ゲーム8:うぃずらぶクッキング選手権④
「弘人君弘人君、今これは何を混ぜてるのかな?」
「ええっと、水と醤油とみりんとショウガと顆粒だしの素、砂糖、それと酒ですね」
「あ、未成年飲酒」
「……ここで言う酒って、料理酒だってこと、理解できますよね?」
「はいはーい」
畜生、なかなかこれは耐えるのが厳しいゲームになりそうだ。
料理サイトに載っていた給食の栄養士さんのレシピに従って、弘人は鍋に適量で適合した調味料の液体を入れた。
「タマネギ……櫛形って何よ、櫛形って……」
「あれ、そんなもの分かんないの?」
すかさず先輩の横槍が入ってくる。
「いや、分かりますけど……」
「じゃ、そんなこと言わずに、まずは洗って皮を剥く! 料理初心者でも洗って皮剥くくらいはさすがにできるでしょ? さすがに、ね?」
――クーッ。腹立つーっ。あーキレてぇーっ。
だが、言ってることは正論なので、僕は伊織先輩に敗れたという屈辱を噛み締めながら玉ねぎを剥き始めた。
「あーあ、もうタマネギ、完全にボロボロじゃん。ちゃんと綺麗な櫛形切りができるまで、これから毎日タマネギの櫛形切り練習しないとだわな」
「はいはい……」
――落ち着け、落ち着け自分。どうせこの人もズボラそうに見えるから大して料理できねぇって。な? な?
タマネギを煮込み、牛肉をある程度切って投入する。
「『弱火で十五分間ほど煮込んで、それを綺麗に持ったら完成です』よし、あとはもうゆっくりできるか」
「……あ、あんたバカなの?」
笑いをこらえているのか、伊織先輩はヒックヒックとしゃくっている。
「何がですか?」
「ちゃんとレシピ見ないとねー、アクを取らなきゃいけないのよ、アクを」
――アク?
「仕方ない、おたま持ってきてあげるから、どうせおたまを使うことも知らなかっただろうからさ。感謝してよ? 特別に手伝ってあげてんのよ?」
「……ありがとうございます」
ここは、逆らっても意味がない。あえて平気な感じに見えるように大きな声で言ってみる。
で、そもそも、アクの取り方が分からないとは言えないから、こっそりとアクの取り方を調べてみる。――というか、そもそもアクが何か分からないのだが。
「なるほどね……」
「んん? アクって何か知らなかったか。あーそっかそっか。まあ、一個勉強になったよね、うん。はい、分かりまちたか?」
「……」
背後で、まるで山姥のような笑い方をしている伊織先輩を前に、僕はぐうの声一つ出なかった。
――気をつけろよ、だって? 笑わせてくれるねぇ、弘人君も。伊織先輩は僕の見方なんだから、ねぇ?
一樹は渋い表情をしながらのそのそと階段を上がっていく弘人を一瞥し、キッチンに入った。
「はい、一樹君。一樹君は料理が得意ってことですけどぉ、何でですか?」
「ええっと、両親が共働きなんで、兄と二人で夜ご飯食ったりなんてのがあるんですよね。フレンチとか作ったりして」
「おぉーカッコいい! フレンチかぁ、すごいねぇ。いやぁ、さすがは一馬君の弟だわ」
一馬の弟というだけで褒められるのは何かすっきりしない。別に兄はスーパーマンではないのだ。
――あ、そういや伊織先輩は兄のことが好きだったんっすよね?
少しイラっとしたところはあるが、先輩の恋心と兄の存在を上手い事利用すれば、僕が早織キュンと結ばれるときは近づくはずだ。
「おぉ! すご! え? 魚? サーモンじゃん、これ多分」
「そうっすね」
取り出した釣られたままのサーモンを前に、伊織先輩は興奮してる。
「え? サーモンで何作んの?」
「ムニエルっすね。それにソースとかでみたいな……」
「刺身でよくない?」
「いやいや、そんなのしっかり捌かないと意味がないじゃないっすか」
「おぉ、かっけぇッ。これは私の妹の婿になるに間違いない人間だわ」
「ですよねっ」
「もちろん」
やはり、五十嵐和樹という人間の素晴らしさを分かってくれる人は皆良い人に決まっているのだ。
「……さぁて、捌いていこうと思いまーす」
「おっ、男前!」
「でしょでしょ」
僕はサーモンの腹の部分にそっと包丁を入れた。そして、内臓の部分を取り出していく。
もうすぐしたら、僕はこのサーモンで早織キュンたちのハートを取り出し、我が物にすることだろう。
「一樹、何やってんだ?」
ふと言い出したのは勝太だった。
「何やってんだって、料理してるんでしょ?」
僕が応える。
「勝太、言いたいことは分かった」
健吾は何か分かっているようだ。
「どうしたの?」
「弘人、お前はまだ分かんねぇのか? どう考えても、伊織先輩は一樹を気に入ってるようにしか思えない」
「そうかな?」
嘘ではなく、本当に分からない。
「じゃあ、考えてみろよ。一回、何のゲームだったかは忘れたけど、勝った勝太の点が全く上がらずに、なぜか一樹の点数が上がったことがあったろう?」
「……そういえば」
「今回のゲームだってさ、俺たち全員料理下手じゃんか。ドが十個付くほどの素人だ。それに比べ、奴はフレンチを作ることができると。これは、伊織先輩が一樹を勝たせるために、わざと一樹が得意な料理のゲームにした、とは考えられねぇか?」
「……なるほど」
今まで気が付かなかったことが、健吾の説明で急に理解できるようになってきている気がする。
「しかもだ。伊織先輩が、一樹の兄ちゃんの一馬先輩のことが大好きだって言う噂もある。伊織先輩のことを良く知る人に聞いても、『五十嵐先輩のことが好きだってさ』って言ってた。そして、一樹はその先輩の弟。早織ちゃんは伊織先輩の妹だ。これってさ、一樹を利用しようとしている、としか思えなくないか?」
「利用しようとしてる、ってのはどういうことだ?」
熱弁をふるう勝太に、眉をひそめながら健吾が聞く。
「……そうだな。例えば、一樹に金を渡して、『早織と付き合わせてあげるから、あんたは一馬君が私のことをどう思っているかとか聞いて?』ってことを吹き込んでるとか」
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