞窟の主である魔物、いわゆる初ボスは
「ふふふ、何とも世間知らずのお嬢様みたいだからな。洞窟に入ったら、前と後ろから同時に攻めて捕らえてやろう」
と、部下たちの報告を聞いて計画を立てていた。
この洞窟は一直線でなく、幾つか枝分かれしている。
ただでさえ人間は暗闇で目が見えない。
そこを挟み撃ちにされれば新米勇者などひとたまりもないだろう。
そう、魔王の手下は思った。
そして、平和ボケしている普通の日本人なら、それだけで苦戦を強いられたのは間違いない。
そう、計画は間違っていなかったのだ。
ただ相手が絶望的な程、悪かっただけである。
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「あらあら、やっぱりこの洞窟って埃だらけなのですわね」
「そりゃ…まあ、洞窟ですからねぇ…」
賢者はあきれながら言った。
『さあ、はやく入れ。そうすればおまえの言う、埃だらけで汚い洞窟の地面にその顔をこすりつけて、どの綺麗な顔を泥だらけにしてやる』
嗜虐的な笑みを浮かべる魔物。
だが、世間知らずの御嬢様の発想を完全に読みきったと思ったのが間違いであった。
「では、最後の仕上げと参りましょう」
そう言うと綾香嬢は洞窟に背を向け、川に向かって
「スキル。私物取り寄せ」
と透き通る美しい声で宣言した。
その言葉によって次々、川の中にフレコンパック。
超大型の土嚢袋、別名トン(t)袋が現れる。
「なっなんじゃこりゃあ!!!」
災害地などで、溢れる水をせきとめたり、土砂崩れを起こした場所を支える容量1tの大型袋が100個ほどバンショーの川に高さ5m程の壁を作り、川の水をせき止めた。
せき止めた。と言っても後から後から川の水は流れ込んでくるのだ。
その水はどこに行けばよいのだろうか?
それは壁よりも低い場所。
そう、御嬢様がショベルカーで掘った穴。そこしか水の逃げ場はない。
そして、それに海底に向かって下に伸びる洞窟に流れ込んでいく。
かくして哀れな魔物の洞窟は、勇者が一歩も足を踏み入れることなく、その住処を地獄に変貌させられたのである。
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「%&#’’&)”))#’&#’)&ッッッッッッッッッ!!!!!!!!」
声にならない声が聞こえた気がする。
だが、その声も急に流れを変えられた川の濁流に比べたら静かなものである。
「洞窟って塹壕戦みたいなものでしょう?」
流れる水を見ながら、休み時間に級友とおしゃべりするかのような口調で綾香御嬢様は異世界のお友達に解説をする。
塹壕とは高さ1。5m程度の穴を掘って銃弾や砲撃から身を守る、第一次世界大戦から発展した防御陣地である。
「飛び散る臓物、酸欠を起こすほどの硝煙と砲弾の塵、昼夜問わずの攻勢。それ以上に辛いものがあったとセバスはいっている事がございましたの」
「なあ、おまえの執事って何者なの?」
「それは大雨ですわ」
「聞けよ、人の話」
「どれだけ強固な防御陣でも、穴である以上水が入れば貯まるものですわ。当然排水の機能は用意しているでしょうけど、それを越える量が入ったらどうなるかしらね?」
答えは単純。溺れ死ぬ。である。
それでも、マーマンなどの水中でも活動できる生物はまだ生存していた。
彼らは一斉に洞窟の入り口から外に出ようとした。勇者を迎えるべく、だがしかし、
「熱っ!!!」
人間は卑劣にも熱湯を流し込んで来たのだ。
それでも入り口にたどり着くと
「……………入り口が塞がれてる?」
そこには鉄格子で封をされた、元入り口が存在するだけだった。
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