ゲーム8:うぃずらぶクッキング選手権⑤
いよいよ健吾の番が回ってきた。
「どうだったか?」
「いやぁ、もうめっちゃ良いっすね。最高の出来っす」
「あ、そう? 良かったじゃんか。良い匂いするわ」
「ですよねぇ。やっぱり、僕の才能ってもんは……」
「はいはい。これならまあ誰でもお前の料理の腕には惚れるわな」
――料理の腕“には”ね?
「いやぁ、ホントにねぇ。健吾君は僕の素晴らしさを理解してないかと思ってたけど、全然そんなことないじゃないっすか。いやぁ、健吾君ぐらいっすよ」
全く気付かずに、一樹はひたすら調子乗っているようだ。
「ま、健吾君もねぇ、チャーハンせいぜい頑張ってくださいよ。普通に焦がしたりとか余計なことしなかったらね、美味しくできるはずっすから。簡単なでね、なんてったって。まさか、簡単な料理を焦がすはずないっすよね」
「……まあ、どうにか頑張るよ」
「まあチャーハンなんてね、そりゃあ美味しいとは思いますけど、まあそれだけですからね。さぁて、小鳥ちゃんたちは初心者丸見えの料理と慣れた人間のフレンチの違いが分かるかなぁーっ」
ルンルンと一樹は階段を駆け上がっていった。
――勝太と弘人で、なるべく一樹に調子乗らせてくれねぇと。
なんとか、俺が美味くて、愛を伝えられる最高の料理を作って、一樹の心をバキッとへし折ってやる。
「……それでは、いよいよラストバッターの登場となりました! エントリーナンバーフォー、豊沼健吾!!」
「ありがとうございます」
「さぁさぁ、そのレジ袋の中には何が入ってるんですか?」
「まあ、色々と。ニンジンとか米とかキャベツとかキムチとか、あと海苔とかですね」
「じゃあ、ズバリ何を作るんですか?」
「超絶旨いチャーハンを作っていこうと思います」
「ほぉ、超絶旨いという言葉が出ましたけど、よほどの自信が?」
「んー、まあそういうことは無いんですけど、色んな人に食べてもらう料理なんで、そりゃあ超絶旨いもの作らないとダメじゃないですか」
「おぉーっ、なるほどぉ。良い心がけですねぇ。まぁ、ネッチョネチョにならないようにね」
――一樹と同じこと言うじゃねぇか。
そう考えると、伊織先輩と一樹は良く似合うコンビなのかもしれない。これも、伊織先輩が一樹と早織ちゃんを付き合わせようという算段の理由の一つなのかもしれない。
「じゃ、作ってってくださーい。クッキングスタート」
まずは、自炊初心者のためのウェブサイトを見ながら、米をといでいく。
「あれれ? お米のとぎかたも分かんないのか。こりゃあ大変だわ。これから生きてけないよ? 大学どうするつもりか知んないけど、ヤバいと思うわ」
「んー。まあ料理初心者なもんで、これから勉強ですよ」
伊織先輩の言うこと全てにブンブン振り回されるわけにはいかない。
「いやぁ、初心者でもお米のとぎ方ぐらい知っとかないと。高校生でしょ? 小学校でやったでしょ、そんなの」
「いやぁ、勉強が苦手なんですよねぇ。サッカーしかしてこなかったんで」
「そうですかー」
まず第一ラウンドは健吾の勝ちだ。
米が炊け、その間に野菜や肉などの具を切り終えた。
「あとは炒めるだけか」
「そうですね」
「焦がしちゃダメよ?」
「分かってますよ。レシピ通りにやったらどうにかなります」
「ま、頑張ってくださーい」
まず、ラードを入れる。
旨い中華料理店のレシピでは、パラパラしていてこってりしたチャーハンを作るためにポイントとなるのがラードと鉄鍋らしい。ちょうど鉄鍋が伊織先輩の家にあったことがまた幸いだ。
ラードを広げると、次に卵を入れていく。
「おぉー。まあ、初心者にしては良いんじゃない?」
「ありがとうございます」
大事なことは、毅然とした態度だ。
卵ができてくると、すぐに米。卵も米も、香ばしそうな焼き色に変わってきた。
タマネギを入れ、また豚肉も入れていく。
――そろそろ、宝刀を解き放とうか。
「はい、まあじゃあもうすぐね、あの食べてくれる人が来るので、ちょっと待ちましょうか」
「了解です」
「あ、その前にみんなの料理、見てみる?」
――見たら、一樹の料理にみんな圧倒されるだろうなぁ。
伊織は見た人、そして食べた人の反応を想像してニヤニヤしてしまう。
「もうじきピンポンなるかなぁ」
考えながら、私はテーブルに置いてある料理を持ってくる。
「じゃ、番号順に行くよ? まず、勝太君。オムライス」
出したのはI LOVE YOUとか早織ちゃん推しとか色々な文字を書きすぎて、ほぼ真っ赤っ赤になっているオムライスだ。チキンライスが少し出ているし、ネチョネチョだし。
「うわ、ケチャップまみれ……」
これには、一樹だけではなく全員が渋い顔をした。
次に、弘人の牛丼。
「おぉーハート型」
紅ショウガをハート型に並べている。思っていたより美味しそうではある。
で、次、一樹のサーモンムニエルである。
「うわぁっ!」
「え?」
「ヤバッ!」
フフフフフ、と私はほくそ笑む。三種類のソースがかかった赤いサーモン。これをまさか一樹が自分で捌いた、なんて言ったらもう三人とも気絶してしまいそうだからやめておこう。
「で、最後に……」
健吾のチャーハンを取り出そうとすると、思わず私は固まってしまった。
「……え」
目を話しているスキにこんなことをしていたとは……。
取り合えず、皿を持ってテーブルに持っていく。と。
ガチャガチャン、ガチャガチャン、ガチャリ
「……ヤバッ、隠れて!」
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