5話 洞窟を攻略しますわ

 凶悪なトラックで、魔物の一団を倒した勇者一行。

「このゴブリンの死体は耳を切っとくとギルドで報奨金が出るんやで」

 とホビットのキスミが手慣れた手つきで耳を取っていく。

 戦闘には向かないが細かい作業やこの世界の相場に詳しく、生活資金のやりくりには必要な人材のようだった。

 その後ろで

「あ、お父様?珍しい生物のサンプルが手に入ったのですけど、……商業利用……未知のウイルス……ええ、あのプランに……細胞が……筋肉を……」

 と薄い板に向かって話しかけている女がいたが、賢者はあえて見なかった事にした。


 ・・・・・・・・・・


「ところで、手始めにどこから攻めるんだい?」

 と目の前の敵を倒す意外興味がないドワーフのベッキーが言う。

「王様の依頼としてはサイキ城から海を隔てた東にあるオーニュ島を占拠している魔物たちを制圧して欲しいとの事ですが…」

「だったら、舟で渡るのですか?」

 と、綾香は尋ねる。すると

「いえ。海は巨大でもの凄く強い魔物がうろついているので今の戦力で渡るのは無理です」

 と『船が無いから海に出られない』という「お前本当に世界を救ってもらう気あるのか?」な理由ではなく、まともな説明が返って来た。

「ですので、西にある『オナガラの洞窟』を通って地下から島に渡るのがよいでしょう」

 この時、賢者は当たり前の説明を当たり前にしていた。

『手始めに敵の拠点を倒したいので、どこがよいか?』

 そう聞かれたらまあ普通RPGゲームの案内役のように弱い敵の集まっている場所を紹介する。それは当然だ。

 だが、当然でなかったのは登場人物の常識である。


 ……………………………………………………………………………


 オナガラの洞窟はバンショー川を遡ると北にある洞窟である。

 現実の大分にも小半おながら鍾乳洞という洞窟があるが、地震で入城停止になって7年以上経過し、未だに入れない。

 なので、実際の地名とは一切関係のない洞窟として書けるというものである。

 なお佐伯から小半鍾乳洞の手前には日本で一番大きな水車が動いている蕎麦屋があり、夏は涼しく中々の絶景である。そこ以外に店はないので旅行の際には昼食の腹ごしらえ拠点としておすすめだったりする。

(※本作はフィクションです)


「ここが、魔王の部下が住む洞窟です」

「まあ、とても埃っぽくて手入れもされてなさそうですわね?こんな所に毎日出勤されている魔族の方々のお賃金っておいくらなのかしら」

「洞窟は職場じゃねぇよ!彼らはここを根城にしてるんだよ!!!」

 ピントのずれたお嬢様の言葉に賢者が思わず口汚いツッコミを入れる。

「え?こんな所で暮らしているのですか!?魔王様はAMA●ONの社長さんの信望者なのかしら?」

「別に魔物は低賃金で働かされているわけでも、そのせいで家賃が払えないわけでもないんですよ!あと、こんな泡沫作品そこまで読まれないだろうからって、世界的企業に喧嘩売るのは止めてください!作品どころか書き手にまで貫通攻撃が入るかもしれないでしょうが!あと、こういう時に伏せ字にするならふつうOオーの字を伏せるだろうが!!!それに、この世界に●●●Z●●はねえよ!!!」

 一気呵成につっこみを入れ終えて、賢者は酸欠を起こしかけた。

「あらあら。じゃあ、争いを解決する良い方法を思いつきましたわ」

 天使のような笑顔で話すお嬢様勇者に、賢者はいやな予感しかしなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「えーと、洞窟に着いたが、どうやって攻略する?」

 無骨な大斧から、手回しの良い手斧、それに矢止め用の楯に取り換えながらドワーフのベッキーが尋ねる。

「こういうときゲームだと、手榴弾を放り投げて、でてきた敵をヘッドショットで倒すのがセオリーですね」

 現代日本で2年ニートをやっていた賢者はネトゲ知識を披露した。

「おい。ちゃんと戦ってやれよ」

 ベッキーが抗議するが

「洞窟は敵の城であり、待ち伏せ場所ですよ?準備万端で待ちかまえている敵に何の準備もせずに行く方が間違ってます」

 と言い返す。

 二人の言い争いにあきれたホビットは

「なあ、勇者様。アンタはどうするんだ……い…………?」

 綾香に尋ねる。


「そうですね………賢者さんの手段だと、いちいち発砲するのが手間ですし、入り口に鋼線を張り巡らせた方が良いと思いますが…」

 飛び出た敵は勝手に体を切断され倒れていくだろうし、切れなくても動きが止まった敵は七面鳥を撃つよりも簡単な仕事だという。

「…さすが、えげつねえし敵が浮かばれねえ方法を考えるなぁ」

 と、想像以上の外道技を提案する吉弘お嬢様。だが


「でも…それだと、いちいち手榴弾を投げ込んだり、死ななかった魔物さんを撃つのが手間ですわよね」


 虫も殺せないような可愛い笑顔で、ベテラン冒険者も真っ青な発言をする。


「それに小さいのは鋼線をすり抜けて取り逃す可能性もありますし、奥の敵は殺g…倒せませんわね…」


 悪魔はもっと効率よく自分の手を汚さない手段をご所望だった。


「ですから、もっと合理的に、『楽に』、そして倒しましょう」


 そう言うと、お嬢様は洞窟の脇に近寄り


「スキル【私物取寄せ!!】」


 と言って、洞窟の入り口にとある『私物』を呼び出した。



 これが、この世界で2回目の殺戮ショーの始まりだった。


■■■■■■■■■■■■■■■

本作はフィクションです。

現実世界に人間を低賃金でフルタイム働かせておきながら生活保護申請しないと生活できない先進国なんて存在しません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る