第8話 塔の攻略に移りましょう(レベルアップ音を響かせながら)
かくして洞窟を水没させ、出口に破壊不可能な鉄格子をはめるという悪魔超人も真っ青な方法で洞窟を攻略した御嬢様一向。
川のせき止めも止め、水が引いていくのを見て
「…………魔物たちの幽霊が出そうだけど、取り敢えず進むか…」
「「………………そうね」」
ドワーフの声に賢者とホビットが答える。
これから死体だらけのダンジョンに入るので気分は最悪だ。
それでも、自分達は冒険者である。汚れや幽霊など気にしていられるか。そう決心した。だが、
「床が泥水だらけで歩けませんわ」
ここに空気を全く読まない人間がいた。
この地獄跡を作りだした異世界勇者様である。
いくら水が引いたとはいえ、太陽の差さない洞窟には所々水たまりが出来ており、靴や服が汚れるのは必至。
そんな場所を彼女が歩くとは思えない。
「「「…………………………」」」
「せっかくですけど、別の方法を考えましょう」
だが、それを住魔物たちを全滅させた当事者が言うか?と3人は思った。
こうして、200匹ほどの魔物を虐殺だけして引き返したという異世界の勇者の話は様々な尾ヒレがついて民衆に語り継がれるようになった。
だが、これは令嬢による●●伝説の、ほんの序章に過ぎなかったのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「と、言うわけで海路から塔に着きましたわ」
と小型船(私物)から優雅に降りるお嬢様。
オーニュ島はサイキ国から1.5km程度しか離れていない小島だった。
山の上には小さな塔が有り、そこが魔物の拠点となっているが、それ以前は漁業が盛んでマグロみたいな魚やアジみたいな魚がたくさん取れていたらしい。
なお、その後ろには爆雷を投下され腹を上にして浮いている、あまたの凶悪な水棲魔物(平均レベル30~50)の姿があったが、『海の王』を自称していた体長20mのクラーケン(ボスキャラ)が巻き添えで退治されたこと以外、特に特筆することもないので割愛する。
(※これは異世界の話です。ダイナマイト漁は生態系を破壊するため、世界の多くの国家では禁止されています。御家庭に爆雷やダイナマイトが有っても絶対真似しないでください)
「最初は橋でも建造して取り寄せようかと思いましたが、こちらの方が安くあがりましたわね」
と、計算機を弾きながら御嬢様は言う。後で必要経費を請求するのだそうな。
賢者は色々突っ込みたい気持ちはあったが、取り敢えず島の状況を説明した。
「オーニュ島は周囲約17km、面積5.66km2のひょうたん形の島で、標高193.5mのトーミ山があります」
かつては国民の一部が住んでいたが、今では島の南部を占拠され北部への移住を余儀なくされていると言う。
「魔物がいる所に良く住めますね……」
と、驚く綾香嬢。
「なんでも『海の一族なめんじゃねぇ!』て言いながら一進一退の攻防を繰り広げているらしいですよ」
どうやら、海の魔物に比べたら陸の魔物は弱い(平均レベル5~10)らしい。
レベル差が有りすぎるが、RPGでは海に出た途端敵が強くなるのはお約束なのでそこまで驚かなかった。
「じゃ、まずはそいつらと合流して「さて、それではさっそく宣戦布告でもしましょうか」だよなぁ…」
町で情報収集してから倒すなどという、当たり前の手順を勇者は踏まない。
最短で、最速で、倒せる相手は即倒す。
リアルタイムアタックでもやっているかのような速度でタスクをこなすのが彼女のやり方だった。
吉弘嬢はすらりとした足で台地を踏みしめると拡声器を使って
「魔物の皆さまたち!!!」
凛とした声が響く。
「貴方がたは、不当にこの島を占拠しています!これから一時間以内に島から退去しなければ、不法侵入者として退治をさせていただきますわ!!!」
強い口調で言う。そしてダメ押しとばかりに
「これは宣戦布告ですわ!!!」
と宣言した。
「あー。
ホビットは、こいつが人類側に牙を剥かなくて良かったと心の底から思った。
ドワーフは魔物たちに同情した。
賢者は今日の晩御飯はスープが良いなと現実逃避を試みていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『なんだあれは。単なる子娘たちの集団ではないか』
塔の主である。オークキングは呆れたように言った。
異世界の勇者が来たと聞き、厳戒態勢で臨んでいたのだが拍子抜けした形だ。
世のおっさんは、相手を見た目だけで判断する人間が多いが、この塔の主も似たようなメンタリティだったようだ。
細い腕に戦いとは不似合いな服。武器らしき武器も持たずに戦わずに退去しろと言う。
なんとも軟弱な事だ。と鼻で笑う。
「あんな恰好で何故ここまで辿りつけたんですかね?」と疑問に思った部下の質問にも
「知るか」
で、終わり。
「まあ、肉は旨そうだし、あんなのでも勇者らしい。倒せば昇進まちがいないだろう」
そう言って2mはある大型斧を取り出す。
多くの人間の首をはねてきたそれは、血脂でどす黒く染まっていた。
そして
「かよわきニンゲンよ!!!戦力差を考えて物を言え!!!いま命乞いをするなら毎日少しずつそのやわらかい肉を食いながら勝手やるよ!!!」
と塔の上から大声で叫ぶ。
その言葉に、部下の魔物たちも嘲笑交じりにニンゲンの『勇者』を見下ろす。
「交渉決裂ですわね」
などと負け犬の遠吠えが気もするが、これからすぐに黙らせるのだから聞くだけ無駄である。
「さて、それじゃちょっとニンゲン4匹を退治でもしに行くか」
塔で待ち構える必要もない。
直接この斧で殺してやろう。
豪快に笑いながら、オークキングは階段を下りて行った。
だが、残念な事にその機会は2度と訪れなかった。
そう、いつもの重機紹介の時間である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます