リーズニング:早織の推測
電車で一駅のところにあるアウトレットに高校の友達三人と行って、そして服を選んでいた。十時に家を出て、十時半ごろに電車に乗車、そして十時四十分前くらいに着いた。それからアイスクリームを食べたりもしながら服を選んで、あっという間に十二時に。
いよいよ購入しようと思ったその矢先、私は財布がないことに気付いてしまったのだった。
友達には待ってもらおうと思っていたのだが、なぜかついてくると言い出して一緒に付いてきてもらった。玄関に待っていてもらって、私は鍵を開ける。
「……ヤバッ、隠れて!」
なぜか、お姉ちゃんの甲高い声が聞こえた。ドンドンドンと、大きな足音が聞こえる。
ガチャリ
「お帰りぃ、早織。早かったじゃない」
「いや、財布忘れちゃって。それで友達にお金借りるのも悪いから取りに帰ってきたわけ。……ところでさ」
「はいはい?」
「なんかさ、『隠れて!』みたいなこと言わなかった?」
「ん? 何それ」
とぼけてる。完全にとぼけてる。しかも、なんか奥でガサガサガサガサ物音がしている。
「……まあ、トリマ上がるわ」
「あ、ええっと財布だったね?」
「うん」
「紫色のやつよね?」
「そうだけど」
「取ってくるわ」
「いや、自分で取ってくる。大丈夫だから」
「まあ、いつもの机の上でしょ? そもそも、なんでスマホ決済使わなかったんよ」
「いや、結構大人買いしようと思ったから、足りなかったんよ。最近始めたばっかりだしさぁ」
「あ、そう? まあ、いいわ。ひとまず持ってくるからさ」
――怪しいな!
「分かった、じゃあ持ってきて」
「了解!」
ほっとしたのか、伊織はニコッと笑って階段を上がっていく。
「今だ」
靴を脱ぎ、ダイニングにソロソロと向かう。お姉ちゃんに見つかった時の言い訳も考えながら。
「……え?」
料理?
四つの料理が並んでいる。ケチャップでぐちゃぐちゃのオムライスと、紅ショウガでハート型が作られている牛丼と、なにやら美味しそうな三種類のソースがかかっているフレンチらしいサーモン、そして良い香りがする、キムチなどが添えられたチャーハン。
――姉ちゃん、料理好きだったっけ?
良く見ると、ケチャップまみれのオムライスには「I LOVE YOU」とか「愛してる」とか書いてある。
さらに、牛丼の紅しょうがのハートはもちろん、チャーハンには「大好きです」という文字の形で切り抜かれた大きめの海苔が乗っている。
「……なにこれ」
いくらなんでも、全く合わなさそうな料理四つも作る意味はない。誰か別の人が作ったとか? さっきお姉ちゃんと玄関で話していた時に、ガサガサと言っていた音は……?
私への何かのプレゼントなのだろうか、と一瞬思ったが、誕生日はあと四カ月先だ。
「……変だ」
「おーい早織。持ってきてあげたよー。……ありゃ。なんで」
血の気が引いたみたいな表情をしている。
「いや、こっちこそなんで? だよ。なに、この料理」
「あ、これはさ……友達がね、ちょっと今日誕生日でさ。今日誰もいないから、色々料理作ってあげようと思って」
「なるほど……」
――ホントかよ? 家では全く動かないズボラのクセに!
「でもさ、こんな色んなもの作る? しかも、四つ中三つは主食じゃん」
「いやぁ、それがさぁ、その子がさぁめっちゃ食べる子なのよ。それでさ」
「ふーん……」
と、その時だった。
「いてぇっ!!」
――もしや?
この声、どこかで聞いたことある。というか、聞きなれた声。
「さっきの声は何?」
「さっきの声って?」
――とぼけるな! 明らかに青い顔してるくせに!
それでも、これ以上追及してもこの姉のことだ、のらりくらりとかわされるに決まってる。
「……ま、行ってくるわ」
「了解」
やっと、伊織の顔に血が戻って来た。
再び電車に乗って、アウトレットを目指すわけだが、最初に乗った時と気分は全く違う。心の中に霞がかかったような感じだ。それも分厚い。
「……あれ、絶対勝太君の声だった」
聞き間違えるはずがない。この前沈黙のコーヒーカップを共に過ごしたばかりなのだから。
「……これはまた、お姉ちゃんの悪い癖が発動してるんじゃ……?」
私が中学一年生のころ、その時三年生だった生徒会長のお姉ちゃんは、勝太君が大好きだった女子五人を集めて、様々なことで『誰が一番勝太の彼氏にふさわしいか』『誰が勝太に告白する権利があるか』というのをしていたらしい。そして、それは決着がつかず、最終的に全員が降られるという結果で終わったそうだが、その時のお姉ちゃんの笑いようと言ったら……。
さらに、私が小学生五年生の頃……お姉ちゃんが一年生のころに、恋愛相談というものを四月一日、エイプリルフールに行い、わざとフラれそうなアドバイスをして、次々と破綻していったということがあった。
で、もちろんそれを見てお姉ちゃんは笑い泣きまでしていた。
それの意地の悪いところは、自分が気に入っていた子と、相談料金を個人的に払ってくれた子にはしっかりと結ばれるようなアドバイスをして、見事カップルを誕生させていたことである。
――つまり。
お姉ちゃんは、今度は誰だか知らないがそれこそクラスの美女をめぐる勝太君らの争いを仲介して、また告白する権利を有する者を決める、みたいなことをしているのではないか?
前に、少しだけ見えてしまったLINEグループと、なぜか勝太君や健吾君、弘人君と会話させられたということが、そのことを物語っているのではないだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます