ゲーム9:ナイスデート対決⑤
やっとのことで二本目が終わり、するとすぐに一本目の二回目だ。今が四時ほどか。
――もう勘弁してくれよぉ。
映画館ではスマホを触らないで下さいとか喋らないでくださいとかそういう注意動画がパラパラと流れていく。
一樹の身体はもうガチガチに固まっていた。
樹莉が全く手を付けなかったポップコーンとコーラは全部僕が食べ、腹の中はもうタプンタプンと揺れている。ここからあと二回も見なければいけないとは……。
「いやぁもう犯人知っちゃってるのがもったいない気がしてならないけど、ここから伏線とかしっかり追ってかないといけないし、より細かいところまで目が届くわけだからもう最高だと思わない?」
「まあ……加賀野刑事のカッコよさをより見れるし……でしょ?」
「いやぁご名答! 本当にもう加賀野刑事最高よマジで。いやぁあのさ、まず登場シーンが違うのよ、本当に」
「これ以上はネタバレっしょ」
スマホの通知が鳴る。周りが暗くなってきたから、一樹は電源を消した。
「あ、そうだそうだ。あ、もう始まる始まる! ポップコーン食べといていいよ」
「いや、もう無理っす……」
「あ、すみません」
「おいお前なんだ、この若造が何を」
「すみません、本当に!」
白髪のごま塩頭のおじいさんを何とか振り切り、弘人は朱を追いかける。
彼女はすでに三つ先の展示品まで到達していた。
――僕はせっかく来て絵すら見せてもらえないのか!
「ちょっと、遅いってば」
やっとのことで追いつけばこの苦情と呆れ顔が飛んできた。
「いや、ちょ、そっちが早いって……」
「いやいやそっちが遅すぎんのよ。まずは展示品がどんなものなのか一通り見ないといけないじゃない。そのあとにじっくりと説明とか最初から読んで、で、最後にその餌の細かいタッチとかそういうものをしっかりと見る。言ってること分かる?」
「は、はぁ……」
本当は思いっきり首を横に振るところなのだが、この人の言うことを肯定しなければこれから先が南極に行くかのような冷たい旅になることは間違いないのだ。
「はいはい、じゃあさっさと着いてきて。もうね、早く来てくれないと困るのよ。私一人で帰るわけにもいかないでしょうに」
――これはそれなりに僕のことを思いやってくれてるということなのだろうか?
「私一人で帰ったらあんた一人で帰れないでしょ。ねぇ」
――嬉しいような、悲しいような……。
プーップーと震えるスマホは、彼女のスピードに追い付くのが精いっぱいで取り出しようが無かった。
「いやぁもう最高? これ。こんなレプリカなんてもらえるとかもう大丈夫? ヤバくない?」
「お、おう……」
両胸に収まっている仏像さんをしげしげと見つめながら、勝太は相槌を打った。
「いや、仏像レプリカでもらうとか初めてなんですけど、これ何の企画なんですか?」
車夫のおじさんはハッハッハと笑いながら、自身も目をきらめかせて答えた。
「これは秋の期間中に人力車に乗ってもらったらプレゼントするって言うものさ。この時期は街を挙げて集客に取り組んでるからよ」
「だって、やったじゃん勝太君、めっちゃ最高じゃん」
「お、おう……」
内心、俺はレプリカでも初めて手にした仏像に内心興味を覚えていた。
「ラッキーだったな」
車夫のおじさんは他のお客さんの対応を始めた。
「じゃあ、分かりました。行きましょう」
高齢の女性二人を手助けしながら車に乗せると、彼は黒い帽子を被り直した。
そして、コチラを向いてニカっと笑い、ウインクをしたと思うと走り出した。
「じゃ、次さ、どこ行く?」
「そうだな……和菓子屋さんとか行きたいんじゃなかったっけ?」
「あ、そうそう! 私ね、笑門らいふくっていう店に行きたくて……」
ピコン
「へぇ、そこは何が売ってるんだ?」
「和菓子」
ピコン
「いや、それは分かってるけど、何を売りにしてるのかってこと」
ピコンピコン
「あー、それはね、えーっと、あ、そうそう、羊羹だ」
「高くね?」
ピコン
「大丈夫だって。お手ごろだから」
ピコンピコン
「ホントかよ。まあ、お好きに食べてくださいな」
「いいの?」
「まあ、そりゃもちろん……」
ピコンピコンピコン
「というか、そろそろ帰らないといけねぇよな。もう五時とかだし」
ピコンピコン
「あー確かに。でももうちょっとだけ!」
ピコンピコンピコンピコン
――なんだ、いい加減うるさくないか?
勝太はあずきに聞こえないように舌を打ち、唇を噛みながらスマホを開けた。
通知の正体はやはりLINEで、こうしている間にもどんどんと通知は増えてゆく。
「何だよ……」
「どうしたの?」
「あ、いや別に、ぬわぁんでもねぇぜぇい?」
有名芸人のモノマネをしてあずきを笑わせている間に素早くLINEを見る。
誰が早織を自分のものにできるか競うグループ
参加者 勝太・弘人・いおりん♪・かず
伊織『ちょっと、明日の放課後空いてる?』
伊織『来て』
伊織『あれ、健吾君抜けてるんですけど! どゆこと?』
伊織『えぇ?』
一樹『あの、今映画終わったばっかで疲れてるんすけど……そんな通知鳴らさないで』
伊織『うるさい。重大事項だから』
弘人『何ですか? 今やっと美術館三周目の途中なのに……』
一樹『いや、美術館の中でそもそもLINE良いんすか?』
弘人『まあ大丈夫』
伊織『で、要件ってのは』
一樹『ほんとだ抜けてる!』
弘人『何が起こったんだろ』
伊織『で、要件ってのは!』
伊織『明日、放課後、五時くらいに体育館の裏に来てほしいって言うこと』
弘人『なぜに』
伊織『ええっとね、事情を説明するのは後にして、まずは何をするのか言うよ。ちなみに、多分これが最後のゲームになると思う。ぴえん』
一樹『なんすか』
伊織『記念すべき十回目、そしてラストゲームは「鈴川早織への愛の誓い」です』
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