7話 回想 最強の武器を手に入れた時を思い出す

「くっそ!開け開け!!」

「なんで鉄格子如き破壊出来ないんだ!!!」

 必死の形相で鉄格子を破壊しようとする魔物たち。

 だが鉄格子はびくともしない。


 人間より遙かに筋力のある魔物ならこれくらいの鉄棒なら破壊できないわけがないのだが…


 その光景を見ながら賢者は城での出来事を思い出していた。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「これも、ダメ。こちらもダメですわ」

 壷や飾られた鎧などを見ながらお嬢様はダメ出しをする。


 魔王との交渉が終わった後、3人の仲間との紹介をすませると、吉弘嬢は王様に『こちらの国にろくな財産がないのはわかりましたので、使えそうなものがないかだけ調べさせてくださいな』的な事を5枚くらいオブラートに包んで提案した。


 そして、某勇者もびっくりな目利きで探索を始めたのである。

 壺やタンス。本棚は勿論、天井の装飾品なども全て調べる。

 そのしつこさや、借金取りでも根を挙げるほどの集中力だった。


「こうした世界だと毛織物とか装飾品に光るものがあるかと思ったのですが、あまり良いものがございませんね」

 と、残念そうに言う。

 盗賊風に言えば『ちっ!時化てんな』であるのだが、見た目がきれいで所作がきれいだと、こちらの方が申し訳ない気分になるのだから美人は得である。


 そんな時、お嬢様は一つの部屋を見つけた。

 鉄格子に、4つの宝箱。


 あきらかに『中盤で特別な鍵を手に入れたら入れる宝物庫』である。


 余談だがRPGで偶然立ち寄った城でこのような部屋があるなら理解できるが、勇者を呼びだして世界を救ってくれと頼まれた最初の城にこんな場所があると

『お前は本当に世界を救って欲しいと思っているのか?』と疑問に思う。


 そんな部屋が吉弘嬢の前にある。

「まあ、あまり大した品物はなさそうですけど…」

 というとお嬢様は、鍵開け道具を取り出して令嬢としての嗜み、ピッキングを試みてみた。だが

「あら?」

 この扉は、鍵穴があるだけでシリンダーなどの鍵としての仕組みが存在しなかった。

「これは…」

 道の扉に興味を引かれる綾香嬢。そこへ

「これは魔法の鉄柵」

 後ろで急に王がしゃべり出す。

「かつて大魔道師がしかるべき相手に武具を渡すため、封印魔法を施した扉じゃ」

 と、この部屋の由来を語る。

「なるほど。でしたら、その宝物で勘弁してさしあげますわ。鍵をお貸し頂けるかしら?」

 カツアゲ同然のせりふを吐くお嬢様。しかし

「それが、ワシにも開けられんのじゃ」

「は?」

「この扉は、しかるべき相手と認めた者にしか開けられないので鍵が無いんじゃよ」

 聞くと、100年以上この部屋に入れたものがおらず、本当に開くのかすら疑問な扉らしい。セキュリティを強化しすぎて誰も入れない部屋なのである。


「なるほど。そうなのですのね」


 そういいながら、お嬢様はピッキングを諦め、高速回転で鉄を削り切る『サンダー』なる工具を取り出した。

「なにが、『なるほど。そうなのですのね』なのか?」

 そう思いながら賢者はお嬢様が鉄格子を物理的にぶち壊しあそばされるのを見ていたが

「これもダメなようですね」

 残念そうに、砥石だけが擦り切れ、傷一つない鉄格子を見る。

物理攻撃も効かないらしい。


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 そこから、賢者でも見たことがない様々な工具で扉の破壊を試みたが、扉には傷一つつかない。古代の魔術師おそるべしである。

「ここまでしても傷一つつかないなんて、古代の魔導師様はすごいのですね」

「いや、何事もなかったように柵の隣の壁を破壊して宝箱を開けたあげく『時化てますわね』という貴女ほどではないと思いますが…」

 扉は開けられないが、隣の石壁は『はんま』なる道具で簡単に破壊出来ていた。


 宝箱の中身はチェーンソーよりも切れ味が悪く、防弾チョッキや防刄ベストよりも重くて使いにくそうな金属鎧があったので丁重に無視したが、この扉だけは最後まで執着していたのである。

 本来なら、用済みとなった部屋。そこに2時間は居座って考える吉弘嬢。

 すると

「ところで王様」

「なんじゃ?」

 何気なく、会話を進める綾香嬢。

「この城は王様の所持品。ということはこの扉も王様の所持品と言うことでよろしいのかしら?」

「でしたら、この扉を世界救済の前受け金代わりの一部にします。この扉をいただけるかしら?」

 思いもかけない言葉に王様含めて衛兵たちもあっけにとられ、笑いだした。

「はっはっは。それはかまわんが、開けることもできぬ扉をどうやって所有しようと言うのかね?まあ、壁がなくなって単なる張りぼてとなった扉にどれだけの価値が有るのかはわからぬが……」


 そう嫌味まじりの言葉を言うと、お嬢様の目がギラリと光り。


「スキル;私物取り寄せ」

 そう言うと今まで目の前を塞いでいた鉄格子は姿を消し、彼女の目の前に姿を顕した。


 これが後に『最悪の拷問具』『この世界でもっとも魔物の虐殺に使用された扉』と呼ばれる事になるチートアイテム。魔法の鉄格子の誕生だった。


 その後ろで支えを失った天井がメキメキと異音を挙げ「ワシの城が!」という悲鳴が聞こえた気もするが、未知のテクノロジーに比べたら対した事が無いので放置し、扉の耐久性などを調べていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 必死で鉄格子を破壊しようとする魔物たち。

 だが、魔法の鉄格子はびくともしない。

 やがて水流は魔物たちの頭にまで迫って来た。

「害虫退治で大事なのは逃げ道をふさぐ事ですからね」

「ふざけるなぁああ!!!俺たちは害虫じゃない!!!」


「似たようなものではございませんでしたの?」


「本気で不思議そうな顔をするな!この人間!!!」

 抗議の声を挙げる魔物たち。

 戦って負けるなら納得もできるが、溺死と熱湯で煮殺されたのでは死んでも死にきれない。

 そんな彼らを見て吉弘嬢は「ああ」と納得したように手を叩き

「あなたの場合、害獣、もしくは害魚ですわね」

 と、軽い言い間違いをたしなめられたように言った。

 嫌味でも、悪意でもなく、日常会話のような自然さで。


 パンがなければケーキを食べれば良いじゃない。


 そんな傲慢な言葉が似合いそうなほど、その姿は可憐で、無知で、無邪気さに溢れていた。


『………私。もしかして、とんでもない存在を呼んでしまったのでしょうか?』

 賢者は思った。

「「今更かよ。もっとはやく気づけよ」」

 と、ホビットは呆れたように先ほどから響き続けるレベルアップの声を聞きながら、言った。

 

 こうして、洞窟の魔物は全滅したのである。


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 ゲームバランス的に、最初から強い武器を渡すのは面白くないというのは分かるのですが、世界を救おうと頑張ってる側からすれば早く渡せよ。と思ってました。


 なお、お気づきとは思いますが、本作での『レベルがあがった』というのは、可哀想な魔物が一体始末されたという意味です。


 ステータスとかパラメーターとかは考えるのが面倒なので、気が向いた時にしかでません。というか最後まで出ないかもしれません。

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